日米期待インフレ率に差、日本の長期金利は狭いレンジ推移に
SMBC日興証券 チーフ金利ストラテジスト / 森田 長太郎
週刊金融財政事情 2020年12月14日号
米国で期待インフレ率の上昇が生じている。10年物価連動国債から算出される期待インフレ率(BEI=ブレーク・イーブン・インフレ率)は、足元1.9%に達しており、これはすでに新型コロナウイルス感染拡大前の水準を超えている。コロナショック発生後に急落したBEIは、夏場にいったん大きく反発した後、12月に入って再び上昇の勢いを強めつつある。
BEIは、実績ベースのインフレ率(CPI)の影響をある程度受ける。夏場に米国のBEIが回復したのは、コロナショックで急低下したCPIが反転した影響が大きかった。しかし、直近のCPIには頭打ちの傾向が見られる。
実績の物価データ以外にBEIと最も相関が高いのが株価である。11月にはワクチン開発進展の報道が相次ぎ、大統領選で中断していた景気対策の議論が米議会で再開されている。こうした状況の中で米国株価の上昇が続いており、BEIも株価に連動するかたちで再び上昇を開始したとの見方が妥当だろう(図表)。
中央銀行が国債購入を通じて長期金利の水準を抑制する状況下では、期待インフレ率の上昇は、名目金利との差である実質金利の低下を促しやすい。米国の実質長期金利は、夏場の期待インフレ率の上昇によって大きく切り下がった後、いったん反転したものの、ここにきて再びマイナス1.0%近くまで低下してきている。実質金利は金融緩和の度合いを示す一つの指標でもあり、株式等の長期的な期待形成を反映するリスク資産価格に影響を及ぼすと考えられる。つまり、「株価上昇→期待インフレ率上昇→実質金利低下→株価上昇」というループが形成されている可能性がある。
米国経済は足元、11月雇用者数の増加ペースが前月から大きく落ちるなど、新型コロナ感染第3波の影響が強まりつつある。こうした状況が米連邦準備制度理事会(FRB)の緩和志向をさらに強めるようだと、資産価格の過熱を促すループを一段と強める可能性すらある。
翻って日本では期待インフレ率の上昇がなかなか進まない。根強い物価下落期待がその背景にありそうだが、結果的に実質金利の低下は進みにくく、過大な株価上昇を促す度合いは抑制されやすい。むしろ、海外との比較で相対的に実質金利が高止まることの結果として、円高の連想が働きやすい点には留意が必要だ。別の言い方をすれば、日銀の緩和政策が波及する経路の弱さを反映したものでもあり、結果的に日本の名目長期金利の変動を長期的に狭いレンジにとどめることになると考えられる。
(提供:きんざいOnlineより)