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株価大幅高は必ずしも今後の地価上昇を意味しない

AAAコンサルティング 副社長 COO(不動産鑑定士・CMA) / 賀藤 浩徳
週刊金融財政事情 2020年12月21日号

 2020年7~9月期の国土交通省地価LOOKレポートによれば、全国100地区のうち、前期比で地価が下落した地区は、7地区増の45地区となり、8年ぶりに下落した4〜6月期に続き下落傾向を示した。

 一方で、日米とも株価は大幅上昇し、12月9日の日経平均株価は29年8カ月ぶりの高値を更新した。今般の株価上昇は、米大統領選後の事態の安定化、新型コロナのワクチンの早期実用化期待を端緒とする。この二つに市場が大きく反応し、先行きの企業業績の好転を大幅に織り込んだものである。

 筆者は、この状況は実体経済面での二つのネガティブ要因を軽視した株式市場の過剰期待によるものと考える。一般に、株価は地価の先行指標といわれるが、これは景気と株価が連動していることが前提だ。次の理由から、今後、景気低迷ないし先行き不透明の継続を受け、地価は当面下落傾向が続くことを予想する。

 一つは、「隠れ失業者の本格失業化」だ。20年10月の完全失業率は3.1%と、コロナ本格化前の20年1月と比べて0.7%ポイント上昇し、3年5カ月ぶりの高水準となった。これに加え、300万人前後いる「隠れ失業者」の存在に注意が必要だ。これは定義上、「完全失業者」とならないが、「就業中であるが追加就業を希望する者」+「1カ月以内(1週間以内を除く)に求職活動を行ったが就業していない者」をいう。20年4月以降の隠れ失業者は、通常水準より30~40万人多い(図表)。さらに、今年の上場企業の早期退職募集は前年比2.7倍に増加しており、なかでも年齢制限なしの募集が同4.1倍となっている。

 もう一つは、倒産の大幅な増加見込みだ。20年4~9月期の倒産関連データを見ると、倒産件数、負債総額とも、00年度以降の比較でかなりの低水準にとどまった。各種給付金や実質無利子・無担保の制度融資、金融機関の支援などが奏功し企業倒産の抑制につながった。換言すれば、倒産予備軍がマグマのようにたまっているのである。足元では、コロナ感染者数、重症者数、死亡者数とも大幅増加中であり、医療現場の体制維持が大きな課題となっている。これらから、次の状況が予測される。
◯金融支援の持続効果が衰え、各業界の市場の好転も進まない中で、倒産が増加。金融機関の不良債権が増加し、支援力が減退、負の循環に。
◯コロナの業績への影響を本格的に織り込んだ決算発表が進むにつれ、従業員解雇を様子見中の企業が、ほかのコスト削減策と合わせて人員整理に踏み込み、失業者が大幅に増加。所得減により、消費低迷が継続。
◯ワクチン接種の普及やその効果が判明するまでの期間は、コロナの収束が一進一退にとどまる。ワクチンの副作用が大きく取り沙汰される場面もあり得る。

 これらは、決して確率の低いシナリオではないとみている。

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