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国内貸出業務の収益性は与信費用控除前では改善の兆し

(日本銀行「民間金融機関の資産・負債」ほか)

トリグラフ・リサーチ 代表 / 大久保 清和
週刊金融財政事情 2020年11月30日号

 2020年3月期の国内銀行の預金債券等調達利回りは、0.01%にまで低下した。マイナス金利政策の出口が見えないなか、当面、預金調達コスト上昇の懸念は小さいと考えられる。従って、今後の国内貸出業務の収益性は、①貸出残高、②貸出約定金利、③与信費用という3要因の変化によって決まることとなる。

 図表1は、07年8月以降の国内銀行の貸出残高(平残)の前年同月比変化率(残高変化率)と、ストック貸出約定平均金利の前年同月比変化率(金利変化率)、そして両項目の合算値の推移を示したものだ。合算値は、与信費用控除前の貸出業務の収益性変化を月次で把握する際に有益な指標だ。

 図表1の合算値推移から、貸出約定金利の急低下を主因としたリーマンショック後と、マイナス金利政策導入後の収益性悪化の厳しさが確認できるだろう。最新統計である今年8月の計数は、残高変化率+7.2%、金利変化率▲8.0%、合算値▲0.8%である。合算値は09年1月以降、実に140カ月連続でマイナス(収益性悪化)の状態が続いているが、8月の水準は悪化度合いが最も小さくなっている。

 図表2は、業態別の貸出業務の収益性について、今年3月から8月までの変化を示している。「民間金融機関の資産・負債」統計において業態別貸出平残は公表されていないため、国内銀行を含む全業態の残高変化率を「末残」ベースで算定した。都市銀行と地方銀行については、金利低下率が残高増加率を依然として上回っており、貸出業務の収益性(合算値)は悪化した。これに対して第二地銀は金利低下率が最も低かったことから、収益性は改善している。なお、同期間における信用金庫の残高増加率は+5.6%、金利低下率は▲5.0%、合算値は+0.5%であり、第二地銀と同じく収益性は改善している。

 このことから、中小企業向け貸出依存度が高い業態から、貸出業務の収益性に改善の兆しが現れつつあると推定される。しかしながら、これはあくまでも「与信費用控除前」ベースでの動きである。今後の国内貸出業務の収益性に最も大きく影響を及ぼすのは、「与信費用」の動向であろう

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(提供:きんざいOnlineより)