ホテルなど宿泊施設の利用とは異なり、見知らぬ人を自分の家に招き入れるビジネスモデルは当初、市場に受け入れられないと考えられてきました。

なぜなら、宿泊を希望する人がどんな人間かもわからず、宿泊する側もオーナーが信頼のおける人間なのか、もしかしたら危険な目に合うのではないかとといった警戒をするからです。

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(画像=STOnlineより)

しかし、エアビーアンドビーが観光・宿泊業にもたらしたのは潜在的なリスクだけではなく、民泊への宿泊を通じたコミュニティの形成と旅に新たな出会いと発見をもたらすストーリー性でした。

非日常なひと時を過ごす気ままな旅は、高級なホテルに宿泊するのも1つの選択肢ですが、その土地に住む人々との交流は何事にも代えがたい思い出を私たちに与えてくれます。

そして、そのホスピタリティに触れ、価値観が変化し、新たな出会いへの感謝の気持ちが芽生えた時、人は人生に新たな可能性を見出します。

旅を通じて、人は多くのことを学びますが、エアビーアンドビーは観光・宿泊業にさらなる付加価値をもたらし、新たなコミュニティを社会に提供し続けることができる点において市場において大きな差別化戦略を有しているのです。

今回、エアビーアンドビーは、ナスダックへの上場を目指し、米国SEC(証券取引委員会)にS-1(目論見書)を提出。

各国で民泊事業を手がけるエアビーアンドビーは、新型コロナウィルスの感染拡大による観光・宿泊業の低迷の影響から業績が大きく落ち込んでいるものの企業価値は190-300億ドルと推定されています。

本稿では、エアビーアンドビーのビジネスモデルについて解説し、観光・宿泊業の今後について解説していきます。

目次

  1. エアビーアンドビーを取り巻く市場環境
  2. エアビーアンドビーの将来性
  3. まとめ

エアビーアンドビーを取り巻く市場環境

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エアビーアンドビーにとって2020年度は、3月頃から予約のキャンセルが急増したことで、返金費用として2億5,000万ドルを確保する必要に追われるなど、経営環境の急速な悪化への対応に悩まされた1年でした。

4月には、SilverLakeとSixthStreetから債権と株式を組み合わせて10億ドル(利率 約11.5%)、Fidelity、T. Rowe Price、Blackrockなどからシンジケートローンで10億ドル(利率 約9%)の合計20億ドルの資金調達を実施。

米国旅行協会は、新型コロナウィルスの感染拡大によって2020年3月から4,430億ドルの収益が失われたと発表している一方、米国では感染防止にむけて都市から農村部への移住を試みる事例も数多く確認されています。

この恩恵を受け、米国の農村地域におけるエアビーアンドビーのホストは2020年6月に2億ドル以上の収益を上げており、社会的距離を保てる環境を提供することで都市部における観光・宿泊業低迷の影響を軽減することにつながりました。

人口が密集する地域から離れ安全を確保しようとする消費者ニーズは、観光・宿泊業の新たなトレンドと認識されており、日本でも人里離れた北海道の山間部における一戸建て宿泊施設への人気は高まりを見せています。

エアビーアンドビーの将来性

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単一の施設を提供するホテル事業よりもリスクヘッジが利くといった特性がこの1年で証明され、幅広い消費者ニーズへの対応が可能な宿泊施設の多様性は、エアビーアンドビーのビジネスモデルの大きな特徴と言えるでしょう。

2020年は、7-9月四半期は売上13.4億ドル、2億1,900万ドルの黒字化に成功しており、急激な市場環境の変化への対策として固定費削減によって限界利益以上の損失を計上しないといった企業経営を実現しています。

しかし、ヨーロッパや日本において新型コロナウィルスの感染が再拡大しており、民泊の運営自体にも大きなリスクがあることからその継続性に関しては中長期的な観測が必要となります。

そして、民泊(短期賃貸)への規制や地域住民からの反発、犯罪防止などの安全面が潜在的なリスクとして認知されており、上場企業となることで1つの事件や事故が株価の下落を招くといったことも考えられます。

ホストのホスピタリティやゲストのマナーに関しては管理できない点が多く存在しており、従来のホテル事業が顔認証を導入し、より無機質な特徴を有するビジネスモデルに転換するなど市場環境が多様化していく中で、エアビーアンドビーは、ホームシェアリングビジネスの可能性をどのように提供していくのでしょうか?

まとめ

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2009年には世界的なVCセコイアキャピタルから600,000ドルを調達し、ホームシェアリングビジネスを各国に根付かせたエアビーアンドビーですが、様々な要因が絡み合うこのタイミングでのIPOは、投資家の判断をより複雑にしているようにも思えます。

観光・宿泊業の課題解決に向けては積極的に新たなビジネスモデルを構築することが求められますが、日本でもGoToトラベルキャンペーンが実施されるなど既存の産業構造を維持する取り組みもまた必要不可欠です。

そのような観点からエアビーアンドビーのさらなる発展が、観光・宿泊業の将来的な産業構造の土台を担うとも考えられ、個々人の趣向が多様化/細分化する中、コミュニティにおける体験価値の向上/社会的距離を保てる宿泊環境の提供がどのように投資家に評価されるのか、大きな注目が集まることでしょう。(提供:STOnline