(本記事は、藤原正明氏の著書『収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

ほとんどの土地オーナーが契約してしまうサブリースの危険性

サブリース,不動産投資,社会問題
(画像=PIXTA)

問題なのは、賃貸管理の基本や賃貸経営の原理原則について、「学ぶ必要はない」と思い込ませるケースがあることです。なぜそんなことをするのかは明々白々で、建築を受注することで利益を出す事業者が「建築の背中押し」をするためです。

「土地をお持ちの◯◯さんならば、何もしなくてもお金が入ってきますよ」
「我々にすべて任せておけば安心です」

かつて土地活用の業界では、このような営業トークがよく見られました。「何もしなくても」や「すべて任せて」といった常套句は、すでに説明してきた通り、そのほとんどがサブリース(一括借上、家賃保証)を根拠としている言葉です。

もちろん土地オーナーのなかには、その言葉を鵜呑みにするのではなく、別の事業者にも話を聞く人もいます。

しかし、たとえ複数の事業者に相談し、見積もりを取ったとしても、ほぼ100%の確率で、サブリース前提の提案しか出てきませんでした。土地活用の業界スタンダードであったからです。

そうした状況下で、土地オーナーの方々は「土地活用といえばサブリース」と思い込んでしまっていたフシがあるのです。

これは大いに由々しき事態でした。土地活用を賃貸経営という事業とみなさず、大手ハウスメーカーやアパートビルダーといった事業者を信頼しきっている、言い換えると、まったくの無勉強のまま賃貸経営という事業に取り組んでいるということで、非常に危うい道を歩んできたわけです。

もちろん人口が増加していた時代であれば、賃貸需要が増え続けてきた、あるいは維持されてきたため、結果的に良い土地活用もありました。しかし、賃貸住宅が市場に溢れ、人口も減少フェーズに入った今、そう事は簡単に運ばなくなったのです。

サブリースによる一括借上とはどういうことか

そもそも、賃貸経営のなかで、サブリースがどういう位置づけなのか把握することすらできていない人も少なくありません。

繰り返しになりますが、本来、賃貸経営ではやるべきことが多岐にわたります。土地オーナーであれば、建物を建てることはもちろんですが、その後も入居者募集、建物メンテナンス、入居者対応などの「賃貸管理」が必要です。

サブリースは土地オーナーから事業者が建物を一括で借り上げるかわりに、賃貸管理を一手に引き受けるやり方なのです。言い換えれば、サブリースというのは、賃貸管理をすべて業者に任せる(丸投げする)ことと同義なのです。

とはいえ、一般的な賃貸経営において、賃貸管理を外部の業者に委託することは、特段に珍しくありません。8割の不動産オーナーは、管理会社に任せています。

つまり、賃貸管理にまつわる業務を委託することが悪いわけではないのです。オーナーが思考停止に陥るような、サブリースという甘い言葉を使った説明や将来のリスクが伏せられた営業トークが問題なのです。

30年同額賃料の借り上げではなく、賃料相場に併せて借上賃料自体は減額する前提の30年契約であること、数年ごとに賃料減額交渉が入ること、条件が合わなければサブリース契約が解除になる場合もあることといったリスクが、事業者側からオーナーに対して、きちんと伝えられていません。

当社としては推奨しませんが、最終的にサブリースを選ぶにしても、本章で説明する賃貸管理や前章で言及した不動産投資における原理原則について、オーナー自らも一定の理論武装をしておくべきなのです。

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(画像=『収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則』より)

サブリースと一般管理の手間はまったく変わらない

賃貸管理の方法は、大きく分けて3つあります。自主管理、サブリース、一般管理(委託)です。

1つ目は自主管理です。オーナーやその近親者が自ら管理を行う方法です。メリットはなんといっても管理会社に支払うお金がかからないことです。しかしそれ以上に手間がかかることがデメリットです。実は、私自身、もともと土地を持っていない不動産投資家なのですが、初めて物件を購入したときには自主管理にチャレンジしました。

実際やってみると、非常に手間と時間がかかり、結局、管理会社に委託することになりました。すでに賃貸経営を自ら行ったことのある経験者か、時間が十分取れる方以外はあまり推奨できるものではありません。

2つ目は先にもあげたサブリースによる一括借上です。メリットは手間がかからないことですが、一方でお金がかかります。家賃収入のうち、実質10〜20%が手数料として事業者側に支払われる形となります。

3つ目が管理会社に委託する一般管理です。サブリース同様、手間がかからないことがメリットです。管理手数料として管理会社に家賃の3~5%程度支払う必要があります。多くの土地オーナーがサブリースは手間がかからないが、一般管理の場合は手間がかかると思っていますが、一般管理も管理会社に賃貸管理全般を任せられるので手間はかかりません。

サブリースを選んだ場合と、一般管理ではほとんどそのメリットは変わらないのですが、デメリットは異なります。前述の通り、サブリース契約を選んだ場合には、必ず数年おきに賃料減額交渉が入ります。また、競争力が高く最も高い家賃が取れる新築時は、サブリース事業者が利益を取ることで機会損失となってしまいます。

新築時は、わざわざ一括借上という高い手数料が発生する方法を選ばずとも、入居者は一般管理ないしは自主管理でもきちんと入ります。むしろ、新築時にすら入居者がつかないのであれば、そもそもその賃貸経営プランは、間違っているということになります。

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(画像=『収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則』より)

以上より、当社で推奨しているのは一般管理です。依頼すれば、建物のメンテナンスもすべて行ってくれます。土地オーナーが行うことは、空室が発生した際に「どういう条件で募集するか」といったことの判断です。それも管理会社からの提案に対してYES or NOで答える程度ですので、大きな手間ではありません。

そもそも、この業界でサブリース、つまり転貸が始まったのは40年ほど前です。その時代は、需要に対して賃貸住宅が不足していましたので、家賃下落も空室リスクも今ほど大きくなく、儲けがある程度あったからこそ成り立っていた部分もあったのですが、賃貸住宅が溢れ、人口も減少フェーズに入った今、同じやり方でうまくいくはずがありません。

サブリースをすると本来得られるお金を失う

実は、一般管理に比べたときのサブリース一括借上のデメリットは、ほかにもあります。

代表的なのが共益費です。たとえば賃料70,000円、共益費8,000円の物件があったとします。一般管理の場合、賃料と共益費の合計額78,000円から管理会社の手数料5%(ここでは税込とする)を控除した74,100円がオーナーの手元に入ります。

一方、サブリース(借上率90%)の場合、入居者が支払う家賃70,000円からサブリース事業者が10%相当の報酬を得て、オーナーは63,000円を得ることができます。そして、共益費8,000円についてはサブリース会社がそのまま懐に入れてしまうのです。

これは共益費は賃料ではないのでオーナーに渡す必要がないという考え方のようです(入居者が家賃と共に支払っているにもかかわらずです)。本来であれば共益費もオーナーがもらうべきなので、一般管理とサブリースの差はこういったところでも大きくなるのです。

土地オーナーの1室あたりの手取りの差は、

一般管理74,100円-サブリース63,000円=11,100円

となります。

仮に部屋数が20戸の建物だった場合、その差は月間22万2,000円、年間で266万4,000円にもなるのです。

サブリース事業者側に免責期間が設けられることもあります。一括借上をしてから始めの3ヵ月間は、入居の有無にかかわらず賃料の支払いは発生しないという契約になっているのです。

たとえば4月1日からサブリース契約が始まるとして、実際に借上賃料をオーナーに支払うのは6月分からということは、珍しくありません。その免責期間中に得られたであろう賃料・共益費はまるまるサブリース事業者が得るという構図になっています。

修繕費の問題もあります。修繕費の取扱いはサブリースの契約内容によって、事業者が負担する場合とオーナーが負担する場合があります。仮に事業者が負担する契約だと、サブリースの借上率は80%程度まで下がることが多いです。

事業者側は「修繕費の心配がなくなります」と説明するかもしれませんが、新築の場合、そもそも最初の10〜15年は費用がかさむ設備の更新はないですし、仮にあったとしても、設備ごとに法律(住宅の品質確保の促進等に関する法律等)で定められた保証期間内であれば、事業者である施工会社の責任となります。

つまり、サブリース契約において修繕費を事業者側に負担させる理由はないのです。修繕の発生有無にかかわらず、お金だけ取られているのが実態なのです。

もちろん入居者が替わる際などに、クロス(壁紙)の張替えなどが発生することもありますが、新築から年数が経っていない建物であれば、入居者が破損した可能性が高いでしょう。そうであれば、入居者負担で直すことが可能です。

一方、「修繕費はオーナー負担」というサブリース契約も少なくありません。このときにも、是が非でも建物を建てさせたい事業者側は、その内容をきちんと説明していないケースが散見されます。実際、事業者が提案してくる事業計画書のなかには、修繕費が考慮されていないものがあるので、注意が必要です。

収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則
藤原正明(ふじわら・まさあき)
大和財託株式会社 代表取締役CEO。1980年生まれ、岩手県出身。三井不動産レジデンシャル株式会社を経て、ベンチャー企業で実務経験を積む。2013年に大和財託株式会社を設立。東京・大阪で収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を展開。全国の投資家や土地オーナーの悩みを解決し、絶大な支持を得ている。著書に『はじめての不動産投資 成功の法則』、『中小企業経営者こそ収益不動産に投資しなさい』など。

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