(本記事は、藤原正明氏の著書『収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
不動産投資の原理原則が土地オーナーを守る
どうすれば罠に惑わされることなく、正しい初期設定を行うことができるのでしょうか。そこに必要なのは、不動産投資の理論です。
そこで、ここからは不動産投資の基本理論を紹介していきます。併せて、事業計画書のチェックポイントも解説します。なお、通常の不動産投資では、土地購入費用が大きな比重を持ちますが、本書の読者は土地オーナーであると想定していますので、土地購入費用はあえて除いています。
不動産投資は「利回り」を理解することから始まります。
利回りは、その土地活用の効率性やリスクへの許容度、平たく言えば、儲かるかどうかを知るのに役立ちます。
たとえば、事業計画書で想定されている手取り金額がいくら大きくても、建築資金の総額が大きければ、効率は悪いと言えます。多少の儲けが出ていたとしても、何かマイナスの要因が発生すれば、想定していた金額が手に入らないばかりか、逆にみなさんの財布からお金が出ていくことになりかねません。
ですから、利回りについては確実に理解することが大切です。
図表20の事業計画書を見てみましょう。当然ながら、ここにも利回りが記載されていますが、多くの場合、表面利回りが記載されています。表面利回りは、次の計算式で求められます。
◉表面利回り=年間満室想定家賃収入÷建築工事費(税込)
ここでの注意点は2つあります。
1つは、年間満室想定家賃収入の意味です。これは1年を通して、すべての部屋が満室状態であったときの総家賃収入を指します。
もう1つは、建築工事費の意味についてです。建物本体の建築費用のみならず、付帯工事も含めた工事全体の費用を入れることが大切です。
この付帯工事とは、給排水設備工事、消防設備工事、地盤改良工事、外構工事など多岐にわたります。建設会社によっては、一部を建物本体工事に入れていることもありますし、すべてを別にしている場合もあります。
ですから、建物と付帯設備に関するすべての費用、そして土地の地盤改良工事や測量費用などを含めて建築工事費として考える必要があるのです。
事業者によっては、利回りを良く見せるために、意図的に分母である建築工事費を減らす、つまり付帯工事を建築工事費から抜いて計算していることも散見されます。
加えて、表面利回りは、どれだけ効率良く儲かるかという投資パフォーマンスの実態を正確に表していません。
本来、利回りというのは、投資した金額に対してのリターンをはかるためのものですが、表面利回りではそれを正確に捉えることはできません。なぜなら分子である想定家賃収入が、そっくりそのまま手に入るわけではないからです。
つまり、家賃収入をより正確に計算する必要があるのです。
まず、年間満室想定とありましたが、賃貸経営において、1年間を通じて常に満室ということは考えにくく、一定の頻度で空室は発生するものです。それだけでなく、入居者が家賃を滞納することもあります。
そうした空室や滞納による損失分を考慮しなければなりません。これまでにも言及してきた一括借上・サブリースの場合は、この損失を考慮しなくてもよいとも言えますが、実態としてはサブリースのための別途コストがかかっていることには注意が必要です。
そして、空室や滞納による損失を考慮したものを、実効総収入と言います。
◉実効総収入=年間満室想定家賃収入−空室・滞納損失
とはいえ、空室や滞納による損失がどの程度発生するのかについては、100%正確に予測することはできません。エリアや需給バランス、経済状況など、さまざまな要因に左右されるからです。わかるのは、あくまで傾向です。
たとえば、都心部では賃貸需要が多いので空室は長期化しにくく、田舎では賃貸需要が少ないので空室が長期化しやすいといった具合です。
よって、土地の立地や間取りプランによって想定すべき空室や滞納損失の程度には差が生じますが、計画上は5~10%程度とみておけば十分でしょう。それ以上の損失をみなければならない場合はそもそも建築してはいけないエリアということになります。
さらに物件を保有しているとさまざまな運営費(ランニングコスト)が発生します。運営費は、管理会社に支払う管理手数料、建物管理費用、水道光熱費、固都税(固定資産税・都市計画税)、原状回復費用、小修繕費などがあります。
サブリースを利用する場合は、管理手数料という名目ではありませんが、年間満室想定家賃収入の80〜90%の金額で事業者が借り上げます。そのため、サブリース事業者の取り分は、サブリース料として土地オーナーが負担していることになるため、運営費として考える必要があります。
さて、事業者が提案する事業計画書を見てみましょう。先に示したサンプルからもわかるように、この運営費を正しく見積もっていないケースは散見されます。よくあるのが、原状回復費用や小修繕費をまったく考慮していないことです。
入居者が退去した後は、一定の原状回復工事が必ず発生します。新築から年数が経過していないうちは大きな工事は発生しにくいですが、入居者の過失がない部分については建物所有者が修繕するルールになっているため、一定の工事費用は事業計画上入れておくことが大切です。そのほか、入居中にも室内設備の不具合が発生したり、建物共有部分で細かな修繕も発生します。
こうした修繕関係の費用も含めた運営費は、当然ながら収益性に大きく影響しますので、きちんと事業計画のなかでシミュレーションしておく必要があります。具体的には、先の実効総収入から運営費を引いたものを営業純利益(NOI:Net Operating Income)として計算します。
◉営業純利益(NOI)=実効総収入−運営費
NOIは、その物件が稼ぎ出す収益力を表しています。すなわち、すべて現金で建物を建てた場合に、土地オーナーが受け取れる税引前キャッシュフロー(税引前CF)という捉え方ができます。
実際には多くの土地オーナーが融資を受けて建物を建てるので、最終的な税引前CFは、金融機関への返済金額を引いた金額となります。
◉税引前CF=NOI−返済金額
土地活用を考える際には、こうした収支計算を正確に行う必要があります。加えて、所得税や住民税といった税金のことも計算に入れておくべきです。税引前CFから、そうした税金を引いたものが税引後キャッシュフロー(税引後CF)となり、みなさんの手取り収入となります。
実際の運用パフォーマンスを考えるうえで、いかに冒頭で記した表面利回りが、正確性に欠けているかが、おわかりいただけたでしょうか。図表22に一連の流れをまとめていますので、確認してみてください。
これまでのポイントを踏まえ、意味のある本当の利回りについて、今一度考えてみます。
本当の利回りは、NOIを建築工事費(税込)にそのほかの諸費用(登記費用、不動産取得税、建築中の期中金利など)を加えた総投資金額で除算して求められる総収益率(FCR:Free and ClearReturn)になります。
建物の建築工事費のみならず、土地活用を行う際にかかるすべての費用を考慮することが重要だということです。その他の諸経費に関しては図表23にまとめています。
◉FCR(%)=NOI÷総投資額(建築工事費+その他諸費用)
投資というのは投資金額に対して、どれだけリターンがあったか、ということにつきます。土地活用も同じです。土地活用を始めるにあたり、出ていったすべてのお金が投資となります。ですから、その投資金額に対して1年間でどれだけリターン、つまりNOIがあったかということを把握する必要があるわけです。
いかに表面利回りは意味のない数字なのか、ということを説明するために、具体的な数字で考えてみます。
次の物件AとBは、ともに表面利回り10%の物件ですが、物件Aにはエレベーターや受水槽、自動火災報知機など、定期的な点検が必要な設備が多く、運営費が300万円かかるのですが、物件Bはそういった設備がなく、運営費は200万円で済みます。
物件A NOI=実効総収入950万円−運営費用300万円=650万円 FCR=NOI 650万円÷総投資額1億700万円=6.07%
物件B NOI=実効総収入950万円−運営費用200万円=750万円 FCR=NOI 750万円÷総投資額1億700万円=7.00%
このように同じ表面利回りでも、FCRで比較すると1%近く利回りが違うことがわかります。
事業計画書においては、表面利回りの高さを売りにする事業者も多いのですが、上記のように想定しうるコストをすべて考慮すべきだと言えます。つまり、事業者の甘い言葉に引っかからないためには、NOIを出し、土地活用時にかかるすべての費用で除算し、FCRという正しい利回りで判断することが大切なのです。
融資を利用するならば押さえておくべきイールドギャップ
土地活用の一般的な事業計画書に記載されていることはほとんどない投資指標に、イールドギャップというものがあります。融資を利用して土地活用する方であれば、必ず押さえておきたいものとなります。
イールドギャップを理解すると、融資を受けることによって土地活用の効率や資金効率がどれだけ上がるかをはかることができるようになります。
株式投資や金融の世界でもよく使われるイールドギャップという指標ですが、土地活用・不動産投資の場合は、少し考え方が異なります。
金融の世界でいうイールドギャップは、運用先の利回りと調達金利との差を指します。これと同様の考えで不動産投資の世界でも、物件の利回りと金融機関からの融資の金利との差をイールドギャップと考える方も少なくありません。
たとえば、表面利回り10%で建物を建築し、金利2%で資金調達した場合、イールドギャップは8%という計算です。
しかし、これは正確な考えだとは言えません。この考え方では投資判断を誤りかねません。
金融機関から融資を受ける際に提示される条件は、借入金額、金利、返済期間の3つがあります。この3つの条件をもとに月々の返済額が確定するのです。
ところが先ほどのイールドギャップの解釈では、「返済期間」の要素が入っていないため、正しい判断ができないということです。
仮に、先の間違った定義によるイールドギャップで7%以上あれば、投資判断としては正しいということにしましょう。少し極端な例ですが、次のような土地活用は成り立つでしょうか。
ケーススタディ
【物件】 建物建築価格 1億円 年間家賃収入 1,000万円(表面利回り10%) 借入金額 9,000万円(金利2%、返済期間10年) 年間返済額 993万円(元利均等返済)
先述の定義によればイールドギャップは8%となります。しかし、これでは土地活用として成り立っているとは言えません。お金がきちんと回らないからです。
【計算条件】 空室・滞納損失 年間家賃収入の5% 運営費 年間家賃収入の20%
【計算式】 実効総収入=1,000万円−1,000万円×5%=950万円 運営費 =1,000万円×20%=200万円
NOI =実効総収入950万円−運営費200万円 =750万円 税引前CF=NOI 750万円−年間返済額993万円 =−243万円
結果、税引前CFはマイナスになりました。このように、間違ったイールドギャップの定義では、正しい判断ができないのです。
では、正しいイールドギャップは、どう導き出せばいいのでしょうか。必要となるのが「ローン定数K」という指標(%)です。ローン定数Kは、金利と返済期間で決まる指標で、総借入金額に対してどの程度の割合で元利返済しているのかを示します。借り入れに対する負担率のようなイメージで、この数値が小さいほど負担が少ないと言えます。
ローン定数Kは次の計算で求めることができます。
◉ローン定数K(%)=年間返済額÷総借入金額(残高)
そして、FCRとローン定数Kの差が正しいイールドギャップとなります。
◉イールドギャップYG(%)=FCR−K
数式に「年間返済額」とあるように、ローン定数Kでは、融資期間が考慮されています。同じ借入金利であっても、融資期間が長ければ年間返済額は小さくなるので、ローン定数Kも小さくなります。ローン定数Kが小さくなればFCRとの差が大きくなるため、イールドギャップが大きく取れる、つまりキャッシュフローが大きくなることにつながるのです。
イールドギャップを正しく理解するには、土地活用・不動産投資が「金融機関との共同事業である」という捉え方をすることが大切です。たとえば一般の事業であれば、共同事業者からは「出資」という形でお金を出してもらい、プロジェクトの利益分配は出資割合に応じて行います。
一方、土地活用では「融資」という形で金融機関からお金を出してもらっているため、利益の分配方法が異なります。つまり、融資割合に応じた分配ではなく、別のルールがあり、その分け方を決めるのがイールドギャップである、ということです。
もう少し詳しく述べると、収益物件から発生するNOIの分配方法において、借り入れから発生する部分のうちローン定数K(%)相当が金融機関の返済に充てられ、残りの部分であるイールドギャップ(%)相当のキャッシュフローを得ることになります。
言葉ではわかりにくいので図表25で示します。
土地活用・不動産投資のキャッシュフローを分解すると、
◉税引前CF=自己資金×FCR+借入額× Y イールドギャップG
となっていることがわかります。すなわち、土地オーナーがこの税引前CFをより高めるためには、次の2つがあるといえます。
(1)自己資金を増やす (2)イールドギャップをより大きく取る
このうち、「(1)自己資金を増やす」は、簡単ではありません。たとえ追加で出せる現金があったとしても、手元に置いておきたい場合もあるでしょう。
したがって、現実的には「(2)イールドギャップをより大きく取る」になります。イールドギャップを大きく取るというのは、ローン定数Kを低くするということと同義ですが、そのためには「より低金利で借りる」か「融資期間を長期にする」ことが必要になります。このうち「融資期間を長期にする」場合、返済期間が長くなるほど元金債務が減りにくいという点には注意が必要です。
以上のように、金融機関から融資を受ける際は、金利はもちろんですが、返済期間も大変重要になるということをご理解いただけたと思います。
正しいイールドギャップが理解できると、融資を受けて行う土地活用において、狡猾な事業者の甘い言葉や見せかけの数字に惑わされることなく、賢い選択ができるようになります。
%で表されるイールドギャップはどの程度あればよいかという目安についても考えてみたいと思います。
端的に言えば、土地活用の場合は目安を明確に定めることができません。というのも、地域差がかなり大きいためです。
建物建築費は全国的な金額の差は大きくなりませんが、土地の価格や賃料は地域によって大きな差があります。
土地を購入せずに賃貸経営ができる土地オーナーのみなさんに関して言えば、利回りは「建物建築費」と「賃料」の2つで決まるということです。これは大きなアドバンテージであると言えます。
なぜなら、土地を持たない不動産投資家の場合、土地の購入が必要になりますが、賃料が高くとれる都市部では、当然ながら土地の価格も高くなるからです。土地を持たない不動産投資家たちの立場から考えると、立地の良い土地では賃料が高く設定できるからといっても、利回りが高くなるとは限らない、むしろ利回りは低くなるということです。
つまり、土地オーナーにとっての最適なイールドギャップの目安を定めることができないのは、土地オーナーの賃貸経営では、地域事情が大きく影響してくるためです。
とはいえ、参考になる数字がまったくないわけではありません。その1つとして、当社が土地を持たない不動産投資家に土地と新築建物をセットで提供する場合の基準をお伝えしましょう。
◉イールドギャップの基準:1.0〜1.5%以上
あくまでこれは、土地の購入が伴う場合の基準ですので、土地オーナーであれば、最低限、前記の基準を満たす必要があると言えます。
したがって、イールドギャップが前記を下回るのであれば、その事業計画は危険であることを意味します。賃料、建物建築費、融資条件のいずれか(あるいは複数のもの)が不健全であるということです。
なかでも地方の土地オーナーは特に注意が必要です。繰り返しになりますが、全国どこでも建築費は大きな差がそれほどないにもかかわらず、都市部に比べて地方は賃料が低いからです。
具体的な例で考えてみましょう。たとえば、以下のような土地オーナー向けの建築計画を検討してみます。
ケーススタディ
【物件】 建築する建物 軽量鉄骨造アパート 建物建築価格 1億円 諸経費 700万円 総投資金額 1億700万円 年間家賃収入 750万円 表面利回り 7.5%
【計算条件】 空室・滞納損失 年間家賃収入の5% 運営費 年間家賃収入の20% 借入金額 1億円(金利1.5%、返済期間27年) 年間返済額 450万円(元利均等返済)
キャッシュフローを計算します。
【計算式】 実効総収入 =750万円−750万円×5%=713万円 運営費 =750万円×20%=150万円 NOI = 実効総収入713万円−運営費150万円 =563万円 税引前CF = NOI 563万円−年間返済額450万円 =113万円
税引前CFは113万円となりました。では、投資効率としてはどうなのか、FCRとイールドギャップを計算してみましょう。
【計算式】 FCR =NOI 563万円÷総投資額1億700万円 =5.26% ローン定数K=年間返済額450万円÷借入金額1億円 =4.5% イールドギャップYG=FCR 5.26%−ローン定数4.5% =0.76%
計算の結果、イールドギャップは1%を下回っていますので、この事業計画は危険水域にあると言えます。このようにイールドギャップが1%を下回るような事業計画は、賃料が高くとりにくいエリアで散見されます。
こうした投資効率が悪い事業計画に惑わされるのは、税引前CFに着目しがちだからです。ここでいえば113万円となるその金額の絶対額に着目するのではなく、投資効率としてどうかが判断できる、イールドギャップを重視することが大切なのです。
このほか、土地の所有にこだわりを持たない一般不動産投資家の場合であれば、売却前提であるため、これまで解説した指標のほかにも内部収益率(IRR)を求めることもあります。しかし、多くの土地オーナーは売却前提でないため、本書ではIRRの解説はしません。詳しく知りたい方は、拙著『はじめての不動産投資 成功の法則』(発売:幻冬舎)をご覧ください。
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