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米金融システムに激震の予兆、年度末まで1ドル=101~106円に

明治安田アセットマネジメント チーフストラテジスト / 杉山 修司
週刊金融財政事情 2020年8月31日号

 4カ月前に本欄で「年後半の米国景気の力強い持ち直し」に伴う日米金利差拡大を想定し、円高圧力は限定的と考えた。しかしその後、新型コロナウイルスの感染拡大が止まらず、年後半の力強い景気回復は期待薄となった。米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長も景気認識を改め、7月会合の会見で「われわれの生涯で最も厳しい景気悪化」と述べた。ドル円相場は今後、円高に向かうだろう。

 最大のドル下落要因は、「コロナ禍の需要減で債務者の破綻、ひいては銀行不良債権の増加が避けられない」(クオールズFRB副議長)事態となったことだ。パウエル議長が「向こう数年間、デフレ圧力と戦わねばならない」と会見で述べたのは、金融システム不安を予見した発言と考えられる。

 4月に激減した雇用統計の非農業部門雇用者数は3カ月連続で増加し、景気持ち直しが始まったものの、職場復帰できたのは3人に1人のみ。なお1,300万人もの人々が職場復帰できていない(8月8日週)。たとえ景気が持ち直しても、結果的に「職場復帰できない人々は数百万人規模」(パウエル議長)に達するとみられる。コロナ禍で総需要の何割かが消失したため、以前の雇用水準に戻れなくなったのだ。

 では、職場に戻れず収入を断たれた人々に住宅ローン等を融資している金融機関は一体どうなるのか。7月の米銀大手行の4~6月期決算発表時点では「まだ景気悪化の影響は(延滞率等に)表れておらず、表面化はこれから」(JPモルガン・チェース、ジェイミー・ダイモンCEO)であった。とはいえ、「住宅ローンなど家計向け融資だけでも170万件の返済が滞っている」(バンク・オブ・アメリカ)など、「激震」の予兆が明らかになっている。

 FRBの7月会合の議事要旨は、感染第2波によって金融機関が「貸し渋り」し始める恐れに言及し、「金融機関が経営難になりかねない」等、委員の多くが金融システム不安となるリスクに触れた。他のドル下落要因としては、米中対立激化による逃避的な円買いや、過去数年続いたドル高、ユーロ安の流れが逆転したこと等も挙げられる。

 一方、ドル下支え要因として、「ヘッジコストが低下したので本邦機関投資家の米債投資が増える」との声も聞く。確かに本邦機関投資家は、過去数年間にわたる米国景気、および日米金利差の拡大局面を捉え、米債投資を増やしてきた。しかし、コロナ禍で米債利回りがこれだけ低下してしまえば、国内債、とりわけ利回りが高めで信用力が高い投資適格(IG)社債への資産配分を高め始めると考えられる。外債投資は過去数年のような強い下支え要因ではなくなりつつある。こうしたことから、年度末までのドル円相場を展望すると1ドル=101~106円と円高方向を想定する。

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