天災を克服してきた米労働市場も新型コロナには苦戦
(米労働省「雇用統計」)
第一生命経済研究所 主任エコノミスト / 桂畑 誠治
週刊金融財政事情 2020年9月7日号
近年、米国で多発する自然災害は大きな被害をもたらしている。火災や寒波、洪水、ハリケーンに相次いで見舞われ被害額が最大となった2017年に続き、18年にはカリフォルニア州の山火事、ハリケーン(フローレンス、マイケル)の襲来、寒波などにより、被害額は過去4番目の規模となった。19年には、ミシシッピ川流域での洪水が200億ドルを上回る被害をもたらし、同年3月、5~7月のミズーリ川流域の洪水による被害額も20億ドル超。10、11月のカリフォルニア州の山火事による被害額は250億ドル程度となった。
このように17、18、19年と大規模な自然災害が続いたにもかかわらず、米国の雇用は拡大傾向を維持した。自然災害は局地的に起きるため、被害を受けていない地域で雇用の増加が続いたほか、レイオフ(一時解雇)された人も、職場が損壊していなければ職場復帰することが多いためである。
しかし、新型コロナウイルスの感染拡大においては、状況が異なっている。新型コロナは感染力が高い上、ワクチンや治療薬がないことから、感染拡大を抑えて医療崩壊を避けるため、全米でロックダウンなどの経済活動制限が実施され、雇用は急減した。図表のように、4月の非農業部門雇用者数(注)は前月差2,078.7万人減(3月は同137.3万人減)と1939年の同統計作成開始以降で最大の減少幅となった。また、4月の失業率は14.7%と48年1月の同統計作成開始以降で最悪。統計の作成方法は異なるが、30年代の世界大恐慌時(約25%)以来の高い水準となった。新型コロナは全米で被害が拡大しているため、影響が甚大となっている。
4月下旬以降5月20日までにロックダウンが段階的に解除され経済活動が再開したため、5月に雇用は増加に転じた。ただし、非農業部門雇用者数は3、4月合計で2,216万人減少したにもかかわらず、5、6、7月合計で927.9万人増にとどまった。また、失業率は7月に10.2%とコロナ危機前の2月(3.5%)を大幅に上回っている。新型コロナは速いペースで感染拡大を続けていることから、感染拡大を防ぐための規制などを継続しなければならず、労働市場の回復にはかなり時間がかかると予想される。
足元では、感染者数が全米最多のカリフォルニア州で大規模な山火事が発生しているほか、感染者数が急増している州にハリケーンが襲来。避難による3密状態の発生など、自然災害が感染拡大リスクを高め、労働市場の回復をさらに遅らせる恐れがある。
(提供:きんざいOnlineより)