日本には大手から中小に至るまでさまざまな旅行会社があり、旅行業は若者を中心に人気の職種となっている。旅行会社と資格は無関係のように思われがちだが、実務との関連性は意外と深い。今回は旅行業の概要をおさらいしながら、関連資格について詳しく解説する。
旅行業者とは
世間では旅行会社という言葉が浸透しているが、正式には旅行業者という。文字通り旅行業を営む業者をさし、旅行業法によって定義されている。
具体的には旅行業法第2条に以下の記載がある。
この法律で「旅行業」とは、報酬を得て、次に掲げる行為を行う事業(専ら運送サービスを提供する者のため、旅行者に対する運送サービスの提供について、代理して契約を締結する行為を行うものを除く。)をいう(第1号~第9号は省略)
引用
旅行業法第2条
この条文から、旅行業には「報酬を得る」、「具体的な行為を行う」、「事業である」などの要素が必要といえる。
要素1.報酬を得る
報酬には複数の項目がある。運送業者や宿泊業者などがサービスを提供する代償として受け取る販売手数料、宿泊や交通の手配に対して受け取る旅行業取扱料金などだ。
要素2.具体的な行為を行う
行為を大きく分けると、基本的旅行業務、付随的旅行業務、旅行相談業務の3つになる。
基本的旅行業務とは、旅行の企画・販売・提供に関する業務である。付随的旅行業務とは、基本的旅行業務に付随する業務をさす。例えば、運送や宿泊以外のサービスに関して、サービス提供会社(個人)と契約するなどの行為である。
旅行相談業務とは、旅行費用の見積りをはじめ、旅行日程の作成や旅行に関する情報の提供、報酬の受け取りなどの行為だ。
要素3.事業である
具体的には、基本的旅行業務、付随的旅行業務、旅行相談業務を反復・継続して行うことを示す。したがって、業務を数回行った程度では旅行業とはいえない。
旅行業法の概要
旅行業法は、1952年に施行された法律である。旅行業の登録や営業保証金、旅行業に関する個別取引の公正を確保するための規制などを規定している。消費者に対して安全な旅行サービスを提供することが目的だ。
また、旅行業協会が適正な活動を行うために、苦情解決や研修、弁済業務などに関する規定も盛り込まれている。
さらに、2018年の改正によって、それまでの旅行業や旅行業者代理業に加えて、旅行サービス手配業についての条文が追加された。
国内と海外での違い
日本の旅行業法では、日本国内で旅行業を営む業者に登録を義務付け、旅行業を許認可事業として位置付けている。
しかし、海外では必ずしも旅行業を許認可事業とせず、法律に違反した場合の取り締まりや営業保証金の制度など、日本では当たり前の仕組みがないことも珍しくない。
規制の対象
インターネットの利用が当たり前となった現代では、外資系の旅行業者と契約を結ぶ機会も増えつつある。
この場合、日本国内に住む日本人と取引する旅行業者であっても、営業所が日本国内になければ旅行業法の適用外となり、旅行業の登録も必要ない。つまり、業者との間でトラブルが発生しても、ペナルティを科すことができないのだ。
旅行業の代表的な資格
旅行業者にとって最も代表的な資格が旅行業務取扱管理者である。営業所ごとに有資格者を1名以上配置し、管理・監督業務を行わせることが旅行業法で義務付けられている。
一般社団法人全国旅行業協会が、観光庁長官の試験事務を代行している。
旅行業務取扱管理者には、国内外で旅行業務を取り扱える「総合旅行業務取扱管理者」、国内旅行業務のみを取り扱える「国内旅行業務取扱管理者」がある。
加えて一定の区域内のみを取り扱える「地域限定旅行業務取扱管理者」が2018年1月に新設された。
旅行業務取扱管理者の職務
旅行業法施行規約第10条をもとに、旅行業務取扱管理者の職務をまとめると以下の通りになる。
- 旅行計画の作成
- 料金表の掲示
- 旅行業約款の掲示
- 取引条件の説明
- 契約書面の交付
- 広告の実施
- 旅程管理のための必要な措置
- 旅行に関する苦情処理
- 契約内容に係る重要事項に関する記録または関係書類の保管
- 上記以外に取引の公正、旅行の安全及び旅行者の利便を確保するために観光庁長官が定める事項
参考
旅行業法施行規約第10条
旅行業務取扱管理者の試験内容
参考に「国内旅行業務取扱管理者」の試験内容についてご紹介する。
「国内旅行業務取扱管理者」は、国内旅行業務だけを取り扱う営業所において、旅行業法の規定に従い、サービスの確実性、取引条件の明確性、取引の公正さ、旅行の安全や旅行者の利便性に資するために必要な管理、監督に関わる事務などを行う人をさす。
この資格試験は、毎年1回9月上旬の日曜日に実施されており、試験地は以下の通りだ。
- 北海道(札幌市)
- 宮城県(仙台市)
- 埼玉県(草加市)
- 東京都(都内3会場)
- 愛知県(名古屋市)
- 大阪府(吹田市)
- 広島県(広島市)
- 福岡県(福岡市)
- 沖縄県(那覇市)
受験資格の制限はなく、受験料は5,800円である。試験科目は以下の通りだ。
①旅行業法及びこれに基づく命令
②旅行業約款、運送約款及び宿泊約款
③国内旅行実務
国内旅行実務は、「運送機関及び宿泊施設の利用料金その他の旅行業務に関連する料金」と「旅行業務の取扱いに関する実務処理」の2つに分かれている
一般社団法人全国旅行業協会が実施した本年度または前年度の「国内旅行業務取扱管理者研修」の修了者は③の試験を受験しなくて済むなど、科目免除制度もある。
上記の「国内旅行業務取扱管理者研修」については、旅行業者または旅行業者代理業者で最近5年以内に3年以上勤務し、現在も旅行業務に従事している人が受講できる。
そのほか知っておきたい旅行業者に関する資格3つ
旅行業務取扱管理者のほかにも旅行業に関する資格がいくつかある。最後にそれぞれの概要を紹介していく。
旅程管理主任者
企画旅行に同行する主任添乗員(ツアーコンダクター)に取得が義務付けられている。旅行業務取扱管理者と同じく、総合資格と国内資格がある。
添乗業務ではツアー参加者に対してさまざまな対応を行う。企画旅行が滞りなく行われるために交通機関や各種施設と連携し、旅程を管理する仕事もある。
資格取得には、観光庁長官の登録を受けている機関が実施する旅程管理研修を受講したうえで、一定の実務経験が必要だ。
研修の修了前後1年以内に1回以上、あるいは研修の修了後3年以内に2回以上実施された実務が対象となる。
研修期間中には修了テストが実施され、試験内容は以下の通りである。
- 旅行業法・約款
- 国内添乗実務
- 海外添乗実務、添乗外国語(英語)
合格基準は、各科目で60%以上の正答率が必要だ。
全国通訳案内士
外国語を用いながら外国人に付き添い、旅行の案内して報酬を受け取るのに必要な資格である。
語学力が必要なことはいうまでもなく、日本の地理、歴史、産業、文化などの幅広い知識・教養が求められる。
毎年、8月下旬に筆記試験(一次試験)、12月初旬~中旬に口述試験(二次試験)が実施され、選択対象の外国語は10種類ある。
筆記試験の内容は、外国語、日本地理、日本歴史、一般常識である。合格基準は外国語、日本地理、日本歴史が70点(100点満点)、一般常識が30点(50点満点)だ。
観光英語検定
外国人とのコミュニケーション能力を図るための試験で、旅行・観光業務に必要な英語力を判定する。
試験内容は、空港やホテル、観光、食事などの場面を想定したもので、世界各国の文化や習慣、国際儀礼の知識も出題される。
受験区分は1級、2級、3級に分かれ、試験は毎年6月と10月の2回実施されている。各級で筆記試験のほかにリスニングテストがある。
以上、旅行業に関する資格をご紹介した。いずれも旅行業に携わるうえで役に立つものばかりといえよう。これから旅行業に従事する方や、旅行業に関するスキルを高めたい方は、今回お伝えした資格の取得を検討してみてほしい。(提供:THE OWNER)
文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)