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所得下支えの政策効果が縮小し、個人消費の回復ペースは鈍化

信金中央金庫 地域・中小企業研究所 上席主任研究員 / 角田 匠
週刊金融財政事情 2020年9月7日号

 2020年4~6月の米国経済は歴史的なマイナス成長を余儀なくされたものの、月次ベースで見た経済活動は、行動制限の期限(4月30日)が明けた5月から持ち直しに転じている。鉱工業生産や小売売上高の前月比が5月以降、3カ月連続でプラスに回復していることから、7~9月の実質GDPは3四半期ぶりにプラス成長に転じることが確実視される。アトランタ連銀の経済予測モデル(8月28日「GDPナウ」)によると、20年7~9月の実質GDPは前期比年率28.9%増と大きく持ち直す見通しである。

 一方で、経済活動の再開に伴って新型コロナウイルスの感染は再拡大した。7月半ばにかけて、フロリダ州やカリフォルニア州で第2波とみられる感染の広がりが確認された。足元では小康状態にあるが、気温が低下する秋口から年末にかけて感染拡大の第3波、第4波に見舞われる可能性もある。

 経済活動の持ち直しのペースもここに来て鈍化している。月次ベースの実質個人消費は、5~6月に高い伸びを示したものの、感染が再拡大した7月は一部地域で移動制限が実施されたこともあって、前月比1.6%増と小幅な伸びにとどまった。また、消費の原資となる可処分所得は、現金給付や失業保険の上乗せ措置によって押し上げられてきたが、その効果が徐々に弱まってきていることも影響している(図表)。7月末で失効する可能性があった失業保険の上乗せ措置(週600ドル)については、大統領令の発動で打ち切りこそ免れたものの、8月からは週400ドルに減額されており、今後は政策効果の縮小によって、家計所得への下押し圧力が強まるとみられる。年末にかけて個人消費の減速を主因に景気回復ペースは鈍化しよう。

 経済停滞の長期化リスクが高まるなか、米連邦公開市場委員会(FOMC)は8月27日、2%超のインフレを容認する「平均物価目標」の導入を承認し、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が同日のジャクソンホール会議でその狙いを説明した。声明文には「当面は2%を緩やかに超えるインフレ率を目指す」と明記されており、今後は一定期間のインフレ率が平均で2%となるよう金融政策を運営していくことになる。

 足元の物価上昇率が1%前後にとどまっていることを考えると、「平均物価目標」の導入によって、ゼロ金利政策はさらに長期化すると見込まれるが、物価目標の修正だけでは需給ギャップを縮小させて期待インフレ率を高めていくことは難しい。今後はどのようにしてインフレ率の押し上げを目指すかが課題であり、次回(9月15~16日)のFOMCから具体的な追加緩和策の検討に入ることになろう。

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(提供:きんざいOnlineより)