毎回手ごわい「敵」が現れ、激しい戦いの結果、相手を完膚なきまでに叩き潰す……。そんな展開が繰り広げられる大人気ドラマ『半沢直樹』に自分を重ね、爽快感を覚えている人は多いだろう。
しかし、「そもそも40代になったら敵を作ってはならない」と言うのは、これまで1万人以上のビジネスパーソンにインタビューをしてきたコンサルタントの大塚寿氏だ。30代までと違い、40代からは敵やライバルの存在がマイナスになるというその理由とは?
*本稿は、『できる40代は、「これ」しかやらない』(PHP研究所)の内容を抜粋・編集したものです。
「あの部門に負けるな!」が深刻な問題に発展!?
20代、30代にとって「敵」あるいは「ライバル」はプラスに作用します。「あの人には負けたくない」「あいつを見返してやる」という意識が、個人のパフォーマンスを高めてくれるからです。
ただし、30代後半から40代になると、潮目が変わります。「個人としてのパフォーマンス」から、部や課など「チームとしてのパフォーマンス」を最大化することを期待されるようになるからです。個人戦から団体戦へ種目が変わるのです。
この潮目の変化を見逃すと、大変なことになります。例えば、「あの部門には絶対に負けるな」「本社を見返してやれ」といった檄が逆効果になり、部門間対立や主導権争い、派閥闘争などに発展してしまう危険性があるのです。
こうした抗争は勝っても負けても感情的なしこりが残り、ことあるごとに争いが再燃するという負のスパイラルに陥ります。その結果として経営破綻にまで至った企業を、これまで何社も見てきました。
ドラマ『半沢直樹』で描かれるような明確な対立構造は見ているほうにとっては爽快なのですが、実際にはああなる前に問題を解決しておくことが、「できる40代」の条件。間違っても相手を土下座させるようなことがあってはなりません。
ドラマで描かれる「親会社と子会社の対立」も同様です。「親会社を見返してやれ」という檄は一時的にモチベーションを高めても、将来協業する際のしこりになる可能性が高いのです。
「エース」と呼ばれる人ほど、実は「見えない敵」が多い
では、具体的にどうすればいいかというと、月並みですが「他人や他部門の悪口を言わない」ことに尽きます。部門トップの立場で「あいつらのやっていることは時代遅れだ」「あの部門は非効率極まりない」などと公言すると、その話は必ず伝わり、部門間のしこりとして残ります。わざとそういう話を注進し、社内の混乱をあおる人間もいます。内々の場であっても、発言には十分に気をつけましょう。
もう一つ怖いのが、「嫉妬」です。できる40代にとって敵は作ろうとしなくても「できてしまう」のです。
ある企業で部長を務めるAさんは、若くして実績を上げ、海外の新規プロジェクトの責任者に抜擢されたエースでした。しかし、その直後にリーマンショックが発生。Aさんの海外プロジェクトは撤退を迫られました。
そのとき初めて、Aさんはいかに多くの人が自分の「敵」だったかに気づかされたそうです。「人の不幸は蜜の味」ではありませんが、Aさんにジェラシーを感じていた多くの人は、彼の失敗をむしろ喜んでいたのです。
最終的にはその状況を乗り越えたAさんですが、管理職に就く後輩にはいつも、「組織社会は1人に認められたら、7人の敵ができる」と諭しているそうです。本人の体験があってこその、説得力のある言葉です。
そう、40代からは「できてしまう敵」、特に仕事のできる人は周りからのジェラシーに気をつけなくてはなりません。「出すぎた杭は打たれない」などとも言われますが、実際にはジェラシーというウイルスが、杭の根元からじわじわと侵食してくるのですから厄介です。