シンガポール
(画像=Richie Chan / Shutterstock.com)

コロナ下で発表されたシンガポールのフィンテック支援策

アジアの金融ハブであるシンガポールの中央銀行(シンガポール通貨金融庁、MAS)は8月13日、金融機関におけるフィンテック関連の実証実験(POC)や人材育成を支援する「金融セクター・技術イノベーション(FSTI)」の第2弾として、向こう3年間で総額2億5,000万シンガポール・ドル(約192億5,000万円、1Sドル=約77円)を投じる計画を発表した。これは、2015年6月に同額の総額2億2,500万シンガポール・ドルを5年間で投じることとした「FSTI」の第1弾に続くものである(出所:JETRO )。

また、シンガポール政府が保有する投資会社テマセク・ホールディングスの子会社であるVertex Holdingsも、傘下のネットワークファンドを通じて、複数のシンガポールフィンテックスタートアップに出資を行っている。このようにシンガポール政府やベンチャーキャピタルの後押しを受け、シンガポールではさまざまなフィンテックスタートアップが隆盛を極める。そして、シンガポール市場で磨かれた、競争力の高いソリューションを持つ企業は、やがてシンガポールからグローバル市場へビジネスを拡大していくのだ。

コロナ下でも、シンガポールのフィンテックスタートアップの勢いは止まることはない。中でも、Withコロナで浮き彫りとなった社会課題を解決するソリューションを持つフィンテックは、更なる注目を集めている。

Withコロナ、銀行と小売が融合する世界を実現するバーチャルATM・支店プラットフォーム

SOCASH:ロゴ
(画像=SOCASH:ロゴ)

シンガポールのフィンテックスタートアップの一つであるSOCASHは、レストランや売店、ガソリンスタンド、個人商店等で、現金の引き出しや預け入れ、ローン返済といった銀行サービスの提供を可能とする、バーチャルATM・支店プラットフォームを提供している。

SOCASH:プロダクト
(画像=SOCASH:プロダクト)

ユーザーは、SOCASHモバイルアプリのQRコードを店舗で提示することで、店舗のレジから現金を受け取ることができ、その取引はユーザーの銀行口座と店舗の勘定に瞬時に反映される。キャッシュカードを持っていなくても、ATMが見当たらなくても、街中の店舗で現金を簡単に受け取れるのは便利だ。

SOCASH:レジイメージ
(画像=SOCASH:レジイメージ)

SOCASHは、ユーザーに対してだけでなく、銀行と店舗へもメリットをもたらす。SOCASHを導入する銀行に対しては、ATMや支店の管理コストと現金輸送コストを削減できるといったメリットがあり、店舗も同様、現金を銀行へ預け入れる手間や輸送コストを削減することができる。また、ユーザーが店舗でSOCASHを利用する度に、店舗はSOCASHから利用料を受け取れるようになっており一石二鳥だ。

足元のコロナ下で、銀行やスーパーマーケット、レストラン等の店舗からのSOCASHに寄せられるお問合せが増加した。また、このような環境下でSOCASHは、非接触型キャッシュマシーンを開発し、シンガポール内のスーパーマーケットに設置した。ユーザーは、ATMのタッチパネルやキャッシュカードに触れることなく、SOCASHアプリで現金が引き出せる。キャッシュマシーン内の現金は、スーパーが保有する現金となっており、ユーザーの現金引き出しニーズとマッチングさせることで、スーパーの現金をリサイクルすることができる。

このキャッシュマシーンを共同で開発したのが、貨幣処理機等を製造する日本のメーカーで、SOCASHの投資家でもあるグローリーだ。SOCASHは、グローリー以外にもJCBと提携して、海外旅行や出張時に、店舗で現地通貨での現金引き出しを可能とする新たな海外旅行客向けサービスの提供を進めている。これら日本企業とパートナーシップを組み、SOCASHは来年にも日本でサービス提供を開始する予定だ。

Withコロナ、P2Pレンディングマーケットプレースによる中小企業向け追加的支援

Validus:ロゴ
(画像=Validus:ロゴ)

同じくシンガポールのフィンテックスタートアップであるValidusは、中小企業と、富裕層や機関投資家を結びつけ、短中期での資金調達を可能にするP2Pレンディングマーケットプレイスだ。シンガポール最大の中小企業向けレンディングプラットフォームとして、これまでに5億3000万シンガポール・ドル(約408億1,000万円、1Sドル=約77円)以上の融資仲介額を誇る。

Validus:プロダクト
(画像=Validus:プロダクト)

Validusは、独自のアルゴリズムや機械学習、AIによる信用リスク評価を用いることで、融資仲介に伴うリスクを最小限に抑えている。またリスク評価をテクノロジーベースで行うことで、中小企業は通常、申し込みから48時間以内という圧倒的なスピードで融資を受けることができる。