2020年9月16日、安倍晋三前首相の後任に菅義偉首相が就いたのに続き、2021年1月20日にジョー・バイデン氏が大統領就任式に臨む。前任者が株価の大幅な押し上げに成功する一方、新型コロナウイルス対策という難題を抱える点で日米の新トップは共通している。菅氏もバイデン氏も「自国ファースト」の姿勢を示しているが、存在感を増す中国の出方次第では外交面でも難しい舵取りを迫られそうだ。

強引に株価を押し上げたアベノミクス。日経平均は2.6倍高!

2021年大展望
(画像=Ystudio/PIXTA、ZUU online)

安倍前首相とトランプ大統領の最大の功績は株価上昇だろう。両トップともに株価の上昇時期に巡り合わせたのではなく、ルール破りに近い形で強引に株価を押し上げた点でも共通する。

安倍氏の経済政策を評価したアベノミクス相場の起点は2012年11月14日。野田佳彦首相(当時)との党首討論で衆議院を解散することで一致すると、翌日から脱デフレを訴える自民党の優勢を織り込んで株価が上昇を開始した。8664円だった日経平均は安倍氏が退陣表明した2020年8月28日に2万2882円と2.6倍へ急騰していた。トランプ氏の在任期間は安倍氏の半分の4年だが、大統領選を制した2016年11月8日から再選失敗が濃厚となった2020年11月5日までにダウ工業株30種平均の上げ幅は1万ドルを超えた。

安倍・トランプの両氏が株価に目を付けたのは世論を味方に付けるためであり、裏側には党内基盤の弱さがある。

2012年9月の自民党総裁選で安倍氏は、党員票で前政調会長の石破茂氏にダブルスコアで負け、議員票で石原伸晃幹事長(当時)にも負けたが、他派閥との合従連衡に成功して決選投票を制した経緯がある。党内で少数派閥だった安倍氏が求心力を高めるには、世論を味方に付けるしかない。安倍内閣発足時の経済官庁の幹部は「株価が上がれば企業財務や年金財政も改善して支持率も上がり、たいていの問題が解決すると安倍氏周辺は確信していた」と振り返る。

安倍氏の在任中、日銀がETF(上場投資信託)購入枠を年12兆円まで拡大したほか、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)は国内株の組み入れ目標を運用資産の25%へ倍増させた。建て前上は日銀もGPIFも日々の業務は政治的に独立しているが、政治に逆らうこともない。日銀やGPIFといった政府の「別動隊」が市場の需給を直接コントロールする手法に批判もあったが、株高がメリットになる証券業界から反対論はほとんど聞こえてこなかった。

不動産王から転身したトランプ氏も就任当初から政治的な後ろ盾の弱さを株高でカバーする作戦に出た。「側近に軍人と金融マンしかいない」と言われたトランプ氏は2016年11月の大統領選勝利の直後から、「2020年のダウ3万ドル」を口にしていたという。個人が投資信託を資産運用の中核に据える米国で、株高は個人資産の増加に直結し、経済政策の成功をアピールする上で最もわかりやすいためだ。大胆な法人減税で企業優遇の政策を取ったのは歴代共和党大統領と同じだが、トランプ氏はたびたびFRB(連邦準備制度理事会)に政策金利の引き下げを要求。金融政策決定会合が終わるたびに、パウエルFRB議長の罷免に言及して露骨に圧力をかけ続けた。その結果の株高である。

スガノミクスの短期目標と長期目標とは?

菅首相の任期満了は2021年10月21日。その前の9月末には安倍氏から引き継いだ自民党総裁としての任期が切れる。衆議院を解散しなくても総選挙は残り9カ月以内に必ずやってくる。

菅氏の経済政策は目下、短期と長期に大別される。短期目標はハンコ廃止に象徴される電子化促進や携帯電話の料金引き下げであり、長期目標は2050年が目標の脱炭素社会の実現である。

ハンコ廃止はすでに中央官庁や地方公共団体レベルでスタート。携帯料金でも菅内閣ペースで値下げの流れが形成され、NTTドコモなど各社は総務省の顔色をうかがいながら新料金プランを次々に発表している。ハンコも携帯も有権者が菅首相の政治手腕を実感できる施策だ。一方、脱炭素化の期限である2050年に菅氏は満102歳。「人生100年時代」だとしても、結果に対して責任を負う立場にいる可能性はゼロに近い。

ある与党議員は「あえて中期目標を設定しないところに菅さんの先見性がある」と話す。「中期目標だと在任中に結果を出す必要が出てくる。安倍前首相が7年8カ月の任期中に脱デフレ宣言をできなかったことが菅さんの頭にあるのだろう」。

コロナ対策で多忙であるにせよ、菅氏の口から「脱デフレ」や「年金」など安倍氏が批判の矢面に立った政策課題についての発言はほとんどない。消費増税に至っては首相就任前の9月10日に「将来は引き上げざるを得ない」としたが、翌日には今後10年は不要との認識を示した。こじれる一方の北方領土や尖閣諸島問題といった外交上の難題への関心も薄い。菅氏が脱デフレや年金問題、消費増税を語るとすれば、来年秋までに実施される総選挙で続投を決めた後のことになりそうだ。

富裕層への増税は見送りか?バイデン氏、「公約破り」が濃厚

一方、バイデン氏の経済政策については全容がなかなか見えてこない。大統領選までは、「プログレッシブ(進歩的)な政権」を掲げて格差是正を前面に押し出し、貧困層救済政策の原資を確保するため大企業や富裕層の増税を実施すると断言していた。大統領選前にバイデン政権誕生がマイナス材料視されてきたのもこのためだ。