日本では、e-JAPAN戦略(2001年)から19年の歳月を経て、官学民が連携して行政のデジタル化を推進する取り組みが政府主導で行われており、マイナンバーカードを活用した行政手続きの効率化や法改正など基本方針を今年度中に取りまとめることが発表されました。
政府機関の情報インフラをデジタル化するといった観点からは、エストニアにおけるデータ連携基盤「X-Road」・「UXP」の活用事例が参考になりますが、日本でも株式会社グラファーが登記簿謄本・印鑑証明書をオンラインで申請し、取り寄せるサービスを展開するなど、法務局対応のコスト削減が実現されるといった事例もあります。
市民からの信頼を損なうことない安全なオンラインサービスの提供を最優先事項と捉え、その公的な有用性を証明するための計画、実証実験など具体的なアクションプランを開示することが今後は重要であると考えられますが、共有プラットフォームを活用するにあたり各省庁間で責任をどのように分担するのかといった議論も必要になることでしょう。
本稿では、エストニアで活用されているデータ連携基盤「X-Road」について解説し、行政のデジタル化を見据えた企業間連携のデジタル化について考察していきます。
データ連携基盤「X-Road」と「UXP」とは?
X-Roadは、エストニア情報システム局(RIA)が2001年から運用を開始したデータ連携基盤です。
- 厳格なセキュリティ対策
- 高レベルのログ処理と監視
- 暗号化およびタイムスタンプ付きのデータトラフィック
といった基本的な機能をX-Roadは有しており、当初は州間でのデータ連携/登録情報の照合に使用されていました。
その有用性が確認されたことで、e-ヘルスシステム、政府文書管理システムDHX、電力計測システムEstfeedといった組織間のビジネスプロセスにX-Roadが接続され始め、エストニアでは450以上の組織や企業、150以上の公共機関が使用しています。
間接的には、約52,000の組織、約1300のインターフェース情報システムが存在し、X-Roadを介して2800以上のサービスを使用できるなど、エストニアの電子国家を見えないところで支える重要な役割を果たしています。
このことで、2018年の業務時間を1407年節約したとエストニアは発表しており、2017年の804年から603年の差はどのように算出され、2020年はどれほどの業務効率化が図られたのかのでしょうか。
1998年にX-Roadのパイロットプロジェクトが開始され、オープンソースとして提供されていることから現在までナミビアやフィンランドにも導入/連携が進み、日本でもNTTデータやPlanetwayがX-Roadをベースとしたシステムの開発を実施。
最新システムへの対応を見据えて拡張性を重視した設計がなされており、秘匿性・相互運用性が保障されていることから世界的にも高い評価を得ています。
暗号化技術などを活用することで、組織間で独自に開発されたデータシステムを安全に連携し、行政と民間のデータ連携を効率化し、業務の効率化を実現。
X-Roadの開発を手がけるCybernetica社は、税関システム・デジタルアイデンティティ・インターネット投票の分野でも事業を展開しており、2012年からは、次世代の相互運用性プラットフォーム「UXP(Unified eXchange Platform)」の基盤開発に取り組みました。
「UXP」は、NTTデータの実証にも利用され、
秘匿性:組織間で直接交換され、第三者を介して転送されない暗号化されたデータ交換
整合性:すべてのデータ交換への署名、監査ログのチェーン化やタイムスタンプの付与
連続性:分散データシステムでの管理、データ交換を24時間年中無休で提供
といった特徴を有しています。
X-Roadに続くデータ連携基盤の開発をCybernetica社は進めており、アメリカ、イギリス、日本、ウクライナなど各国でCybernetica社が開発するデータ連携基盤の利活用が進むなど、今後もその最新事例に期待が寄せられています。
エストニアで電子国家が成立した理由
行政サービスの多くは、垂直統合型の各部門で分離したバックオフィスシステムを運用しており、税金の申告手続きや運転免許の取得はトランザクションは異なるデータベースに保管され、独自のソフトウェアシステムに依存しています。
2000年代のインターネットの普及によって、これまで紙で行われていたデータ管理がオンラインに移行し、電話対応の一部はメールに置き換わるなどオンラインを活用した事務業務の効率化への取り組みは進められてきました。
しかし、個人情報の保護やセキュリティの観点から各システムの相互運用性は考慮させず、各部門で独自のシステムが構築されてきたこと、そして企業間においてはさらに複雑なシステム構築がなされており、最新技術を活用した業務効率化や企業間連携への取り組みは小規模な取り組みにとどまることが少なくありませんでした。
近年ではSaasサービスの普及や新型コロナウィルスの感染拡大によってリモートワークが定着したことで、オンラインでの業務をせざるを得ない環境が整備され、多くの企業がDXやデジタル化への取り組みを進めています。
顧客サービスや運用システムの最適化を図るために必然的にデジタル化に行き着くことが重要であり、従来の体制のままでも収益やサービス品質の向上/維持が見込める場合には各部門が個別にデータを管理する非効率でサイロ化されたシステムを統合する必要はないとも言えます。
エストニアは1991年に再独立を果たし、公共部門が率先してデジタル社会の実現に向けた戦略的な取り組みを行ってきた歴史があります。
ソ連時代のレガシーなシステムに依存することなく、少ない予算で電子政府の構築を行う必要があったことからエストニア政府、旧サイバネティクス研究所、タリン工科大学など官学民が協力してICTサービスの普及を推進。
2002年に「e-IDカード」をエストニア 国民は手にしたことで、オンラインでの本人確認ができるようになり、確定申告や法人設立などあらゆる行政サービスがデジタル化し、テクノロジーを活用した利便性の高い市民生活が実現しました。
日本でも顧客のユーザーエクスペリエンスを向上させるため各企業がサービス品質の向上に取り組んでいますが、エストニアでは国家が主導して電子サービスの普及を実現した歴史があり、現在も一部の電子認証機能については非接触式の読み取りを可能とするアップデートが行われるなど、技術的進化を遂げています。
そして、データ連携基盤「X-ROAD」は電子国家を支えるシステムとしてエストニアのデジタル社会の形成を担っており、省庁・民間を問わず多くの組織や企業が日々利用しています。
まとめ
今日においては行政のデジタル化による効率的な市民サービスの提供が実現されており、日本市場においてもデジタル庁の設立が予定されています。
データ連携基盤は行政のみならず企業間でも活用が見込まれており、民間企業が政府機関に先行して実証に取り組み、理解の醸成を図ることも重要であると言えます。
株式会社グラファーの事例にもある通り、人件費や交通費の削減といったメリットをもたらすことが実際に証明されており、行政手続きのデジタル化に向けた取り組みは今後、大きな注目を集めることとなりそうです。(提供:STOnline)