今回は、「イギリスのセキュリティトークンに関する法規制や取引所ビジネスの展望」について解説し、「Archax」の取り組みについて考察していきます。

Financial Conduct Authority(FCA)は、イギリスの規制当局としてブロックチェーンテクノロジーを活用した証券のデジタル化への取り組みに中立的な立場で監督を行っています。

STOnline
(画像=STOnlineより)

日本では、改正金商法のもとで株式や社債と同様の開示規定が求められるなどデジタル技術を活用した資金調達の効率化には厳格な法整備を実施しており、

・不動産領域の流動性向上に向けて不動産特定事業法に準拠したSTO関連サービスの提供
・大手金融グループによるデジタルアセット債の発行、アスパラガストークンなどユニークな金融商品の社内向け実証
・シンガポールにおける東京の不動産担保デジタル証券の取引所上場計画
・ケイマン法人を設立し米国SEC免除規定RegulationDに準拠したSTOの実施
参考:https://stonline.io/japands/

といった改正金商法とは異なる法的枠組みでの事例が相次いで発表されており、「デジタル証券」といった名称でこれまで証券化されてこなかったアセットのデジタル化が大きな注目を集めています。

英国においても先月、「Archax」がセキュリティトークン取引所の開設を発表し、世界で初めてFinancial Conduct Authority(FCA)の認可を受けた取引所ビジネスであることからヨーロッパ市場活性化への期待が寄せられています。

目次

  1. イギリスのセキュリティトークンに関する法規制
  2. セキュリティトークン取引所ビジネスの展望
  3. デジタル証券(セキュリティトークン)取引所「Archax」の取り組み
  4. まとめ

イギリスのセキュリティトークンに関する法規制

イギリスでは、トークンが「シェア(share)」または「債券(debenture)」を担保とし、同様の特性を有している場合には、「Specified investment(英国で規制されている投資)」と定義されます。

トークンがMiFIDのもとで譲渡可能性に制限がある証券とみなされた場合にも英国の法規制で「Specified investment」と定義される可能性についてもFCAは監督しており、目論見書の提出によって「transferable security(譲渡可能な証券)」の公開や取引の認可を行っていることから日本や米国と同様にセキュリティトークンの発行・取引にはある一定の開示規定が設けられています。

※米国ではSEC登録免除規定Regulationに準拠したSTOが一般的であり、投資家・調達金額に制限を設けることで私募市場での資金調達をしやすい法的枠組みが設けられており、日本でもよりきめ細やかな法的枠組みの制定に向けて新経済連盟が2019年に要望書を提出するなどセキュリティトークンに関する法整備に向けて議論が交わされています。

・英国の目論見書免除制度

1 「適格投資家(qualified investors)」(プロ投資家)にのみ提供される場合
2 欧州経済地域(EEA)の国ごとに150人未満を対象する場合
3 最低投資額が100,000ユーロである場合
4 提供されるセキュリティトークン/譲渡可能な証券の調達金額の上限が100,000ユーロである場合
5 英国でのみ行われ、調達金額の総額が800万ユーロ未満である場合

といった場合には英国においても目論見書の作成/公開を要求されない免除規定が設けられています。

そのため英国においてセキュリティトークン発行による資金調達を行う場合には発行企業は調達目標金額を800万ユーロ未満に設定するなどして、より円滑なSTOの実施を行うケースが多いと考えられます。

STO市場において日本は米国と大きな差が生まれているとマネックスグループの松本CEOは指摘しており、証券のデジタル化への取り組みを活性化する上でも法規制のあり方は市場の形成/発展を左右する非常に重要な要因であると言えます。

少額募集による実験的な取り組みなど資金調達市場におけるデジタル技術の利活用を推進することも市場の発展には必要であり、実証を通じた法規制のあり方の見直しなど、中長期的な取り組みがより良いデジタル資本市場の形成に繋がることでしょう。

セキュリティトークン取引所ビジネスの展望

セキュリティトークン取引所ビジネスを考察するにあたっては、どのように取引量・上場数を増やし、手数料による収益を拡大していくかが重要であると言えます。

プライベートエクイティ投資の流動性向上
ブロックチェーン技術を活用した新たなデジタル新興市場の開拓
これまで証券化されてこなかった資産の取引

上記のようなメリットをセキュリティトークン取引所はもたらすとされていますが、市場規模が小さいことからより多くの銘柄の上場、取引量の増加が重要なフェーズにあります。

そのためにはまず、積極的に企業がSTOをプライマリーで実施できる法整備が各国において必要となりますが、未公開株式のセカンダリー構築にはその国の資本市場の成熟度も大きく起因しているとも考えられます。

米国でATSを展開するtZEROにおいては親会社であるナスダック上場企業「OverStock」の急成長に伴い、上場していたセキュリティトークン(優先株式)の取引高が増加した事例が確認されており、上場・未公開と問わず成長が見込まれる企業のセキュリティトークン発行が市場の拡大を後押しすることでしょう。

最近ではゴールドマンサックスが独自トークンの発行を示唆する発表を行うなど、デジタルアセット市場への関心が高まりを見せており、分散型取引所Uniswapが米国の大手暗号資産取引所Coinbaseの24時間の取引量を上回るといった事例も報じられています。

セキュリティトークンの普及は、証券市場における新たな新興市場を形成することが見込まれますが、より自由度の高い市場形成に向けては

法規制に準拠した収益配当権のトークン化(米国クラウドファンディングPF「Republic」):株や社債のみならず、様々な権利のトークン化事例の創出

Defi市場との接続:Uniswapでの米国LCCスキームでRegSに準拠したRealTの不動産トークン取引の事例など

といった取り組みも重要であると考えられます。

冒頭に記載した通り、相対的に厳格な法規制を設けた日本でも積極的に様々な権利のトークン化の実証が行われており、そのような市場環境の中で、取引所の開設は新たな可能性を追求する場の提供など、セキュリティトークン市場の今後の発展を促進すると考えられます。

デジタル証券(セキュリティトークン)取引所「Archax」の取り組み

「Archax」は、FCAからデジタル証券(セキュリティトークン)取引所、カストディアンとして認可を受け、機関投資家とデジタルアセット市場を繋ぐグローバルな金融市場の形成への取り組みを進めてきました。

同時に5MLDへ準拠することを目的に今年から導入されている「FCA cryptoasset registration」としても認可されたことからVASP(暗号資産サービスプロバイダー)としても活動が許可され、伝統的な金融市場で豊富な経験を積んだメンバーが参画しています。

取引所システムにはR3 Cordaブロックチェーンが使用されており、SME成長市場におけるMTF(多角的取引システム)として機能する他、brokerage permissions(仲介の許可)も受けていることから「初めて規制されたデジタル証券(セキュリティトークン)取引所」として英国市場においても重要な役割を果たすことが期待されます。

すでに35個のデジタル証券発行プロジェクトのパイプラインが整っているとされ、2018年6月の機関投資家向けデジタル証券取引所の発表から様々な取り組みを経て、FCAからの認可に漕ぎ着けた経緯をまとめてみました。

2018年8月:KYC/AMLサービス提供に向けてCustom Houseと提携
2018年9月:Aquis Matching Engine / Surveillanceと提携
2019年2月:SPiCE VCからの出資
2019年3月:注文管理・ルーティングシステム構築に向けてQuod Financialと提携
2019年3月:Tokenyとセキュリティトークン取引連携に向けた提携
2019年4月:銀行サービスにClearBank©を指定
2019年6月:Smartlandsとセキュリティトークン取引連携に向けた提携
2019年7月:セキュリティトークン取引市場の形成に向けてGlobacapと提携
2019年7月:Unbound Techとデジタルアセットカストディサービスを開始
2019年10月:ブロックチェーン株式登録機関HighCastleと提携
2019年10月:R3 Cordaブロックチェーンを取引プラットフォームに採用
2020年1月:VALK(ex-Value on Chain)と提携
2020年2月:PolymathとST20プロトコルに準拠したトークンのサポートに向けて提携
2020年8月:FCAからデジタル証券(セキュリティトークン)取引所、カストディアンとして認可を受ける
2020年8月:Algorandと「smart financial products」の開発に向けて提携

参考文献:https://www.archax.com/news

特筆すべき点としてはやはりAlgorandとの提携が挙げられ、「DeFiに対応したテクノロジーの活用による新たな金融商品(デジタルアセット)の組成」(ステーブルコイン、リキッドオルタナティブ、レンディングetc,,,)への取り組みは従来のデジタル証券(セキュリティトークン)取引所の機能をより拡張するとも想定され、デジタルアセット全体の取引市場の形成など大きな期待が寄せられています。

Algorandは、ブロックチェーンのトリレンマを解決する優れた技術力を有し、TezosやChainlinkといったプロジェクトとともにブロックチェーン3.0時代を担うインフラストラクチャへの採用が行われており、「Archax」との連携はデジタルアセット市場に新たな可能性をもたらすことでしょう。

まとめ

すでに米国ではナスダックプライベートマーケットなどプライベートエクイティ取引所が存在し、その流動性の向上のメリットを投資家、企業の双方が享受していますが、米国と比較すると他の国では資本市場の規模自体が小さいためプライベートエクイティ市場そのものの構築・拡大が必要な場合もあります。

これまでは、セキュリティトークン取引所の存在がプライベートエクイティ市場の流動性を向上させ、取引を活性化させると想定されることもありましたが、実際には法律による規制やそもそも株式や利益配当権をデジタル化してセカンダリーで取引させるメリットを企業側が享受できないと言った観点から市場の発展は緩やかなものになっています。

セキュリティトークン取引所は証券のデジタル化を担う反面、暗号資産市場からの投資家の獲得といったメリットも兼ね備えており、その可能性は多くの投資家を惹きつけるには十分なものでしたが、担保とされる資産が証券である以上、自由度の高い市場形成は今後も難しいと考えられてきました。

「Archax」と「Algorand」の提携によるデジタルアセットへの新たな取り組みは、従来のセキュリティトークン取引所ビジネスに新たな可能性ももたらすと考えられ、ヨーロッパの金融の中心地であるロンドンを拠点により良い市場形成を支える原動力として今後の取り組みに期待が寄せられています。(提供:STOnline