セキュリティトークン市場においてはtZEROの子会社である「tZERO Market」がFINRA(金融取引業規制機構)からブローカーディーラー(取引仲介業/以下、BD)ライセンスの承認を受けました。

STOnlineより
(画像=STOnlineより)

これによりアイダホ、ニューヨーク、ケンタッキー、ロードアイランド、ミシガン、ユタ州での取引仲介業を展開することが可能となり、業務を自社で内製化することによって新たなビジネスモデルの構築が期待されます。

デジタルアセット企業によるBDライセンス取得については、昨年の7月にFINRAと米国SEC証券取引委員会が共同で声明を発表するなど、投資家保護の実現に向けて、規制当局との継続的な協議が必要とされてきました。

・「Customer Protection Rule」として知られるRule15c3-3に準拠し、顧客資産の分離保管などセキュリティトークンを安全に管理する体制の構築

・BDに障害が発生し資産を失うなどといった有事の際に最大$500,000の返金補償を顧客が受けることを定めた1970年証券投資家保護法(SIPA)への準拠

上記のように法的要件に準拠したカストディ業務がBDライセンス取得には重要であり、従来の証券と技術的なメカニズムとリスクに大きな違いがあるセキュリティトークンをどのようにして安全に取り扱うかFINRAは規制当局としてその監督を行っています。

tZEROはBDライセンス取得後には、セキュリティトークン取引事業の他にも株式等の伝統的な証券を取り扱う計画を今年の4月に発表しており、投資家の増加や多角的な経営による収益構造の改善など、さらなる事業拡大が予想されます。

目次

  1. 米国プライベートエクイティ投資市場にSTOは必要?
  2. tZEROについて
    1. ・調達金額 リード投資家
  3. 米国プライベートエクイティ投資市場にセキュリティトークンは必要?
  4. tZEROがAspen Digitalと提携|セキュリティトークン「ASPEN」上場へ
    1. ・tZERO 2019年までの歴史

米国プライベートエクイティ投資市場にSTOは必要?

「二極化」は、資本主義の構造的欠陥と考えられてきましたが、混乱を極める現代社会の中で、どのようにセキュリティトークンが活用されていくのか、プライベートエクイティ投資市場の動向を踏まえて、考察していきましょう。

セキュリティトークンを発行する企業のビジネスモデルや事業の新規性、成長性に関するデューデリジェンスは一般投資家には難しく、機関投資家が投資し、1年間のロックアップ(譲渡制限)期間を経て、セカンダリーマーケットで取引といった一連のプロセスが市場の健全性を保つためにも望ましいとされてきました。

機関投資家の多くは企業のROICなど資本効率性指標を参考に投資先を検討し、プライベートエクイティ投資においては新規性や成長性を加味した上で、投資判断を行います。

プライベートエクイティ投資は株式市場に流通している上場企業の株式に投資するよりもリスクが高いことを踏まえ、セキュリティトークンの発行には1年間のロックアップ(譲渡制限)がRule144に基づき米国では課されており、各国においても新たな投資商品としてどのような法律のもとで取り扱いを行うのか多くの議論が交わされています。

投資家保護と市場の健全性を目的として規制当局はセキュリティトークンに関する法整備を目指していますが、近年ではIPOによって大きなリターンを見込めるプライベートエクイティ投資市場が拡大し、「IPOゴール・オーバーバリュエーション」といった現象も確認されています。

また、上場市場においてもGAFAM銘柄に投資が集中し、その他の上場企業の格差が生まれており、資本主義の構造的欠陥とどのように向き合うべきなのか、実体経済への回帰について多くの議論が必要であると言えます。

2020年現在においてグローバルな展開を見せているセキュリティトークン企業の多くは、発行・管理・取引におけるコンプライアンスを重視し、より効率的な証券市場の実現に向けて規制当局との協議を継続して行っています。

投資家の多くは成長が見込まれる新興産業への投資や割安な株式への投資によって、中長期的な運用を行う一方で、2009年から現在にかけては新たな投資商品として暗号資産にも多くの資金が流れ込みました。

アンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)は「The Crypto Price-Innovation Cycle」の記事の中で、2011年、2013年、2017年の3度のピークには一貫したサイクルが存在したことを明らかにしており、2020年5月現在においてはこれまでリスク資産とされてきたビットコインが、金融緩和・財政赤字を見越して、逃避資産として認知されてつつあります。

ビットコインは、株式市場との相関性が低いことから近年ではリスク資産の1つとして投資ポートフォリオへ組み込まれるなど、新たな投資商品としてその価値が再評価されつつあります。

また、これまで非流動的だった実物資産がトークン化されることで、2024年までに投資家のポートフォリオは大きく変化することを示唆する声もあがっています。

現在、多くの企業が資本効率の向上を目指し、日本でも2014年に発表された「伊藤レポート」をきっかけにROEを意識した経営の実践に取り組む企業も増えてきている一方で、これまでの株式や社債とは異なるアセットクラスの登場は今後の証券市場にどのような影響を及ぼすのでしょうか?

tZEROについて

(画像=tZERO)

tZEROは、「Revolutionizing Capital Markets」を掲げ、証券市場がブロックチェーン技術を使用してセキュリティトークンを発行および取引することを目指しています。

トークンの概念は既存の市場メカニズムの中では異端であり、投機によって多くの投資家が損害を被った歴史があります。

セキュリティトークンは各国の法規制に準拠した有価証券をトークン化したものであり、より健全な形で証券市場にブロックチェーン技術を導入することができるとされています。

すでに金融機関でもブロックチェーン技術の採用が行われており、分散型金融市場インフラ(dFMI)の開発を手がける英国のFnality(エフナリティ)では

  • 各国の法定通貨とペッグしたステーブルコインの発行
  • 既存の銀行間で行われているコルレスバンク決済の維持
  • 中央銀行当座預金の利用

といった中央銀行・金融機関システムとの連携を前提とし、ピアツーピアのトークン市場の実現をめざしています。

証券のみならず資本市場全体の非流動資産の流動・効率性を高める上でもセキュリティトークンは非常に有用性の高い新たな概念であり、現在はその技術的な安全性と実用性を検証するフェーズにあります。

これまで各国の企業がブロックチェーン技術を活用して発行プラットフォームや取引所システム、プロトコルを開発し、コンプライアンス業務の自動化や投資家管理サービスを提供できることは証明されています。

しかし、市場に投資家を引き寄せ、セキュリティトークンが投資ポートフォリオに組み込まれ、従来の証券市場のように活発な取引が行われるためには新しい市場プロセスの策定と安全で堅牢な取引システムの構築が必要不可欠です。

tZEROは、新規性の高いセキュリティトークン市場の先駆的な企業として知られ、2020年5月現在、$147M(1億4700万ドル)の資金調達に成功しています。

・調達金額 リード投資家

2020年2月5日 Debt Financing $100M Neuberger Berman Group

2019年5月24日 Series A $20M New Enterprise Associates (NEA)

2018年11月17日 Venture Round $16M Eniac Ventures

2017年10月23日 Seed Round $8.5M Eniac Ventures

2016年9月20日 Seed Round $2.5M Eniac Ventures

IPO前の企業への投資市場は60億ドル以上の取引量を記録する一方、米国においてはSharesPostとForge Globalの統合が発表されるなど、新たな展開を迎えています。

NASDAQ Private Market、EquityZen、Cartaといったプライベートエクイティ取引プラットフォーム間の競争は激化する一方で、ブロックチェーン技術を導入したATSであるtZERO・OpenFinanceNetworkはどのようにしてその地位を確立するのでしょうか?

米国プライベートエクイティ投資市場にセキュリティトークンは必要?

セキュリティトークン市場においては確固たる地位を築いているtZEROですが、ブロックチェーン技術を導入した取引所システムは他の取引所が不当な競争を強いられるとしてNASDAQからはボストンセキュリティートークン取引所(BSTX)の設立に反対の声もあがっています。

※ ボストンセキュリティートークン取引所:ATSではないSECに正式に規制された取引所として承認を待っています。tZEROの合弁会社なので、どのような棲み分けがなされるのか将来的な競合になるのか気になるところです。

Fnality(エフナリティ)と同様に既存金融との共存を図ることが、ブロックチェーン企業には重要であると考えられますが、暗号通貨、セキュリティトークンおよび株式取引プラットフォームとして規制当局からの承認を待っているアプリ「tZERO Crypto」やセキュリティトークン取引所「tZERO ATS」の取扱銘柄の増加および証券会社(ブローカーディーラー)との連携には大きな期待が寄せられています。

米国においては「tZERO」などセキュリティトークン取引所での取引高が増加しない背景に1年間の譲渡制限があるとされてきましたが、NASDAQ Private Market、EquityZen、Cartaといったプライベートエクイティ取引プラットフォームでの取引が行われている現状を考慮すると、米国資本市場における「tZERO」の将来性は非常に明るいのではとも推測されます。

これまでの証券市場の常識を覆す

  • FRBによる無制限の量的緩和
  • GAFAMによる富の独占
  • 上場市場の存在意義の見直し

といった事象が確認される現在においては、グローバルなプライベートエクイティ取引市場の必要性も高まるのではとも考えられます。

証券会社tZERO Markets設立や上場企業の増加など、「tZERO」の取り組みがプライベートエクイティ投資市場にどのような影響を及ぼすのか、非流動資産のトークン化が大きな鍵を握ると予想します。

tZEROがAspen Digitalと提携|セキュリティトークン「ASPEN」上場へ

セキュリティトークン市場では、米国においてtZEROとAspen Digital Inc.がパートナーシップを締結し、2020年第3四半期にもセキュリティトークン「ASPEN」がtZEROに上場し、取引可能となることが明らかになりました。

セキュリティトークン「ASPEN」は、Reg D 506(c)に準拠して2018年10月に発行された時には「Aspen Coin」と称され、1,800万ドルを調達したことでセキュリティトークン市場の最初の成功事例として大きな注目を集めました。

発行されたセキュリティトークンがセカンダリーマーケットに上場するケースは、米国においては投資家保護の観点から1年間のロックアップ期間が設けられていることから少ない傾向にあり、そのことが市場の発展を阻害しているとも考えられてきました。

しかし、日本においても2019年ごろから米国Securitizeの進出やSTO協会の発足、金融機関におけるブロックチェーン上での証券発行の実証など様々な取り組みが行われ始め、各国において証券のデジタル化が進行しています。

既存の証券取引所がブロックチェーン技術に対応していないこともあり、取引所ビジネスにおいても規制当局のとの協議や既得権益との関係構築が重要と考えられますが、tZEROへの上場銘柄が増加することによって、証券とデジタルアセット市場が共存した市場の発展が見込まれています。

そのような中で、TZROP、OSTKOに次ぐ銘柄として「ASPEN」が市場に出回ることは市場の流動性向上につながるとも考えられ、セントレジスアスペンリゾートといった歴史のある不動産の所有権を裏付け資産にしたセキュリティトークンの登場によって、投資家の関心を惹きつけることにもつながるでしょう。

日本においては、SBIホールディングスが、セキュリティトークン発行プラットフォーム開発企業であるBOOSTRY(ブーストリー)に出資を行っており、野村ホールディングスは社内実験としてアスパラガススープ開発プロジェクトへの会員権のトークン化といった事例も発表されています。

日本では、セキュリティトークンは改正金商法のもとで第1項有価証券として取り扱われることから、米国SEC登録免除規定Reglationのようなきめ細やかな法的要件を定める必要性があると考えられてきましたが、より幅のある資本市場の形成に向けて取り組みが行われています。

これまで海外では、ドイツにおいて新築不動産プロジェクトへの参加権(BlackManta)やセーシェル共和国でのフェラーリF12tdf(MERJ Exchange)の所有権のトークン化、スペイン・バルセロナファントークンといった事例も確認されており、デジタルアセット市場全体の底上げが進んでいるといえます。

また、ロシアではマイクロソフトとWaves Enterpriseが、産業にまつわる資産を裏付けとしたトークンの発行事業を展開することも明らかにされており、日本でも東海東京フィナンシャル・ホールディングスがシンガポールのセキュリティトークン取引所「iSTOX」への上場事業の展開を予定するなど、米国以外の国々でも資産のデジタル化への関心が高まっています。

「ASPEN」のプロジェクトにはタイでデジタルアセット取引所「ERX」を手掛けたElevated Returnsの子会社「ER-RE」も参画しており、資産のデジタル化に関する取り組みをグローバルに展開する企業も最近では確認されています。

より透明性の高い効率的な資本市場の実現に向けてブロックチェーン技術の活用が、今後も行われていくことでしょう。

・tZERO 2019年までの歴史

tZEROとは世界最大とも言われているアメリカのSTOプラットフォームです。2014年10月にtZEROはウォール・ストリートに革新をもたらそうとOverstock.comの子会社であるMedici Venturesから改名、設立されました。2018年10月時点で1億3400万ドルの資金調達に成功しています。

投資家が安心して取引できるようにtZEROでは(米国)連邦証券法および規制に則って運営されています。また、tZEROで取引されるセキュリティートークンはリスク管理ソフトウェア、注文管理システム、マッチングエンジンなどの機能を備えていて、そのプラットフォームはデジタル資産を売買するための「クリプトプラットフォーム」として特許申請されています。

tZEROは以下3点で資本市場の強化を目指しています。

  • 透明性の向上
  • 市場へ流動性の枠組みを設ける
  • 高値な仲介者への依存軽減

そして、tZEROは以下6点を実現したプラットフォームです。

  1. SEC登録およびFINRA(証券取引の透明性の確保のために、証券取引会社の行動を監視・規制する民間組織)会員の証券会社を2つ保有しています。
  2. tZEROのDigital Locate Receiptソフトウェア。これは、市場参加者に証券の貸し出しおよび借入のためのより透明で効率的、柔軟なソリューションを提供するように設計されています。(顧客の生産テスト中)
  3. 独自のルーティング技術は125以上の証券会社にサービスを提供し、接続性、市場アクセス、スマートオーダールーティング(株の売買注文を入れた際に自動的に、最も気配値が有利な取引所にオーダーを出す注文、SORとも)、そしてアルゴリズム取引(時間・価格・出来高に応じてプログラムが自動的に注文を繰り返す取引)のソリューションを提供します。
  4. 技術インフラは1日あたり1億以上の伝統的注文を処理することが可能です。
  5. 代替取引システム(ATS)は24時間取引(伝統的な持分証券(他社への出資等による会社の持分))を可能にし、他の窓口が閉じている間も流動性を確保します。
  6. 高度な財務モデルを実行し、適応型動的ポートフォリオ(金融商品の組み合わせ)が作成可能なロボ・アドバイザリー企業(AIを使って資産管理・運用のアドバイスをする企業)の過半数を獲得。その利点は将来トークン保有者に提供される可能性があります。

tZEROは他にも以下4点を目指しています。

  1. 暗号証券取引が可能なトークン取引システムの開発
  2. 世界中の企業が伝統的な金融の制約を打破できるようにする。そうすることで、流通市場に流動性が生まれます
  3. tZERO取引システムによって、証券発行の流動性ギャップを埋め、暗号通貨コミュニティの大きな課題を解決
  4. 投資家のトークン化された証券取引への信頼を維持するために継続的な技術革新

2019年6月には取引を可能とするアプリをローンチすると発表しています。アプリを開発しているのは仮想通貨関連のスタートアップ企業Bitsyです。tZEROはBitsyを獲得した理由の一つにこのアプリの開発をあげています。

懸念事項として、tZEROの親会社であり最大の出資者であるOverstock.comが二度にわたり資本注入の締め日に間に合わなかったことです。Overstock.comは二つのアジアファンドと2018年夏に投資の交渉を開始し同年12月には契約が成立する予定でした。その契約の内容とは香港を拠点にした投資会社GSRキャピタルが、2億7000万ドル相当のtZERO資本(15億ドルの運用価値)、Overstock.comから3,000万ドルのtZEROトークン、そしてOverstock.comの株式1億4,555万ドルを購入するというものです。

しかしながら、GSRは締め日の延期を求めたため2019年2月に変更され、新しい期日が迫ってくるとGSRは再度支払いを延期させ4億400万ドルの投資に代わって「tZERO普通株式への最大1億ドルの投資を共同主導する」と新たにシンガポールのプライベート・エクイティ企業のマカラキャピタルをメンバーに加えました。新たな契約締め日は発表されていません。一方で、Overstock.comはGSRがマカラキャピタルと共同主導したとしても、GSRは昨年8月に契約した3,000万ドルのtZEROトークンの購入は義務であり5月の株主総会までに遂行されることを求めています。二度も入金を延期されたtZEROは新たな投資家を見つける必要性が出てきたのかもしれません。(提供:STOnline