経済
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急拡大する銀行の「対日銀取引」

(日本銀行「業態別当座預金残高」ほか)

トリグラフ・リサーチ 代表 / 大久保 清和
週刊金融財政事情 2020年12月14日号

 今年度に入って、銀行業界は高水準の預貸金増加と、300兆円を突破してさらに拡大を続ける預貸ギャップという未曾有の局面を経験した。だが、預貸金以上に銀行経営における存在感を高めている項目がある。当座預金と借入金という「対日本銀行取引」である。

 図表は、国内銀行の、付利対象となる日銀当座預金の適用金利別残高と日銀借入金の推移である。マイナス金利政策が導入された2016年2月以降の月次平残推移を示した。最新統計である今年10月の残高は、当座預金のプラス金利適用分(基礎残高)が111.9兆円、ゼロ金利適用分(マクロ加算残高)が168.1兆円、マイナス金利適用分(政策金利残高)が2.7兆円となった。当座預金残高全体では282.7兆円、日銀借入金残高(負債項目であるため図表ではマイナス表記)も85.0兆円に達している。

 図表が示すとおり、当座預金残高総額も借入金も、今年4月以降に増加ペースが拡大している。これは、3月16日に、日銀が「新型コロナウイルス感染症にかかる企業金融支援特別オペレーション(コロナオペ)」で、民間債務差し入れ担保(CP、社債等)による金融機関向け資金貸付(利率ゼロ%)の仕組みを導入したことが主因だ。4月の制度拡充により、①コロナオペ利用残高に相当する当座預金への「プラス0.1%付利」と、②コロナオペ利用残高の2倍の額をゼロ%付利の残高上限に加算する「マクロ加算残高2倍措置」という、コロナ対応貸出を促進させる「二つのインセンティブスキーム」が構築された。適用金利別残高で「マクロ加算残高」の増加が著しいのはこのためだ。

 10月の日銀向けの「純取引残高(当座預金残高-借入金残高)」は197.8兆円と、3月末比で13.6兆円も拡大した。これは同期間中の平残ベース預貸ギャップ増加額の39%に相当し、急拡大した預貸ギャップのかなりの部分が対日銀取引に向かった構図が浮かび上がる。

 さらに日銀は11月10日に、新たに「地域金融強化のための特別当座預金制度」を導入した。同制度は、20~22年度の3年間の時限措置であり、地域経済を支えながら経営基盤強化に取り組んだ地域金融機関に対し、当該地域金融機関が有する日銀当座預金に0.1%の金利が付利される。日銀による金融機関向けの「事実上の補助金政策」の相次ぐ導入により、銀行経営における対日銀取引の比重、重要性がさらに高まることが予想される。

きんざいOnline
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(提供:きんざいOnlineより)