終身雇用や年功序列が崩壊しつつある現在、会社員であっても、自分のキャリアは自分で築き上げなければならない――。巷でもよく聞くようになった言葉だが、そう言われるとき、念頭にあるのは正社員だ。では、派遣社員は、どのようにしてキャリアを築けばいいのだろうか? 人材サービス会社のアデコ〔株〕で約140人の派遣社員のキャリア開発を担当するキャリアコーチである外里(とざと)由美氏に話を聞いた。

正社員の声がかかる人、かからない人の違いとは?

派遣社員,キャリアップ
(画像=PIXTA)

アデコでは、派遣社員一人ひとりに「キャリアコーチ」という専任担当者をつけてサポートしている。派遣先の企業が変わっても、キャリアコーチは変わらずに担当するため、いわば人生の伴走者となってキャリア開発を支援していく。キャリア開発にあたっては、本人も気づいていない「ありたい姿」を、質問を重ねることによって引き出し、その実現につなげるために、様々な角度から支援するのが、キャリアコーチの役割だ。派遣社員にとってのキャリアアップとは、自分が「ありたい姿」に近づくことだと言えるだろう。

「ありたい姿」として、よくあるのが「正社員」だ。

「派遣社員としてのキャリアは千差万別ですが、『いずれは正社員になりたい』と希望される方は多くいらっしゃいます。『とにかく正社員に』といっても、具体的にはどのようなキャリアビジョンなのか、ご希望を掘り下げて聞いていくと、『こういう仕事がしたい』『これくらいの収入が欲しい』といった具体的な希望が出てきます」(外里氏)

では、派遣社員から正社員になるために必要なことは何なのだろうか。

「例えば、医療系の専門学校を卒業し、地元のクリニックで医療事務を7年間経験したあと、仙台に出てメーカーの営業サポートの派遣社員になり、2年後にその企業の正社員になった方がいます。その方が希望を叶えて正社員になれたのは、指示通りに動くだけでなく、自分の業務の先にあることを考え、どう動けばいいのかを自分自身で考えて働かれていたからです」(外里氏)

派遣社員として働いていた職場は、所長も含めて5人程度の営業職がいる小さな営業所だったが、その全員のサポートを1人で担当していた。それまで医療事務しかしたことがなかったが、経費処理や納期調整などの業務を、営業職の期待をきちんと汲み取り、工場とのコミュニケーションもしっかりと取りながら、効率的に行なっていたという。その仕事ぶりを見て、正社員にならないかという声がかかったのだ。

「もう一つ、建設会社で一般事務をされていた方が正社員になった例もご紹介しましょう。この方は、ご家族の都合で、一時的にフルタイムから時短勤務に切り替えたのですが、その間も業務量や内容に変更はありませんでした。ちょうど会社のシステムが更新されたこともあって、仕事の進め方をご自分で工夫し、就業時間が短くても業務をこなせるように取り組まれたのです。その後、フルタイムに戻ると、効率的に仕事を行なうことで生まれたスキマ時間で新たな業務にも取り組むようになり、正社員の声がかかりました」(外里氏)

この例でも、「自分は派遣社員だから」などという枠は設けず、正社員と同じマインドで働いている。

「正社員になるためのスキルとしては、専門的なものや、担当する職域の中だけのものよりも、ヒューマンスキルが重要になります。つまり、自分がいかに派遣先の会社に貢献できるかを考え、それを実践することで、会社からの信頼を得ること。将来、正社員になりたいのであれば、正社員になったときに過去を振り返って、『あのときに取り組んだことが役立っているな』と思えるような仕事の仕方をすることが大切です」(外里氏)