コロナ禍の貸出増加額の約9割は「法人向け運転資金貸出」
(日本銀行「預金・現金・貸出金」統計)
トリグラフ・リサーチ 代表 / 大久保 清和
週刊金融財政事情 2020年11月2日号
預貸金動向の変化の主因を確認する際に有用なのが、日本銀行の「預金・現金・貸出金」統計だ。この統計を用いれば、「相手先別」「資金使途」の二つの分類で貸出の増減分析が可能となる。
結論を先に述べるが、コロナ禍を契機とした今回の貸出残高急増の牽引役は、「法人運転資金貸出」である。図表1は2007年度下期以降の国内銀行の総貸出金、法人運転資金貸出、その他貸出金の前年同月比増減率推移を示している。最新統計である8月の増加率は、総貸出金が6.1%、法人運転資金貸出が10.7%、その他が2.8%であり、4月以降、法人運転資金貸出の増加率が総貸出金を大きく上回る状況が続いている。リーマンショック後にも同様の動きがあったが、法人運転資金貸出の増加率ピークは09年1月の5.4%だった。足元は5月以降4カ月連続で10%超の増加率を維持しており、水準が極めて高い。
図表2には、貸出相手先別・資金使途別に、今年3月末から8月末まで5カ月間の貸出増減額と総貸出増加額(18.61兆円)に占める割合(貢献度)を示した。法人運転資金貸出の増加額は16.37兆円に達し、実に総貸出増加額の88%を占めている。リーマン後5カ月間(08年9月末~09年2月末)の法人運転資金貸出の増加額は11.18兆円であり、足元の増加額はその1.5倍の規模だ。これは、企業が迅速かつ大規模な手元流動性確保に動いたことに加え、各種資金繰り支援策が有効に機能した証左といえよう。
だが本当に大切なのは今後の対応だ。リーマン後の貸出増加は「一過性」であり、法人運転資金貸出は09年10月から23カ月連続で前年同月比減少となった。この間、法人貸出需要の低迷と金融緩和の動きとが相まって新規貸出約定金利の急低下が進んだ。リーマン後の二の舞とならないためには、銀行は資金繰り支援から、取引先企業の経営改善や事業再生支援へと軸足を移し、プロパー貸出をより積極的に推進する必要がある。
(提供:きんざいOnlineより)