デジタル資産市場においてはビットコインが各取引所において最高値を更新し、イーサリアム2.0もビーコンチェーン(Beacon Chain)の実装とともに本日、12月1日にローンチが予定されています。

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(画像= STOnlineより)

取引所における暗号資産流出やスキャムプロジェクトが横行した2017-2018年の影響で各国で法整備が進んだことが記憶に新しいですが、最近では米国における量的緩和政策によって米ドルが増刷されていることから機関投資家がインフレヘッジの金融商品としてビットコインを再評価している傾向にあり、個人投資家もSquareやPaypalを通じて気軽に投資ができる環境が整備されつつあります。

「希少性の高い資産のトークン化」といった観点では様々な資産を法律に準拠して発行する「セキュリティトークン」への取り組みも進んでおり、デジタル資産市場をより包括的に観測するとデジタルな資本市場の形成が確認できます。

本稿では、デジタル資産市場におけるビットコインやセキュリティトークンの今後について各事例を紹介しながら考察していきます。

目次

  1. ビットコイン 決済や資産運用としての利活用が進む
  2. セキュリティトークン あらゆる資産の取引ビジネスの活性化に向けて-initial public commodity offering-
  3. まとめ

ビットコイン 決済や資産運用としての利活用が進む

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ビットコインは価格上昇のみならず関連ビジネスの発展も促進しており、ベネズエラでは政府がマイニングセンターを設立するなど、米ドルを回避し、将来的には決済手段として活用することも検討されています。

すでにベネズエラではビットコインでピザハットのピザを購入することができるようになり、今後は「決済手段としてのビットコイン」についても多くの議論がなされることでしょう。

日本でもデジタル資産を活用したレンディングサービスの提供が行われていますが、米国では機関投資家向けのサービスの普及が進んでおり、ビットコインやイーサリアムの投資信託を販売している「グレイスケール・インベストメント」は運用資産残高122億ドルに到達するなど、多くの資金がデジタルアセット市場に投じられています。

多くの企業がグレイスケールのビットコイン投資信託への投資を今後行うことも予想され、投資運用会社グッゲンハイム・パートナーズは、自社の販売するファンドにビットコイン投資信託を最大10%組み入れることを検討していることを発表。

その他にも資産運用会社デジタル・アセット・インベストメント・マネジメント(DAiM)が確定拠出年金(401k)プランのポートフォリオにビットコインを組み込むアドバイザリー業務を開始し、デジタル資産関連企業「BlockFi」「Square」もビットコイン/ビットコイン投資信託を大量に保有しています。

取引所ビジネスやカストディサービスの普及とともにエコシステムの形成が進んだデジタル資産市場においては機関投資家向けのサービスの提供が進み、法定通貨の信用が低下している国ではビットコインが決済手段としての利活用が進むことが予想されます。

現在、ビットコインの未処理取引数は8万9751件に及んでおり、さらなる市場拡大がどのような構造的変化を資本市場にもたらすのか大きな注目が集まることでしょう。

セキュリティトークン あらゆる資産の取引ビジネスの活性化に向けて-initial public commodity offering-

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証券取引所における即時決済の実現に向けて証券のデジタル化の文脈でセキュリティトークンの利活用が進み、中国やフランスでは実証実験がすでに行われています。

デジタルアセット領域においてはICOに変わる新たな資金調達方法としてSTOが2018年頃から米国を中心に行われるようになり、最近では私募市場における資金調達の効率化のみならず公募型STO(デジタルIPO)による一般投資家に対する未公開株式(プライベートエクイティ)への投資機会の提供をも実現しています。

米国では私募市場において規制緩和が進んだことで未公開株式(プライベートエクイティ)投資が活性化し、近年では公開市場よりも資金調達の総額が大きくなっています。

また、IPOまでの期間が長期化していることもありSPAC(特別買収目的会社)によるIPOによって大型の資金調達を実施し、その資金で有望なスタートアップ企業を買収/合併するスキームが2020年は米国において流行。

このことから未公開株式(プライベートエクイティ)市場におけるセカンダリーマーケットの必要性が近年では高まっており、投資家ニーズを満たす新たな市場形成に向けて株式のみならず、「法規制に準拠した資産のトークン化」を実現するインフラストラクチャーの整備が進んでいます。

セキュリティトークン取引所の開発/運営を目指す「INX」は、公募型STO(デジタルIPO)での資金調達を進めており、tZEROと並んで米国のセキュリティトークン取引所(ATS)として利用されていたOpenFinanceNetworkを買収するなど積極的な事業を展開。

「INX」は、ダイヤモンドの金融商品の開発/提供を行う「ダイヤモンドスタンダード」との協業を発表し、「ダイヤモンドスタンダードコイン(Diamond Standard Coin)」の上場に向けて規制当局からの承認に向けた取り組みを進めています。

ダイヤモンドスタンダードコインは、ダイヤモンドを担保にしたセキュリティトークンとされ、発行総額は2,500万ドルとされ、将来的に実現がなされた場合には米国における希少性の高い実物資産のトークン化/セカンダリー取引の歴史的な事例(initial public commodity offering)となります。

ダイヤモンドなどコモディティを担保にしたセキュリティトークンがどれだけ投資家を引きつけるかは未知数な部分もありますが、VertaloとWave financialが進めるバーボンウィスキーのトークン化の事例に続いて、あらゆる資産の取引ビジネスの活性化が図られようとしています。

1.2兆ドル規模のアセットクラスであるダイヤモンド市場への投資機会の提供に向けて「ダイヤモンドスタンダード」は「ダイヤモンドスタンダードコイン」をデジタルトークン/ワイヤレスチップを組み込んだ実物の2種類で発行を予定。

INXの取引プラットフォームでは、「ダイヤモンドスタンダードトークン(DiamondStandard Token)」として投資家に提供され、同時に物理的な商品自体も取引することとなり、デラウェア州におけるカストディサービスを利用することで、いつでもワイヤレスチップが組み込まれた「ダイヤモンドスタンダードコイン」を受け取ることができます。

INXのCMOであるダグラス・ボースウィックは「INX取引所にダイヤモンドスタンダードコインが上場することで、INXが目指す独自資産の取引で金融の未来を変革するというビジョンが前進します。機関投資家と個人投資家の両方が、オルタナティブなダイヤモンドにデジタル形式で投資できるようになることを嬉しく思います。」と述べており、今後はダイヤモンド投資市場の拡大に期待が寄せられます。

まとめ

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ビットコインやセキュリティトークンの今後は、デジタル資産市場への投資家参入が相次いでいることから様々な関連サービスの展開が見込まれています。

ビットコインが普及した2016-2018年頃の黎明期においては取引所ビジネスの急拡大によって取引インフラが整備され、そのことで多くの投資家がKYCを行うことで、気軽に投資できる環境が整備されました。

セキュリティトークン市場においてもより多様的な取引所ビジネスの展開が見込まれており、あらゆる資産のデジタル化への関心をどのように醸成していくかが今後の大きな課題とされます。

ビットコインは発行上限や非中央集権的な資産性を兼ね備えてきたことから希少性の高い資産として幅広い支持を集めていますが、従来の市場で取り扱われていたゴールドやダイヤモンドがデジタルに表象されることのみでは投資の活性化は限定的なものにとどまることでしょう。

中長期的な視点から市場形成を観測した場合には、小規模な市場でありながらもコアな投資家層を獲得することがセキュリティトークン市場においても重要であるといえ、金融機関の発行する債券担保型も含めて、デジタルアセット市場のみならず金融/証券市場をより包括的に捉えた戦略の構築が各社には求められています。

ダイアモンドのような希少性の高い資産のトークン化/上場が、米国のみなず各国で進むことで市場の成長が進むと考えられますが、イノベーションの活用に向けては法改正が必要な場合もあり、ユースケースを参考にした法的枠組みの整備に向けた政策提言などの取り組みが現在は必要であると考えられます。(提供:STOnline