デジタルIDやデータ連携基盤の利活用は、従来の第三者機関を介して信頼を担保してきた社会構造の非効率性を改善し、経済をデジタルデータによって活性化させるデータ駆動型社会の基盤として活用が期待されています。
近年では顧客の行動データを収集/分析し、より良い顧客体験の提供を図る取り組みが進む一方、そのデータの利活用は個々人がコントロールできないといった課題が存在し、ケンブリッジアナリティカ社が「説得可能な投票者」への心理ターゲティングを目的にFacebookの利用者のパーソナルデータを不正に取得していた悪質な事例などを教訓に健全な市民生活を維持するための新たな社会的信頼基盤の構築が必要不可欠であると考えられます。
しかしながら、国家が市民生活の安全を担保できる領域は年々狭まっており、米国のビックテック企業が提供するサービスが私たちの生活に広く浸透し、その産業分野は多岐にわたる現在、巨大な資本を有する民間企業によるデータエコシステムの拡大は、国家運営へ悪影響であるといった懸念も指摘されています。
本稿では、第1回データ戦略タスクフォースで発表された「トラストサービスの現状と課題」について解説し、データ駆動型社会における社会的信頼基盤の構築について考察していきます。
トラストサービスの現状と課題について
2010年代は、
G-MAFIA=Google、Microsoft、Apple、Facebook、IBM、Amazon
BAT= Baidu、Alibaba、Tencent
といったビックテック企業が従来のインターネットビジネスをデータエコシステムを活用し発展させてきました。
2020年代は、拡大するデータエコシステムの信頼性を担保し、健全化を図る取り組みが進行すると同時に、「その信頼を担保する機関が国家であるか民間であるべきなのか?」が問われており、ヨーロッパでは第三極政党の台頭など急進右派政党が支持を集める事例も確認されている中で、「国家が信頼を担保するトラストサービスが果たして信頼できるのか?」といった観点からも議論が交わされています。
一方、ビックテック企業への規制強化が米国では進み、中国でもMeituan、Pinduoduo、DiDi、ByteDance「第2世代」の台頭によって市場経済は群雄割拠の様相がさらに強まり、「顧客のアイデンティティをどのようにして獲得し、他社よりも優れたサービスを展開するか」が重要とされる現在のビジネス構造において民間が提供する「トラストサービス」の信頼をどのように担保してくかは経済規模/影響力の拡大にしかないとも考えられます。
その信頼の強度が、国家が提供する「トラストサービス」を超えるかどうかは、それぞれの市民が決定することではありますが、政府への信頼度が低い国では地方政府/自治体が支持される傾向にあるなど、「トラストサービス」の信頼を担保する機関は全世界的な観点から見ると細分化され、統一的な信頼の担保のあり方をどのように定義するかは「自己主権型アイデンティティ」の提唱者であるクリストファー・アレンが掲げた10の原則に各トラストサービスが適合しているのか、「World Wide Web Consortium(W3C)」が開発を進める「Decentralized Identifiers」「Verifiable Credentials」を標準の1つとして定めるのかなどの検証が現在は必要なフェーズにあるでしょう。
第1回データ戦略タスクフォースで発表された「トラストサービスの現状と課題」では、最終的に「自由と信頼のルールに基くデータ流通圏と国際相互連携」によってデータが信頼感を持って国家間で流通することが描かれており、国内においてはマイナンバーカードの普及率100%を達成し、世界的な標準に基づいて国家によるトラストサービスを提供した上で、民間による「トラストサービス」を認定していくなど段階的なアプローチが必要になると考えられます。
しかし、イギリスではデジタルID「Gov.ukVerify」の普及に向けて、政府は民間企業5社を選定し、デジタルIDプロバイダーとして任命していましたが、大幅な進捗の遅れや社会的受容が進まないことを理由に5社中3社が契約を更新しないといった事態に発展し、計画が見直しが行われています。
G-MAFIAなど民間企業によるパーソナルデータの利活用は、負の側面だけではなく私たちの生活に利便性をもたらしていることから「国家が信頼を担保するトラストサービスが果たして市民生活に必要なのか?」といった本質的な問いに対して、明確な答えを見出すことは難しく、国際相互連携の実現可能性を検証するためには、国境を越え各国でパーソナルデータの管理/活用を進める民間企業が提供する「トラストサービス」の信頼をどのように担保し、国家的な枠組みと紐づけるのかといった議論も行われるべきでしょう。
国民が安心してデジタルデータを活用できる社会の実現
第1回データ戦略タスクフォースで発表された「トラストサービスの現状と課題」では、「トラストサービス」の信頼を担保する存在を「トラストアンカー」と称しており、アイデンティティの審査から発行、連携などの役割を担うとしています。
「トラストサービス」は、電子署名やタイムスタンプ、ウェブサイト認証といった機能をはじめとして、モノの正当性の認証も実現するとされ、IoTデバイスの信頼性が担保されることで、スマートコントラクトによる合意形成の自動化がより活用されるデータエコシステムの形成も見込まれます。
「トラストサービス」の信頼をどのように確保するかといった観点からも記述がなされており、各サービスに応じて「客観的基準への適合性」を検証し、国家/民間による関与を検討するとしています。
利便性の追求は、信頼性を損なうことに繋がり、国民の一人一人が安心してデジタルデータを信頼できる環境の構築がデジタル社会の実現に向けては重要となり、真正性、完全性を証明することが「トラストサービス」の信頼を担保することにつながります。
それぞれの「トラストサービス」の位置づけ/役割を明確にすることで、国民が安心してデジタルデータを信頼できることが必要とされ、その認証/認可の仕組みなど技術的な知見から理解を深めることなど様々な啓蒙活動の展開が期待されます。
まとめ
国家と民間が連携して「トラストサービス」を構築する仕組みとそれに伴い国民の理解醸成が図られる施策が講じられることで、信頼が担保された「トラストサービス」の普及が見込まれます。
データの真正性、完全性を証明する「トラストサービス」が実現することで、データ駆動型社会の基盤が構築され、私たちデータに基づいた経済社会の恩恵を享受することが可能となります。
「トラストサービス」の制度化、法制化に向けては国民の信頼を得ることが重要となり、データ戦略タスクフォースの意向を反映させ、社会的議論を活性化させることが期待されます。(提供:STOnline)