(本記事は、藤原正明氏の著書『収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則』クロスメディア・パブリッシングの中から一部を抜粋・編集しています)

当社でお手伝いさせていただいた土地活用の事例をご紹介します。

みなさんのご状況と照らし合わせて今後の土地活用の参考にしていただけたらと思います。

ケース 母が住む実家の建て替えに併せ、賃貸アパートを建築

不動産投資,路線価,基本
(画像=happymay/Shutterstock.com)

プロフィール

アキヤマ様(仮名)
東京都在住/本人・妻・子の3人暮らし
大手電機メーカー勤務

相続関係

被相続人 母(74歳)
相続人 本人(50歳)

ご要望、ご状況

東京都内在住のアキヤマ様は、お母様が大阪市内に戸建て住宅を所有し、一人暮らしをしています。お父様はすでに亡くなられています。アキヤマ様に兄弟はおらず、ご自身がすべて相続する予定であるため、早期に相続税対策を行いたいと考えました。アキヤマ様本人は東京都内に自宅を構え、奥様とお子様の3人で暮らしています。

一方、大阪の家は築60年という旧耐震基準の建物で地震による倒壊の心配があることと、これから進むことが考えられる身体的な衰えを考慮し、お母様はシニア向けマンションへの引っ越しも検討しています。ただし、お母様は、夫から相続したこの土地自体は売却せず守っていきたいと考えておられました。

被相続人の所有財産の内訳

現金 1,000万円
土地 300㎡(建ぺい率80%、容積率200%)
   第2種住居地域(借地権割合70%)

相続税評価額 1億500万円(路線価:35万円/㎡)

建物の固定資産税評価額 300万円

合計 1億1,800万円(相続税評価額ベース)

仮に今の状態で相続が発生すると、納税額は次の通りとなります。

課税遺産総額
=所有財産−基礎控除
=1億1,800万円−(3,000万円+600万円×1)
=8,200万円

法定相続人は1人であるため、速算表により以下の通りとなります。

納税額=8,200万円×30%−700万円=1,760万円

2-3
(画像=『収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則』より)

相続する現金とアキヤマ様の現預金を合わせると納税額には足りるものの、なるべく納税額を少なく抑え、かつ賃貸経営による収益源も確保したい、というのがアキヤマ様の思いでした。というのも、これからも土地を守っていくことはもちろん、これから10年、20年と続くお母様の生活に余裕をもたせたいとアキヤマ様は考えているからです。

チェックポイント 所有財産の把握について

こうした被相続人が所有する財産は、漏れのないようにすることが大切です。相続税対策をした後に、さらなる財産が判明したりすると、追加での対策が必要となりますし、場合によっては非効率になったり、対策が間に合わないこともあるからです。

したがって、基本的に専門家である税理士の助けを得て、洗い出しを行います。すでにお付き合いのある税理士がいれば、その方に依頼しましょう。もしお付き合いがないのならば、当社でもご紹介可能です。

ご提案

土地診断を実施した結果、大阪市内ということもあり賃貸需要は中長期的に見込まれることから、賃貸アパートの建築をご提案いたしました。単身向け住戸のほうが収益性は高まるものの、ファミリー向けニーズも高い立地であったことから、単身者向けとファミリー向けの混在プランとしました。

建築プラン

構造 木造3階建(劣化等級3級)

延床面積(住居面積) 380㎡
間取り 2LDK×4戸(2LDK・64㎡)
    1LDK×4戸(32㎡)
    合計8戸 ※駐車場2台

建築費用

建物本体建築工事費 8,000万円(税抜)
付帯工事費(解体、地盤改良、外構) 900万円(税抜)
工事合計 8,900万円(税抜)※9790万円(税込)
諸費用  300万円(税込)
合計 1億90万円(税込)
1年あたりの減価償却費 458万円
 (建物 7,300万円、建物附属設備 1,830万円)

建物固定資産税評価額 5,500万円

家賃収入等

年間家賃収入  984万円(表面利回り 10.05%)
空室損・滞納損 45万円
運営費     145万円
NOI      794万円
FCR      7.87%

融資条件

金融機関   地方銀行
借入金額   9,590万円(自己資金 500万円)
金利     1.0%
借入期間   35年(元利均等返済)
年間返済額  325万円
ローン定数K 3.39%
YG     4.48%(FCR7.87−K3.39)

収支・キャッシュフロー

税引前CF
=NOI794万円−年間返済額325万円
=469万円

課税所得(1年目)
=NOI 794万円−利息94.8万円−減価償却費458万円
=241.2万円

納税額(1年目)
=241.2万円×所得税・住民税率(20%)
=48.24万円

税引後CF(1年目)
=税引前CF 469万円−納税額48.24万円
=420.76万円
※ここから長期修繕積立金をためておく必要がある。

アキヤマ様は当社以外に大手ハウスメーカーにも問い合わせを行っていました。しかし、収益性が悪い提案だったそうです。そこでインターネットや本などで熱心に情報収集を行ったところ、多数の土地活用で失敗する事例を見てきたと言います。

したがって、いくら相続税対策といっても、中長期的な賃貸経営を行っていくためには収益性やキャッシュフローにもこだわるべきだと考えており、最終的に当社のプランで進めていただけることになりました。

相続税対策の効果

土地活用によってどの程度の相続税対策効果があったのでしょうか。土地と建物の両方を見ていきます。

土地については、貸家建付地の評価減、一部面積分は貸付事業用宅地等の評価減が適用できます。

○200㎡部分まで
 200㎡×35万円/㎡
  ×(1−借地権割合70%×借家権割合30%×賃貸割合100%)
  ×50%
 =2,765万円

○200㎡を超える部分
 100㎡×35万円/㎡
  ×(1−借地権割合70%×借家権割合30%×賃貸割合100%)
 =2,765万円

土地評価額=2,765万円+2,765万円=5,530万円

建物については、貸家の評価減と被相続人であるお母様の課税遺産総額は次の通りとなります。

 建物評価額
=固定資産税評価額5,500万円
 ×(1−借家権割合30%×賃貸割合100%)
=3,850万円

対策後の課税遺産総額
=現金500万円+土地5,530万円+建物3,850万円−借入金9,590万円
=290万円

基礎控除以下の遺産総額となり、相続税はかからないようになりました。

相続税の基礎控除額3,600万円>課税遺産総額290万円

今後について

本物件は竣工前にすべての部屋に申込みが入り、満室スタートとなりました。サブリースは当社のご提案通り行っていません。結果として、アキヤマ様とお母様は利益を最大限に享受することができています。

お母様は本物件近くにあるバリアフリー仕様の賃貸マンションに引っ越しされていますが、本物件から生まれる潤沢なキャッシュフローで家賃などの支払いをされています。相続税を支払うことなく、土地を守ることができたということで、大変喜んでいただいています。

アキヤマ様のように、実家の相続相談は今後急増すると想定されます。核家族化が進み、子の多くは離れて暮らし、すでに自分で住宅を購入していることも多いです。そうした場合、実家をどのようにするのか、早いうちから家族会議によって対策を練っていくことが大切だと言えます。

チェックポイント 家族会議の重要性とは?

土地活用・相続税対策にあたっては、親が主導のときと子が主導のときがあります。親が主導のときは子にあまり相談せず物事を決めて、子は何も知らされず相続発生後に多額の借金をして賃貸経営していたことが発覚するといった問題が起こりがちです。子が主導する場合は、きちんと親子で相談したうえで、子が動いているケースが多いです。

いずれにしても重要なのは、被相続人と相続人がきちんと家族会議をすることです。家族会議のメンバーには、相続に絡む人全員を入れることが、後のトラブルを防ぐことにつながります。家族会議の内容としては、「相続税対策を何もしない場合、相続税がどれくらいかかるか」「相続税の支払能力があるか」「相続税対策をする場合、その内容を共有・検討すること」が大切です。

同時に、財産分与についても話し合っておくことが必須です。相続後は、一族の大黒柱であることが多い被相続人がいないという前提のもと、相続人同士で争わないように準備しておくことも、相続税対策なのです。

収益性と相続税対策を両立する土地活用の成功法則
藤原正明(ふじわら・まさあき)
大和財託株式会社 代表取締役CEO。1980年生まれ、岩手県出身。三井不動産レジデンシャル株式会社を経て、ベンチャー企業で実務経験を積む。2013年に大和財託株式会社を設立。東京・大阪で収益不動産を活用した資産運用コンサルティング事業を展開。全国の投資家や土地オーナーの悩みを解決し、絶大な支持を得ている。著書に『はじめての不動産投資 成功の法則』、『中小企業経営者こそ収益不動産に投資しなさい』など。

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