シンカー:9月17日の金融政策委員会でBoEはマイナス金利を検討する方針を明確に示唆した。新型コロナを受けた景気の悪化に対して、BoEは以前からのマイナス金利に対する否定的なスタンスを弱め、ベイリー総裁を含むメンバーたちからはマイナス金利を積極的に検討するべきだとの声も出ていた。同時にこれまでマイナス金利によるコストは著しく大きいと批判的な声もあったが、今回の会合を受けて英国においてもマイナス金利が実現する可能性が一歩近づいたと言える。BoEはEUとの通商交渉がNo-Dealに終わることへの経済的影響を踏まえて、追加緩和の一環としてマイナス金利を真剣に検討し始めたようだ。EUとの通商交渉はすでに難航していたが、ジョンソン首相が国内市場法案を提出し、この法案によって北アイルランドをめぐる合意内容を上書きしようとする動きを見せたことで、EU側は法的措置も辞さない構えも示している。ジョンソン氏の動きによりNo-Dealの可能性はさらに高まったとみられ、新型コロナウイルスによる悪影響が消えない中で、さらにEUと英国の経済への影響が重なり、V字回復に近いシナリオが遠ざかってしまうことが懸念される。
金融政策見通しの変要
9月16日のFOMCはコンセンサス通りの内容となった。最新のSEPでは参加者は総じて、政策金利が少なくとも2023年末までは現行水準で維持されるとみていることが示された。今回のFOMCでは新しい政策決定の枠組みに沿って声明の文言とコミュニケーションを修正した。これは(真の)フォワードガイダンスに向かう大きな一歩であると言えるだろう。またFRBは、2020-22年の経済予測を力強く上方修正した。現行のFOMC声明は、利上げを支える内容ではない。しかし、FRBが提供した新しい枠組みを考えると、最速で2023年遅くに利上げが実施される可能性がある。
9月10日の会合で、ECBは、金融政策決定に関するプレスリリースを7月政策理事会から事実上変更しなかった。ラガルド総裁は、ユーロ高懸念、インフレ見通し、景気回復の力強さに関して中立的なスタンスを維持し、市場にとってはやや物足りなかったかもしれない。弊社は、このことが示すのは様子見を続けたいという希望や意図ではなく、次の一手を打つためには追加情報の必要だと考えているためだとみている。コアインフレ率のECBスタッフ予測が驚くほど上方修正されたが、弊社は主に6月予測が過度に悲観的だったことを映した面が強いと考えている。ECBは現時点では、インフレ率予測は弊社と同様だが、今年のGDP成長率に関しては引続き弊社より悲観的だ。また2022年インフレ率予測が低水準(1.3%)なことで、弊社は、ECBは12月にPEPPを調整すると考えている
9月16日の日銀金融政策決定会合では、現行の緩和政策のフレームワークの現状維持を決定するとともに、景況判断を上方修正した。日銀は安倍首相の辞任の意向を受けて、日銀はデフレ完全脱却に向けた経済政策の継続性をマーケットに対して示す必要を感じているとみられる。黒田日銀総裁の任期は2023年4月まであり、2013年の共同声明の下、政府・日銀の共同の2%の物価上昇目標に向けた政策の方針は維持された。目先は、政府の経済対策による企業支援に合わせ、日銀は金融機関への強力な流動性供給策を実施し、景気の底割れを回避するため全力を尽くす意志を引き続き示すだろう。菅政権の下でも、緩和的な財政政策は維持されると考えている。新型コロナウィルス問題がまだ終息しておらず、大規模災害への備えも必要なことで、政府予算の予備費は温存され、新たな政策は国債発行でまかなわれるだろう。日銀も現行の政策下のポリシーミックスとして国債の買い入れ額を増やして行くとみられる。
9月17日の金融政策委員会(MPC)会合で、BOEは政策金利を0.1%、QEについては7450億ポンドを据え置いた。さらに、今回の会合ではマイナス金利の導入について準備を進めることを示唆している。弊社は、Brexit交渉が決裂することによる貿易面での経済への影響への対応として、2021年の早いうちにマイナス金利を導入する可能性があると考えている。
4月3日以来、PBoCは小規模の銀行全体に的を絞りRRR(預金準備率)の引き下げや銀行の超過準備預金に対する金利(IOER)の引き下げを実施してきた。この策には、銀行が過剰な準備預金をより活用して実体経済への貸出しに向けるように促す意図があるという。ただ2020年後半以降、成長へのリスクが落ち着いてきたことと合わせて住宅市場に加熱の兆しがみられることなどから、弊社はPBoCが当面様子見姿勢を続けるとの見方に変更した。
米国(Fed)
●FFレート:0.00-0.25%(9月16日時点)
予想:FFレートは早ければ2023年後半に引き上げられるだろう
9月16日のFOMCはコンセンサス通りの内容となった。最新のSEPでは参加者は総じて、政策金利が少なくとも2023年末までは現行水準で維持されるとみていることが示された。今回のFOMCでは新しい政策決定の枠組みに沿って声明の文言とコミュニケーションを修正した。これは(真の)フォワードガイダンスに向かう大きな一歩であると言えるだろう。またFRBは、2020-22年の経済予測を力強く上方修正した。現行のFOMC声明は、利上げを支える内容ではない。しかし、FRBが提供した新しい枠組みを考えると、最速で2023年遅くに利上げが実施される可能性がある。現状から最大雇用に到達するには、3年はかかる可能性が非常に高い。それよりもインフレが大きな変数である。弊社は(基本的には)低インフレを見込んでいる。ただ2021年春までには、インフレ率が2.0%を超えるとみている。これを後押しするのは、ファンダメンタルズ要因よりテクニカル要因という面が強い。とはいえ、2021年春までインフレが加速するという見方は、2.0%を下回る(推移になるという)FRBの見方と既に対立している。インフレは、雇用に比べて不確実性が高い。不確実性(が存在すること)とFRBの新しい枠組みによって、今後のインフレの推移は、FRBが9月の政策見通しに固執するかどうかを決める重要なファクターになっている。
ユーロ圏(ECB)
●金融緩和策・政策金利(9月10日時点:預金ファシリティ金利:-0.50%、リファイナンス金利:+0.00%、限界貸出金利:+0.25%)
予想:ECBは2020年12月にPEPPの5000億ユーロ増額と2021年6月までの延長を決定、2021年に階層化の乗数を引き上げるとともに新たなTLTROのシリーズを打ち出すだろう
9月10日の会合で、ECBは、金融政策決定に関するプレスリリースを7月政策理事会から事実上変更しなかったが、考えられる追加策を議論する準備はしていないというシグナルを明確に発した。同時ににラガルド総裁は、ユーロ高懸念、インフレ見通し、景気回復の力強さに関して中立的なスタンスを維持し、市場にとってはやや物足りなかったかもしれない。弊社は、このことが示すのは様子見を続けたいという希望や意図ではなく、追加情報の必要性(特に、労働市場やバランスシートが弱くなる可能性があり、財政政策からの取組みも薄れる、2021年の景気の力強さについての情報)だと考えている。コアインフレ率のECBスタッフ予測が驚くほど上方修正されたが、金融政策や財政政策のポジティブな影響ということで一部は説明がつく。だが弊社は、6月予測が過度に悲観的だったことを映した面が強いとみている。ECBは現時点では、インフレ率予測は弊社と同様だが、今年のGDP成長率に関しては引続き弊社より悲観的だ。また2022年インフレ率予測が低水準(1.3%)なことで、ECBは何故追加策を打ち出さないのかという疑問が出てくる。弊社は、ECBは12月にPEPPを調整するまで待っているだけだと考えている。
日本(日銀)
●長期金利誘導目標(9月17日時点:長期金利(10年JGB)を0.0%を中心に±0.2pp内で誘導)
予想:無制限の国債買い入れを含む現行の緩和政策を粘り強く維持し、誘導目標引き上げは政府がデフレ完全脱却を宣言できるようになるとみられる2023年ごろになるだろう
●マイナス金利政策(9月17日時点:当座預金のマイナス金利適用残高に-0.1%のマイナス金利を適用)
予想:2%の物価上昇を達成する2024年ごろに解除するだろう
9月16日の日銀金融政策決定会合では、現行の緩和政策のフレームワークの現状維持を決定した。上限を設けない長期国債と年間12兆円程度のETFなどを含む資産買入れの方針も維持された。そして、「当面、新型コロナウィルス感染症の影響を注視し、必要があれば、躊躇なく追加的な金融緩和措置を講じる」と、引き続き緩和的政策スタンスが継続された。経済活動の再開が進行し、指標でも底打ちが見え始めたことで、日銀は景況判断を、「経済活動は徐々に再開しているが、内外で新型コロナウィルス感染症の影響が引き続きみられるもとで、きわめて厳しい状態にある」から「内外における新型コロナウィルス感染症の影響から引き続き厳しい状態にあるが、経済活動が徐々に再開するもとで、持ち直しつつある」へ上方修正した。
安倍首相の辞任の意向を受けて、日銀はデフレ完全脱却に向けた経済政策の継続性をマーケットに対して示す必要を感じているとみられる。黒田日銀総裁の任期は2023年4月まであり、2013年の共同声明の下、政府・日銀の共同の2%の物価上昇目標に向けた政策の方針は維持された。目先は、政府の経済対策による企業支援に合わせ、日銀は金融機関への強力な流動性供給策を実施し、景気の底割れを回避するため全力を尽くす意志を引き続き示すだろう。菅政権の下でも、緩和的な財政政策は維持されるだろう。安倍首相は退任しても、国会議員としての活動は続け、自民党の最大派閥の領袖として、デフレ完全脱却に向けた政府の取り組みをサポートしていくとみられる。既に、2020年度から2025年度に基礎的財政収支の黒字化目標は先送りされているため、デフレ完全脱却の前に財政政策を強く引き締める理由はない。年末までと、来年前半には、経済活動の回復を促進するため、合計でGDP対比2%程度の複数の補正予算による経済対策が実施されるだろう。新型コロナウィルス問題がまだ終息しておらず、大規模災害への備えも必要なことで、政府予算の予備費は温存され、新たな政策は国債発行でまかなわれるだろう。日銀も現行の政策下のポリシーミックスとして国債の買い入れ額を増やして行くとみられる。
英国(BOE)
●政策金利(9月17日時点:0.10%)
予想:2020年11月に追加緩和と、2021年の早いうちにマイナス金利を導入する可能性があるだろう
9月17日の金融政策委員会(MPC)会合で、BOEは政策金利を0.1%、QEについては7450億ポンドを据え置いた。BOEは新型コロナウイルスをめぐる下押し圧力や、Brexitに関連する不確実性を注視している。これまでBoEはコロナウイルス問題を受けて、中小企業向けのタームファンディングスキーム(TFS)や、銀行の貸し出しを支援するためにカウンターシクリカルバッファーの引き下げ、さらには政府向けの短期融資などに踏み切ってきた。さらに、今回の会合ではマイナス金利の導入について準備を進めることを示唆している。弊社は、Brexit交渉が決裂することによる貿易面での経済への影響への対応として、2021年の早いうちにマイナス金利を導入する可能性があると考えている。
中国(PBOC)
●政策金利(4月末時点:1年物MLF金利:2.95%、預金準備率(RRR):12.50%、7日間リバースレポレート目標:2.2%)
予想:2020年中にMLF金利、リバースレポ金利に対する40-60bpの利下げと、預金準備率の引下げ(50bp)が行われるだろう
PBoCは4月3日、小規模の銀行全体に的を絞りRRR(預金準備率)を100bp引下げると発表した。今回のRRR引下げは二段階で実施されることになっており、引下げ完了で4,000億元の流動性が市場に放出されるとみられる(4月15日に50bp、5月15日に50bp)。また、PBoCは、銀行の超過準備預金に対する金利(IOER)も0.72%から0.35%に引下げており、PBoCによるとこの策には、銀行が過剰な準備預金をより活用して実体経済への貸出しに向けるように促す意図があるという。ただ2020年後半以降、成長へのリスクが落ち着いてきたことと合わせて住宅市場に加熱の兆しがみられることなどから、弊社はPBoCが当面様子見姿勢を続けるとの見方に変更した。
ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司