2020年に世界的な社会問題となった新型コロナウィルスの感染拡大は、デジタル化への流れを促進し、非接触型サービスへの需要の高まりによって、従来の社会的信頼のあり方の問題点を浮き彫りにしました。
インターネットの普及とともに進展したグローバル化の恩恵を受け様々な産業分野が発展を遂げた一方、取引には複数社が複雑に関係し合うようになり、非効率で煩雑なプロセスの改善に向けた共有プラットフォームの構築が近年では行われています。
現在、社会的信頼性を担保するメカニズムの多くはデジタル技術を想定していない時代からの旧態依然としたモデルであることからアップデートが必要とされており、ブロックチェーン技術は最新技術との統合によってデジタル経済の新たな信頼のメカニズムを構築することを実現します。
本稿では、社会のデジタル化とともに活用が見込まれるブロックチェーン技術の最新事例について解説していきます。
ブロックチェーン技術のメリット
「北京国際ビッグデータ取引のための実施計画」を発表した北京市財務監督管理局と北京市経済情報技術局は、標準化されたデータベースの構築にブロックチェーン技術を採用することを提案。
ブロックチェーン技術と異なる技術の組み合わせによって新たなデジタルエコシステムを形成する概念は「ブロックチェーン +」と呼ばれ、ビジネスモデル全体の透明性を向上させるのみならず、データプライバシーを保護し、ユーザーエクスペリエンスとガバナンスの向上をも実現します。
また、IoTの普及とともにデータの価値の信頼性を担保するメカニズムのデジタル化の必要性はさらに高まることが予想され、データ取引/管理に関するセキュアな環境整備、コンプライアンスの遵守、機密性の改善に向けてブロックチェーン技術は活用が見込まれます。
ブロックチェーン技術を活用し、信頼のメカニズムをデジタル化することで、例えば金融市場では仲介業者を介さずとも自動で取引ができるようになりました。
物流市場では、品質データの改竄が難しくなることで、市場全体の信頼性が向上し、トレーサビリティのみならず、国際送金の迅速化や書類管理/取引のデジタル化によって、新たな成長フェーズに突入することが予想されます。
従来のビジネスモデルや社会構造を根本から変革させる力がブロックチェーン技術にはあり、信頼を担保するメカニズムのデジタル化は企業間のみならず、社会構造の大規模な相互運用を実現し、各技術の統合と開発に新しい機会を提供します。
Trusted Webとブロックチェーン技術
デジタル社会におけるデータ・ガバナンスをどのように構築するかについてはTrusted Web 推進協議会を中心に日本でも議論が行われています。
近年では選挙コンサルティング会社であるケンブリッジアナリティカ社が、Facebookのパーソナルデータを利活用して世論形成の誘導を行った事件などが社会問題となるなど、ガバナンスが欠如していることで、データの利活用のブラックボックス化が進行。
個々人がアイデンティティ(ID)をコントロールし、より安全で健全なデータの利活用が促進されることで、デジタル社会の形成が見込まれます。
そして、そのデータの利活用によってもたらされる価値をマネージする仕組みを「Trusted Web」を呼びます。
信頼を担保するメカニズムの再構築に向けてはデータ・ガバナンスのそれぞれのレイヤーに適合した技術が存在し、人工知能によるパーソナルエージェントや分散型ファイルシステム、P2P取引(スマートコントラクト)、エッジ(IoT)などが、Trusted Webの構成要素として紹介されています。
ブロックチェーン技術は、Trusted Webにおいてもトレサビリティやガバナンスの技術要素とされ、非改竄性や非中央集権型といった特性は信頼を担保するメカニズムとして有用性の高いものであると考えられます。
社会的信頼メカニズムのデジタル化にむけて
中国においては、Ant group、Tencent、JD.comgが独自のブロックチェーン技術を開発しており、暗号法の施行とともに政府と地方自治体が率先して、市場の発展を支援しています。
一方、各国においてはブロックチェーン技術の導入は限定的であり、社会の信頼を担保する基盤技術としてはまだ開発の初期段階にあるとも言えます。
このことからブロックチェーン技術による社会構造の変革は、その社会的受容を目的とした政策提言などによる中長期的な枠組み作りが必要になることでしょう。
国家や地方自治体による政策の実施は、技術革新を支える継続的な投資を促進する上では大きな役割を果たしますが、最終的には各企業が合理的なビジネスモデルを構築できるかが重要であり、ビジネスニーズに対応し、技術的な手段を用いて課題を解決するには人材の育成も欠かせません。
ビットコインの登場とともにブロックチェーンは一連のブームの中で、技術特性が広く認知されるようになり、金融機関や取引所ビジネス、貿易金融に関連する分野では、多くの研究と商用化への取り組みが行われています。
将来的にブロックチェーン技術はビジネスモデルの合理性を追求する1つの手段として用いられ、業界全体における標準化とともにデジタル経済の新しいインフラストラクチャの構築を支援する上でより大きな役割を担うことになるでしょう。
まとめ
現在のインターネットビジネスにおける信頼の欠如を改善するべく、自己主権型アイデンティティ、取引の非改竄性の担保、第三者機関を介さないP2P取引の実現といった概念は大きな注目を集めています。
一方、その技術に関しては実用化に向けた研究/実証の段階にあり、産業/社会構造のデジタル化によって信頼のあり方を変革する必要に迫られる中、社会的機運の醸成に向けて様々な取り組みが行われています。
ブロックチェーン技術は、クラウドコンピューティング、IoT、人工知能などの技術と組み合わさり、コラボレーションネットワークにおける新しいタイプの信頼メカニズムを創出することで、従来の社会構造を再構築し、新しいビジネスチャンスとフォーマットを生み出すことでしょう。(提供:STOnline)