8月の経済指標は市場予想を上回る大幅な改善
9月15日に発表された8月の主要経済指標は、多くの指標で市場予想を上回り、中国景気が予想以上に速いピッチで回復しているとみられる。小売売上高は8カ月ぶりに伸び率がプラスへ転じ、前年比+0.5%(7月同▲1.1%)となった。回復が遅れていた外食などのサービス業は同▲7.0%と減少が続いたものの、7月の同▲11.0%からマイナス幅は縮小。固定資産投資は単月で同+9.3%(7月同+8.3%)と、昨年12月以来の高い伸び率となった。
業種別では、インフラ投資が同+6.7%(7月同+10.8%)と鈍化したものの、第1次産業が同+53.8%と拡大し、製造業の設備投資(同+5.0%)は今年初めてプラスの伸びになった。7日に発表された8月の輸出が世界景気の持ち直しを背景に同+9.5%(7月同+7.2%)と好調だったこともあり、8月の鉱工業生産は同+5.6%(7月同+4.8%)と、市場予想の同+5.1%を上回り、昨年12月以来の高い伸びとなった。
8月後半に三峡ダムの水位が過去最高に達するなど、自然災害の影響が懸念されたものの、8月の災害被害額は過去5年の平均とほぼ同じと、影響は限定的であった模様。7月は自然災害の影響で経済指標が伸び悩んだとみられることや、8月の資金調達額(社会融資総量)が前年比+63.1%と拡大したことなどから、8月の回復が顕著になったと考えられる。
今後は緩やかな出口戦略が顕在化へ
今後については、政府は徐々に出口戦略を本格化させるとみられる。金融当局は、短期金利は安定的に維持しているものの、長期債の利回りは既に上昇基調に転じている。また、固定資産投資をみると、新型インフラである情報通信関連投資は、7月に前年比+39.0%と高い伸びとなった(8月は未発表)。10月に開催される予定の党中央委員会第5回全体会議(五中全会)では5GやIoT(モノのインターネット)が来年から始まる第14次五カ年計画の中核に据えられるとみられることから、今後も高い伸びを維持すると見込まれる。
一方、旧型のインフラ投資は5月に同+12.6%を付け、その後は伸び率が緩やかな鈍化傾向にある。外食や旅行の回復が遅れていることや、米国による中国ハイテク企業に対する輸出規制の影響が今後表面化するとみられることなどから、政府が出口戦略を急ぐことはないであろう。ただし、既に多くの産業が自立的な回復局面に入りつつあるとみられることから、今後は緩やかな出口戦略が一段と顕在化してこよう。
米大統領選後は五中全会銘柄が物色へ
9月15日の上海総合指数は、8月の経済指標の発表を好感し、前場引けは前日比+0.3%、ハンセン指数は同+0.5%となった。
中国の景気回復は順調であるとみられるが、11月の米大統領選を前に、トランプ大統領が中国に対し一段と過激になることも考えられ、株価は不安定な動きになるとみられる。ただし、その後は悪材料出尽くし感の台頭が予想されることや、五中全会で来年からの5カ年間でIoT推進や消費拡大の計画が打ち出されるとみられることから、関連銘柄を中心に上昇局面に入ろう。
白岩千幸
東洋証券 シニア・エコノミスト/ストラテジスト
東京外国語大学時代にエジプト留学、卒業後に大手証券会社で自動車、機械等のアナリスト。
ハーバード大学大学院で開発経済学を専攻、世界銀行で調査、国連では途上国の開発プロジェクトに従事。その後、当時英国最大の運用会社で中国を含むアジア株ファンドマネージャーを経て、日本の大手証券会社で中国経済のエコノミスト。現在は東洋証券で中国経済、株式の調査に従事。CFA(米国証券アナリスト資格)、日本の証券アナリスト検定会員、中国経済経営学会会員、著書「ポスト団塊世代の資産運用」(共著)
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