デジタル資産は価値の保存から決済手段へとその活用が広がるフェーズに差し掛かっており、ステーブルコインに関する法整備などが米国では進んでいます。

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これまでデジタル資産は価格変動の激しさから投機的な側面が強く、昨年発表された複数の法定通貨にペッグされたステーブルコイン「Libra」は、ビックテック企業の金融サービス提供への警戒から「既存の金融システムの秩序を乱す」として規制当局から大きな批判を集めましたが、最近では大手決済サービス企業のスクエア、PayPalが個人投資家向けのビットコイン取引サービスを展開。

2021年にはPayPalがビットコインを法定通貨に自動的に変換するシステムの加盟店舗への導入が予定され、決済手段としてのデジタル資産(主にビットコイン)について今後、大きな議論が交わされることでしょう。

また、世界的なクレジットカード発行企業である「Visa」は、USDCの支払い/受け取りに対応したコーポレートカードの発行およびデジタル資産レンディングプラットフォーム「BlockFi」との協業によってビットコイン還元クレジットカードに関するプロジェクトの実施を予定し、デジタル資産の社会実装が進行しています。

本稿では、量的緩和政策によって法定通貨そのもの価値が下落しているとされる現代社会において、デジタル資産決済の本格的な運用がどのように市場経済を変革/形成していくのか考察していきます。

目次

  1. PayPal 2021年に加盟店舗でのデジタル通貨決済を開始予定
  2. Facebook リブラ(Libra)からディエム(Diem)への名称変更
  3. まとめ

PayPal 2021年に加盟店舗でのデジタル通貨決済を開始予定

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2020年は米国の上場企業などが大量のビットコインを価値の保存手段として購入し、法定通貨に対するインフラヘッジのストーリーは多くの投資家に受け入れられました。

2016年頃からインフラストラクチャーの整備が進み、取引所ビジネスやカストディサービスが普及したことで、デジタル資産市場は大きく発展。

最近では4億2,500万ドルのビットコインを購入した米国IT企業「マイクロストラテジー」はデジタル資産取引所「コインベース」において時間加重平均価格で取引執行を行うTWAP (Time-Weighted Average Price)アルゴリズム取引を行い、分割による大口投資を実施しています。

そして、スクエアに続き、PayPalもビットコイン取引サービスの提供をはじめており、大手決済サービス事業者が投資家のみならず、各ユーザーに対してデジタル資産の利活用を促進。

米国みずほ証券が行なった調査では、PayPalユーザーの約65%が実店舗での決済にビットコインを使用すると答えており、実際に約17%のユーザーはビットコイン売買を行っているとのデータが発表されました。(PayPalユーザー380人が対象)

2021年にはPayPalに対応している世界各国の2800万個以上の店舗でデジタル資産による決済が開始されるとされ、3億人以上のPayPalユーザーがどのようにデジタル資産を活用するのか大きな注目が集まります。

しかし、これまでビットコイン取引を行っていたPayPalユーザーは利便性を享受する一方、デジタル資産に馴染みのないPayPalユーザーにとっては決済手段としてビットコインを用いることは遠い先の未来であるとも言えます。

2021年はデジタル資産に馴染みのある人々とそうでない人々との情報格差がさらに大きく広がることが予想され、経済的な面でもその恩恵をどのように多くの人々に提供するかがデジタル資産市場の大きな課題となることでしょう。

Facebook リブラ(Libra)からディエム(Diem)への名称変更

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ビックテックの中でもいち早くデジタル資産市場へ参画したFacebookでしたが、個人情報の流出が問題視されていた時期だったこともあり、リブラ(Libra)の発表時には、金融サービスの提供を危ぶむ声が圧倒的でした。

リブラ(Libra)から名称を変更し、全世界のFacebookユーザーがステーブルコイン「ディエム(Diem)」を使用する日が2021年早々に到来すると仮定した場合には、世界的な企業によるステーブルコイン決済の事例として大きな注目を集めることでしょう。

「法定通貨にベッグされたステーブルコインによる決済」とPayPal加盟店舗における「デジタル資産決済」を行う2通りの新たな決済が普及し、それそれのメリット・デメリットが比較され、そこに中央銀行が発行するデジタル通貨である「CBDC」も加わった場合、果たしてどの決済が今後の社会で「信頼」を獲得するのでしょうか?

今後は法定通貨価値の下落によって市場経済のあらゆる場面で様々な弊害が生み出される時代が訪れると仮定した場合には、デジタル通貨決済の有用性は高まると考えられますが、米ドルの世界での通貨シェアは4割以上を占めており、デジタル人民元が国際貿易に用いられ世界的な普及を遂げたとしても「実際に通貨(決済手段)として信頼されるのかどうか」はまた別の問題であるとも言え、中長期的な観測が必要となることでしょう。

また、デジタル資産市場全体ではDefi(分散型金融)を活用したマネーロンダリングへの懸念など市場規模の拡大とともに社会的信頼を乏しめる事例も確認されており、法定通貨の価値毀損(信頼低下)と同様にデジタル資産に対する信頼をどのように獲得/維持するのかも重要な焦点となります。

Facebookは果たして決済サービスを提供する企業として「信頼」されるのかが、ディエム(Diem)の普及に向けては重要であると考えられ、「企業の社会的信頼性に担保された決済手段」が果たしてビットコインやCBDCと比較した場合にどのような社会的評価を得るのかなど、様々な議論が期待されます。

まとめ

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デジタル資産による決済は市場経済をどのように変革するのか?と問われると、一部のデジタル資産関連企業や投資家が大きな利益を得る一方、「そうでない人々」は取り残されていくだけであるといったやや悲観的な見方もできます。

実際にデジタル資産への投資を行なったことがない人々が一般社会においては大半であり、現代の資本市場における「二極化」の問題を踏まえると、キャピタルゲインによって利益を得る従来のデジタル資産投資以外にも様々な場面でその影響は拡大することが予想されます。

しかし、米ドルなど法定通貨の価値毀損とともに誰もがビットコインに代表されるデジタル資産を決済手段として「信頼」することは、短期的に進むとは考えにくく、「デジタル通貨決済元年」として2021年を位置付けることなど、幅のある議論を活性化することが重要であると考えられます。

また、実際にステーブルコイン「ディエム(Diem)」やPayPalでのデジタル資産決済がスタートしたとしてもその利活用は市場経済全体としてはある新興市場における小規模で実験的な取り組みであると言えます。

そのため各企業がどのようにデジタル資産決済を自社事業に受け入れ、大口投資などを通じて市場への参画を行うのかなど、波及的な経済効果/社会的影響力の拡大に大きな焦点が当てられると想定され、そのことで、より多くの人々がデジタル資産の可能性に気づく1年になることでしょう。(提供:STOnline