経済
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来年の原油相場は1バレル=40ドル台前半を中心に推移

伊藤忠総研 チーフエコノミスト / 武田 淳
週刊金融財政事情 2020年12月7日号

 原油相場は世界経済の回復期待を背景に上昇傾向にある。代表的な指標であるウエスト・テキサス・インターミディエート原油先物価格(WTI)は、10月までの1バレル=40ドル前後というレンジから抜け出し、11月下旬には45ドルまで上昇した。今後も上昇を続けるのか、再びレンジ推移に戻るのか注目される。

 コロナショック前後の動きを振り返ると、WTIは2月の50ドル前後から、3月に入り需要減少を織り込みながら下げ足を速め、4月下旬には10ドル台まで下落した。石油輸出国機構(OPEC)やロシアなどの主要産油国(OPECプラス)による協調減産が4月にいったん終了したことも、価格下落に拍車を掛けた。5月から全世界の供給量の約1割に当たる日量970万バレルの大規模な減産が再開されると、WTIは5月半ばに30ドル台、その後は世界経済の持ち直しも相まって6月半ばには40ドルまで回復した。

 原油相場は需給の状況に大きく左右される。米エネルギー情報局(EIA)によると、全世界の原油需要は2020年平均で日量9,291万バレルだが、21年は9,880万バレルまで回復する。一方、供給量は20年平均で日量9,445万バレルの減産にとどまるため、需要を154万バレルも上回るが、21年は9,838万バレルとなり、需要が上回ると予想されている(図表)。

 しかしながら、21年に本当に需要が供給を上回るかは心もとない。まず、21年の需要の前年比増加幅である日量589万バレルの約3分の1がBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)の需要であり、中国以外の3カ国の経済がコロナ禍から順調に回復するかどうかは疑問が残る。また、供給面では21年にOPECとロシアで計306万バレル増が見込まれている。現在、OPECプラスは今年8月から年末まで770万バレルの協調減産を行っており、本稿執筆時点では12月のOPECプラス会合で減産延長を決定する見通しが高まっている。しかし今後、減産幅を段階的に縮小すれば、21年通年の増産幅は306万バレルを上回る可能性が高い。さらに、20年に入り内戦激化で生産量が10万バレル弱まで減少したリビアは、10月の停戦合意を受けてすでに44万バレルへ回復し、今後さらに増加する可能性がある。米国の21年の供給増はわずか8万バレルだが、シェールオイルの採算ライン45ドルを超えれば増産に動く可能性もある。

 こうした状況を前提として、国際エネルギー機関(IEA)は、WTIが21年を通じて40ドル台前半というレンジの中で緩やかに上昇すると予想している。これは、原油需給が大規模な協調減産に支えられて均衡に向かうこと、需要回復に懸念を残すこと、供給面でリビアや米シェールの不確定要素を踏まえると妥当であり、上昇より下振れリスクを意識すべきであろう。

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