(本記事は、藤原正明氏の著書『収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)
相続財産の約4割を不動産が占めている
国税庁による平成30年分の相続税の申告事績によれば、相続財産の総金額のうち、土地が占める割合は35.1%です。この数字に家屋の割合(5.3%)を加えた不動産として見たときには、その割合は4割を超えます。
現金・預貯金は32.3%、国債や株式などの有価証券は16%ですので、相続財産のなかで土地の比重が大きいことがよくわかります。
相続財産のうち、土地や建物といった不動産が占める割合は4割ですが、実際の市場価格として考えたときには、もっと大きな数字になります。具体的には6〜7割にのぼるでしょう。
というのも、現金や株式などの流動資産と呼ばれる資産は市場価格と相続税評価額が等価とみなされます。一方、土地や建物は市場価格と相続税評価額が同じではないからです。
「1億円の市場価格を持つ不動産が、相続税評価額の評価減の措置を受け、5,000万円としてみなされる」ということが珍しくありません。
2015年からの相続税増税で何が変わったか
上のグラフを見てわかる通り、2009年以降、相続財産における土地が占める割合は小さくなっていますが、土地オーナーにとってそれは安心材料にはなりません。割合ではなく、その金額が重要だからです。
下の図表9の数字を見てください。
土地の相続財産の金額は上昇しているのがわかります。すなわち、有価証券や現金・預貯金の金額が大きく伸びたことによって、土地の割合が相対的に下がっているだけです。
そのなかで、特に注目してほしいのが、2014年(平成26年)と2015年(平成27年)の差です。ここで大きく土地の相続財産の金額が上昇しています。その理由は、相続税が改正されたためです。
実際、被相続人全体に対する課税対象の割合は、2014年までは4%台でしたが、2015年以降は8%台を上回る水準で移行しています。これは相続税の申告者が、2倍近くにも膨れ上がったことを意味します。
では、2015年の相続税改正によって、新たに課税対象となったのは、どういった人なのでしょうか。それは、第1章にも書いたように、基礎控除額の引き下げによって、これまでは相続と関係のなかった方々です。
ここで、相続税増税によって、課税対象となる人が増えたことを示したいと思います。
相続税増税による変化
◉基礎控除の引き下げ
・2014年12月31日まで 5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)
・2015年1月1日以降 3,000万円+(600万円×法定相続人の数)
たとえば、子2人で7,000万円の相続財産を相続する場合、2014年までは基礎控除額が
5,000万円+(1,000万円×2)=7,000万円
となるので、課税される相続財産はゼロでした。しかし2015年以降は
3,000万円+(600万円×2)=4,200万円
となるので、2,800万円分(7,000 −4,200)課税対象となります。右の相続税の速算表をもとに1人1,400万円として計算をしてみると、
1,400万円×15%−50万円=160万円
相続税額は2人で320万円になります。
今回の相続税増税によって、「都心部かそれに近いエリアで、戸建てを持っている」というだけで、相続税を払う対象になったのです。
ただし土地における相続財産には、評価減に関する特例措置が複数あります。代表例が、自家用(特定居住用宅地)であれば、相続財産の評価減の措置が受けられるというもの。具体的には、土地面積で330㎡までは評価額を80%引きとすることができます。
しかし、土地オーナーは、所有する土地に自宅を建て、そこに住んでいるという方ばかりではないため、先の特定居住用宅地の評価減を使えない場合も多く、その場合は何らかの対策を講じなければ、相続税が重くのしかかるのです。
所有している土地の相続税評価額を把握しよう
相続税対策をするためには所有する土地の評価額を知らなければなりません。
注意しなければいけないのは、土地の価格は1つではないことです。土地の価格は大きく分けて5つあります。ここで一度、混同しないよう整理しておきましょう。
(1)実勢価格 不動産市場で実際に取引される価格のことを指します。別名、取引価格や市場価格と呼ばれたりします。街の不動産屋さんや不動産サイトなどで掲示されている土地の値段ということもできます。
(2)公示地価 国土交通省土地鑑定委員会が地価公示法に基づいて判定し、公示します。毎年1月1日時点における標準地(平成31年は全国26,000地点)の正常な価格を3月に示します。公示地価はほぼ実勢価格と同じということからもわかる通り、一般の土地取引に対する指標としての役割を持ちます。加えて、不動産鑑定、公共事業用地の取得価格算定、土地の相続評価や固定資産税評価、国土利用計画法による土地の価格審査など、さまざまな基準になります。
(3)基準地価 各都道府県が毎年9月下旬に発表する、7月1日時点での土地価格です。国土利用計画法に基づいて、全国2万ヶ所以上の「基準地」を調査対象として評価します。こちらも土地取引の目安となり、公示地価の時点修正の意味合いもあります。
(4)相続税路線価 先ほどの公示地価の約80%にあたるのが「相続税路線価」です。この相続税路線価は、国税庁が1月1日時点の価格を毎年7月に公表します。路線(道路)に面する標準的な宅地の1㎡あたりの土地評価額であり、相続税路線価が定められている市街地の土地などを評価する場合に用います。相続税や贈与税の課税額は、この相続税路線価が指標となります。相続税の課税額は、「相続税路線価×土地の面積」によって計算することができます。
(5)固定資産税評価額 これは各市町村によるもので、3年に一度の頻度で公表される1月1日時点の価格になり、固定資産税の計算に用いられるものです。先の地価公示価格の70%が目安とされますが、そのほかに土地が接する道の幅や状況、駅までの距離なども考慮されています。
また、そのほかにも国土利用計画法に基づく、基準値標準価格(基準地価)と呼ばれる毎年9月に都道府県が公表するものもあります。
これらのうち、土地オーナーのみなさんに大きく関係するのは、相続税にかかる「相続税路線価」だといえます。相続税路線価は国税庁によるインターネットサイトで、簡単に調べることができますので、一度チェックしてみるといいでしょう。
相続税路線価を用いることで相続税評価額の目安を計算することができますが、その評価にあたっては、原則的に地目別に区分することになります。さらにその土地の地目や形状によって相続税評価額は補正されます。
地目別の区分は、不動産登記事務取扱手続準則に則って行うこととされています。具体的には、「宅地」「田」「畑」「山林」「原野」「牧場」「池沼」「鉱泉地」「雑種地」の9つです。
注意点は、登記されている地目ではなく、現況に準じるということ。ですから、評価単位の判定を行う場合には、現場調査を行ったうえで決めていくことになります。
これら9つの地目のうち、基本的に本書をお読みのみなさんに関連するのは、「宅地」となります。
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