気づいてしまった時、どう対応すればいいのか?
新しい部署で仕事を始めると、不正や違法行為を発見することがあります。重要なのはこのときの行動です。
もしそのままやり過ごすと、あなた自身も犯罪に加担し、刑罰を受けることになります。勇気をもって会社の相談窓口に連絡することを会社は望んでいます。
たとえば、メーカーなどでは、会社が表明している品質基準が、実際よりも随分高くなっていることがあります。競合と同じ土俵で競争をしていると、特定の品質基準の優劣の競争から抜け出せません。自分たちの強みや弱みを多角的に判断し、同質化競争から差別化の競争戦略に変えていくこともコンプライアンス経営にとっては重要なことになります。
では、もう一つ、別のケースも考えてみましょう。
毎年のように続く架空取引
高橋:課長、ジャパン製作所(以下J社)からまた連絡が来ました。
鈴木課長:いつものあれ? OK。じゃあ、世界商社に回しといて。
毎年9月になるとJ社から商品買い取りの依頼が来る。そして弊社はそれを買って世界商社に転売するのである。
商品はこちらには来ない。ただ、発注書をJ社に出し、一方で、世界商社に請求書を出すだけだ。あるとき、若手が声を上げた。
伊藤:課長。J社は自分が作った商品を高く買い戻すわけですか? なんのメリットがあるのでしょう?
課長:あそこは上場企業で、株主から強いプレッシャーを受けています。そこで、期末になると毎年、買取転売の要請が来ます。
もちろん世界商社とも、その先の会社とも話がついてますから、うちはただ買って世界商社に売るだけです。世界商社はまた別の会社に売って、その会社はJ社の次の会計年度になってから、J社に転売します。
そうするとJ社は年度内に売上と利益を計上することができます。商品は1ミリも動きませんし、うちは何も知らないことになっているんですけどね。
伊藤:うちがJ社に直接売り戻せばいいのでは?
課長:いやいや、いってこい、の取引だと、架空の取引だということがすぐにばれるので、別の会社をいくつか挟むのです。
高橋:課長。これ違法な取引ではないのでしょうか?
課長:微妙かもしれません。上場企業であるJ社さんは、違法と認定されるでしょうね。
伊藤:うちにリスクはないのでしょうか?
課長:ありますよ。J 社で問題になったら一緒に報道されちゃいますからね。でも今のところは、毎年、書類を数枚書くだけで結構な利益をいただけるボーナスみたいなもんですから、うちもやめられないというわけです。
高橋:え、それでいいんですか……
有価証券報告書の虚偽記載で懲役刑の可能性も
複数の企業間において、合意のもと帳簿上で商品サービスの売買を繰り返し、実体の伴わない取引をすることを循環取引と言います。
上場企業であれば、循環取引による粉飾決算で売上を水増ししていた場合、有価証券報告書の虚偽記載として金融商品取引法違反にあたります。
実行した個人は「10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金またはその両方」、法人は「7億円以下の罰金」と定められています。
さらに、上場企業が罰金を負った場合は、その損害に対して上場企業から実行した担当者と協力した会社に「損害賠償請求」がなされることがあります。
また上場企業の取締役には罰金分の損害と株価の低下等に対する「株主代表訴訟」や「金融商品取引法に基づく損害賠償請求」などの民事責任が問題となることがあり、その際には、循環取引に関与した取引先企業も連帯して損害賠償責任を負う場合も考えられます。
露見したら何が起こるのか? どうすればよいのか?
会社は形式上この取引の違法性を知らないことになっていても、不自然な取引であることは一目瞭然であり、すぐに明らかになります。
もし自社が加担した循環取引が明るみに出ると、マスコミ等で報道され企業イメージが大きく毀損します。さらには、その取引によって損害を受けた元の企業から損害賠償を請求される可能性もあります。
このように、問題が明るみに出た場合は、自社のブランド価値を大きく下げ、取引に加担した人の善管注意義務(「善良な管理者の注意義務」の略。
業務委任された人の能力等から期待される注意義務)が問われます。また、循環取引は加担する企業が得る利益分だけ首謀企業の財務を悪くします。
それを何回か繰り返していると、必ず財務的に厳しい状況に追い込まれ、高い確率で破綻します。
循環取引の依頼が来たら、断ってください。もし今もなお参加している場合は、法務コンプラ関係部署に相談してください。
様々な企業のコンプライアンス問題に対処してきた中でその裏側を熟知した著者が、ありがちなコンプライアンス問題を上司と部下とのミニストーリーで解説。汎用的なケースばかりですので、社内のコンプライアンス研修テキストにも使えます
(『THE21オンライン』2020年10月09日 公開)
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