企業のコンプライアンスに対する社会の目は厳しさを増すばかり。経営・組織コンサルティングを数多く行う秋山進氏は、「実は会社を窮地に陥れるような企業不祥事は上からの圧力によるものが多い」と指摘する。

企業のコンプライアンス問題に対処してきた中でその裏側を熟知した秋山氏は新著『これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース』において、企業で起こりがちなコンプライアンス問題を例に挙げつつ、その行為の違法性や対応策を解説している。

本稿では、同書よりデータ偽装、架空取引の2ケースについて触れた一節を紹介する。

※本稿は秋山進著『これだけは知っておきたい コンプライアンスの基本24のケース』(日本能率協会マネジメントセンター刊)より一部抜粋・編集したものです。

15年続くデータ偽装に気づいてしまった課長

コンプライアンス
(画像=PIXTA)

【研究所から事業部の製造担当セクションに異動してきた田中課長。2週間ほどたったところで現場の性能検査に立ち会うことになった】

田中課長:佐藤次長。実はさっき、性能検査を見たのですが……。

佐藤次長:何かお気づきになったことはありましたか?

田中:はい。えっっと。基準値に達していない検査結果を、検査員 がとくに問題視していないのですが、あれはいったい何でしょ うか?

次長:……いつかはお話する日が来ると思っていましたが、今日がその日になったわけですね。結論から言うと、うちの商品Zはお客様に保証した性能に達していません。

ざっと約2割程度水増ししています。そして、外部に公表している性能は、元データから齟齬が出ないように慎重に作成されたプログラムをかけ て補正しています。

田中:……。

次長:じつは私も赴任してきて2週目にこの事実を知りました。

田中:ちょっと待ってください。佐藤次長がこちらにこられたのは 10 年くらい前じゃないですか?

次長:はい、12 年前です。

田中:12年前にはすでに改ざんが行われていたということですか? 次長:残念ながら。実際は15 年前くらいかもしれません。

田中:このことは、経営陣は知っているのでしょうか?

次長:少なくとも技術部門と製造部門の両専務はご存知です。社長がご存知かどうかはわかりません。うちの場合、営業部門や管理部門はまったく技術や製造には関知しませんから。

田中:お客様は気づいてないのでしょうか?

次長:幸いなことに、普通の使用で基準値のレベルが必要になるこ とはないのです。はるか下のレベルで99%がこなせるので、問題ないといえば問題ないのですが……。

田中:問題ないのですが……とは、何かあったんですか?

次長:クレームになったことはあります。その際は、コストを度外視し て補修工事し、お客様にはご満足いただいて今日にいたります。

田中:わ、私はどうすればよいのでしょう!

虚偽表示(不正競争防止法)なら億単位の罰金刑も

このケースのように、仕様書に記載した品質を満たさない商品、またそれを告げないまま納品した場合は、不正競争防止法の虚偽表示になる可能性があります。

罰則としては、行為者に対して「5年以下の懲役または500 万円以下の罰金、もしくはこの両方」が科されます。

そして法人に対しては「3億円以下の罰金刑」があります。この商品を購入した会社は、その品質が契約内容を満たしていない場合、製造業者に対し、契約の債務不履行(不完全履行)に基づき損害賠償請求することができます。

さらに、この製造業者と競合となる事業者は、データ改ざんによって営業上の利益を侵害された場合には、損害賠償請求ができます。