正社員になるだけがキャリアアップではない

正社員になるだけが、派遣社員のキャリアアップではない。例えば、専門性の高い仕事に就きたいので、派遣社員をしながら資格の勉強をする人もいる。

「一般事務の派遣社員として働いていたオフィスに、CADを使って仕事をしている正社員がいたことで興味を持ち、契約終了後の次の派遣先にCADを使えるところを選んだ方もいます。未経験では正社員として採用してもらうのが難しいので、派遣社員としてCADの経験を積もうということです。やってみて、もし自分には合わないと感じたときも、派遣社員であれば、軌道修正することも可能です」(外里氏)

「ありたい姿」に近づくという意味で、これもキャリアアップの一つの形だと言えるだろう。

「派遣社員という働き方を選ばれる方の中には、転勤族のご家族と一緒に過ごすため、という方もいます。この場合、家族の転勤先となる様々な場所の色々な企業で働くことになります。同じ業種や職種で働いて、その分野の専門性を高めるという道もありますが、多種多様な仕事の経験を積むことも、その人ならではの強みになります」(外里氏)

業種や業界が違っても、必要とされるスキルが共通することは多いという。

「例えば、保険会社の支店で営業サポートをしていた方が、IT企業の部長クラスの秘書になった例があります。保険会社の方に聞いたところ、言われたことをやるだけでなく、相手が望んでいることを考えて行動できる方だという評価を受けていたので、秘書業務にも向いているのではないかと思い、ご紹介しました。当初、ご本人は未経験の職種なので不安もあったようですが、就業後は力を発揮されて、高い評価をいただいています」(外里氏)

ここでも出てきた「言われたことをやるだけではなく、相手が望んでいることに応える」というスキル。いったい、どうすれば身につけられるのだろうか。

「『指示が明確ではなく、どうすればいいのかわからない』というご相談をよく聞くことがあります。そうした場合のポイントは、自分が担当している仕事の前工程を理解し、自分の仕事がお客様や別の部署にどのように届くのかという後工程も知り、仕事の全体像を広い視野で見ること。そうすれば、例えば『この資料をまとめておいて』という指示でも、何の目的でどのような使い方をするのかがわかるようになり、『指示にはなかったが、これも加えておいたほうがわかりやすいな』というようなことが考えられ、実行できるようになります。こうした発想や考え方で仕事に取り組まれることで、どのような職場でも求められるヒューマンスキルの高い人材になることができると思います」(外里氏)

外里由美(アデコ キャリアコーチ)
(『THE21オンライン』2020年07月20日 公開)

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