全世界的に景気回復に向けた金融緩和の長期化が予想される中、日本のIPO市場では、初値高騰銘柄が相次いで確認されており、株式会社ヘッドウォータースは初値上昇率11.9倍を記録。
主な初値高騰銘柄
- フィーチャ株式会社(ディープラーニング画像認識技術開発会社):9.1倍
- 株式会社Branding Engineer(エンジニア人材会社):6.0倍
- ニューラルポケット株式会社(AIエンジニアリング事業会社):5.7倍
米国においてもTesla、Zoom、NVIDIAといった銘柄の株価が上昇傾向にあり、景気回復期に訪れる事が予想されるバブルを見据えた投資戦略の構築が重要と考えられます。
中国企業は、アント・グループが調達目標金額を350億ドル(約3兆6500億円)に増額し、史上最大のIPOを目指す他、Kuaishou(快手)、JD Health(京東健康)、名創優品(メイソウ)といった企業もIPOに向けた取り組みを進めており、米国のみならず香港・上海株式市場におけるIPOも2020年代は大きな関心を集めることでしょう。
本稿ではアメリカや中国の大型上場について解説し、世界のIPO市場動向について考察していきます。
米国市場
Diginex
SPAC「8i・エンタープライズ・アクイジション」との合併。
デジタルアセット関連事業を営む企業が株式市場への参画を目指す中、Diginexは暗号資産取引所として初のナスダック上場企業として注目を集めています。
プレイボーイ・エンタープライゼズ
SPAC「マウンテン・クレスト・アクイジション」との合併。
2011年に非公開企業となったプレイボーイ・エンタープライゼズは、2018年に35%の株式を投資ファンドに売却し、今年から雑誌の印刷を停止するなどビジネスモデルの変革に取り組んできました。
マウンテン・クレスト・アクイジションは、プレイボーイ・エンタープライゼズ社を3億8100万ドル(約400億円)で買収(合併)するとしており、上場企業となることでライセンス事業におけるブランド価値の向上などが見込まれます。
McAfee
有名企業としてはMcAfeeが1億ドル(約106億円)の売出価格で、ナスダックでのIPOに向けた申請を行っています。
McAfeeは2011年に76億8,000万ドルでIntelに買収され、2017年に51%の株式(約42億ドル)をTPGキャピタルが取得。
米国ではSnowflake、PalantirTechnologies、Asanaといった企業が相次いで上場しており、日本でもサイバーセキュリティソフトウェアとして知名度の高いMcAfeeの上場は大きな関心を集めることとなりそうです。
McAfeeはこの数年間において製品価格の値上げ、新しいパートナープログラム、安定した定着率などビジネスを成長させており、売上高(2019年)は前年比9.4%増加の26億4000万ドルを記録しています。
中国市場
TikTok Global
中国のByteDanceは、新会社TikTok Globalの米国市場でのIPOを計画しています。
TikTokの売却命令を受けたByteDanceは、新会社設立によって25,000人の雇用を創出することを米国政府に提案。
TikTok Globalの株式は、オラクルが20%所有し、ウォルマートも株式取得に関する交渉を進めているとされ、評価額500億ドル(5兆2500億円)ともされるTikTokの運営会社がIPOを行うことは米国株式市場に大きなメリットをもたらすことでしょう。
トランプ大統領、中国政府からの承認はまだ得られていないもののTikTok Globalは取締役の過半数を米国人、国家安全保障局長官とすることが予定されています。
Kuaishou(快手)
騰訊(テンセント)が出資する中国の動画共有アプリ「Kuaishou(快手)」は、最大で50億ドルの資金調達を目指し、香港市場でのIPOを2021年1月に予定しています。
「Kuaishou(快手)」は、約4億3,000万人のアクティブユーザー数(MAU)/月を誇り、2019年度の資金調達の際には約300億ドルの企業価値評価(バリュエーション)があるとされていました。
現在は、企業価値評価(バリュエーション)500億ドル以上を目指しており、バンク・オブ・アメリカ、チャイナ・ルネッサンス、モルガン・スタンレーといった幹事会社とIPOに向けた契約を締結。
TikTokが米国の安全保障上大きな問題として取り上げられる中、電子商取引のコンバージョン率の高さが特徴の「Kuaishou(快手)」は、2019年に3,000億元(約420億米ドル)の総商品量を記録したライブコマース市場においても重要な役割を果たしており、地方都市や農村部での支持を集めていることなど、将来的な事業の拡大に大きな期待が寄せられています。
JD Health(京東健康)
オンラインヘルスケア会社「JD Health(京東健康)」は20億ドル(約2100億円)の調達を目指し、香港証券取引所でのIPOを計画しています。
2019年には108億元(約1,677億円)の売上高を記録した「JD Health(京東健康)」は、コロナウィルスの感染拡大によるオンラインヘルスケアへのニーズの高まりから2020年上半期には売上高88億元(約1,367億円)に成長。
また、中国の大手オンライン小売会社JD.com(京東集団)のグループ会社によるIPO計画が明らかになっており、金融サービス会社「京東数字科技(JD Digits)」は科創板へ目論見書を提出。
物流テック会社「JD Logistics (京東物流)」も2021年にIPOを予定しているとされ、中国株式市場における「JD Health(京東健康)」の存在感は大きなものとなっています。
まとめ
米国ではSPAC(特別買収目的会社)との合併によって上場を果たす企業が増加しており、2020年7~9月の上場企業数はヘルスケア・IT企業を中心に81社にのぼるなど、世界の株式市場を牽引。
スノーフレークやKEホールディングス、ロケットカンパニーズなど調達額15億ドルを突破する大型IPOも複数社存在しており、日本と同様に初値高騰銘柄も続出するなど、金融緩和の影響もあり、株式投資に多くの資金が集まっています。
中国では米国市場からの締め出しの影響もあり、香港証券取引所や科創板への上場が今後も増加することが予想されます。
アントグループの350億ドル(約3兆6,500億円)に及ぶIPOが時代の大きな分岐点になるとも考えられますが、米国と中国、2つの巨大市場がともに発展し、2020年代の資本市場をどのように形成していくのか、両国の株式市場について今後も考察してまいります。(提供:STOnline)