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ドル暴落説は沈静化し、今後も底堅く推移する

みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト / 上野 泰也
週刊金融財政事情 2020年9月21日号

 この夏場には市場の一部で「ドル暴落」的なシナリオが語られ、メディアでも取り上げられた。その理由の一つは、「足元の金価格の急騰はドル信認喪失の兆候である」というものだ。しかし、金はドル建て取引なのでドル安になれば価格は上昇するのが自然であるし、金には購買力が伴わないため、通貨であるドルの信認とは結び付かない。

 夏場のドル安を牽引したのは、主に対ユーロだが、ユーロ高も一服感がある。5月以降、ユーロがドルに対して1割も上昇した背景には、ユーロ圏の景気が順調に回復するとの見通しがあった。しかし、足元ではスペイン、フランス、ドイツといった国々は、ウイルス感染の第2波に見舞われ、対応に苦慮している。楽観的な景気見通しは影を潜め、8月分のユーロ圏の購買担当者指数(PMI)は、製造業・サービス業とも米国の同月分PMIより低下した。ドイツ政府は今年の経済成長見通しを前年比5.8%減に上方修正する一方で、来年の見通しは同4.4%増に下方修正した。ドイツ人が南欧などにバカンスに出かけ、「新型コロナウイルスと一緒に帰国した」事例がかなり多いようである。

 これは、「ウイルスには国境がない」という医療専門家の警句を、あらためて思い起こさせる。都市封鎖などによりウイルス感染を強引に封じ込めても、国境を越える人の行き来を容認すれば、元の木阿弥になりかねない。かといって、グローバル化した経済の中でいつまでも「鎖国」を続けるわけにもいかない。

 一方の米国は、相変わらず新型コロナ感染者数の国別首位だ。ただし、経済規模が大きい西部や南部の州で増加ペースが加速する局面はすでに終わり、金融市場がこの問題を直接の材料にする場面はほとんど見られなくなった。

 他方、金融市場の注目度が高いのが11月の米大統領選だ。トランプ大統領の支持率は激戦州を含む全米でやや持ち直しており、民主党のバイデン候補との差は縮まっている。今後の支持動向は、トランプ大統領がコロナ対応のワクチン接種を米国内で強引に開始して「安全な米国」をアピールするなどの「オクトーバー・サプライズ」や、大統領候補討論会でバイデン氏が大きな失策を犯さないかなどに左右されよう。

 大統領選の結果によりドル安・ドル高どちらに振れるかは事前の市場の織り込み次第だ。ただ、確実に言えるのは、ドルは基軸通貨として引き続き唯一の存在であり、米国債などから大量のマネーが逃げ出して流入するような、高い流動性や信用度を伴っている先がどこにも見当たらないことである。対米証券投資はプラス基調で推移しており(図表)、ドルは今後も底堅く、対円でも年末まで1ドル=105~110円のレンジを中心に推移しよう。

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