「なんで、言ったことをやっていないんだ」「何度言ったら分かるんだ」……。部下に対して不満や怒りの感情を持つことは、リーダーなら誰しもあるだろう。そんなとき、「できるリーダー」はどうしているのか――接客・サービス業の現場リーダーを数多く見てきた船坂光弘氏に解説してもらった。

※本稿は、船坂光弘著『接客・サービス業のリーダーにとって一番大切なこと』(PHP研究所)の一部を抜粋・再編集したものです。

職場のムードがサービス品質に直結する

思考の習慣,船坂光弘
(画像=THE21オンライン)

あなたのお客様が買い求める商品とは何でしょうか?飲食店であれば美味しい料理、豊富な種類の飲み物、洋品店であれば自分が気に入る洋服かもしれません。

それに加えて、私が大切だと思うのは、店舗の雰囲気や居心地といった目に見えないものです。あなたがこれまで利用したお店の中で、「特に不満はないけれど、なんか居心地が悪い」と感じたことはありませんか?

80歳近いうちの両親ですら、「なんかあそこの店は感じが良くなかったから、もう利用しない」と言うくらい、お客様は店舗の雰囲気や居心地、ムードを敏感に察知します。

ですから、「商品に不満はなくても雰囲気や居心地が悪ければ、二度と利用されない」と思わなければいけません。そんな店舗運営においてとても大切な「雰囲気」「居心地」「ムード」を作っているのは、紛れもなくそこで働いている「人」です。

スタッフが明るく笑顔で気持ちの良いサービスを提供していれば、自ずと雰囲気や居心地は良く感じます。逆に笑顔もなく、黙々とこなすように仕事をしている店舗は居心地が悪く、二度と利用されないでしょう。それでは、どのようにすれば、良い雰囲気・ムードの店舗を作れるのでしょうか?

リーダーの機嫌ひとつで職場のムードは一変

それには、まず、リーダーが率先して職場のムードを高める意識を持つことが重要です。多くの職場は、事務所やバックスペースと接客スペースが繋がっています。

したがって、いくらバックスペースといえども、リーダーがいつもしかめっ面でいたら、スタッフはお客様の前で笑顔にはなれません。

私はホテルに宿泊することが多く、定宿にしているビジネスホテルの朝食会場に年配の女性リーダーがいます。その日もいつものように朝食を食べていると、明らかにいつもと違う雰囲気を感じました。

よく見ると、女性リーダーの機嫌が悪い様子で、スタッフたちからいつもの笑顔は消え、違うホテルに来たくらい居心地が悪かったのを覚えています。

このように、リーダーの機嫌、不機嫌は、サービスの品質を大きく変えてしまうほどの影響力があるのです。そのことを認識するとともに、リーダーは率先していつも明るく、元気に、そして何よりもご機嫌でいることを意識してください。

リーダーの不機嫌は誰も幸せにしない

ただ、リーダーも人間です。会社から無理難題を要求されたり、部下の行動や言動によって、笑顔でいられないとき、ご機嫌でいられないときも当然あります。

私も現在10名足らずの小さな会社を経営していますが、スタッフに対して、「なんで、言ったことをやっていないんだ」「何度言ったら分かるんだ」「なんで期日を守らないんだ」といった感情になることは日常的にあります。

以前はそのたびに不機嫌な態度をスタッフに示すことによって、事態の改善を図ろうとしていました。しかし、あるとき私は気づきました。

「自分の怒りや不満を部下に示したところで、誰も喜ばないし、誰もしあわせにならない。それに、お互いの関係性を悪くするだけで、何も効果的に改善されていない」

部下は上司からの苦言で気持ちが落ち込み、そのマイナスな気持ちの中でサービスをするので、お客様の満足度は当然上がらない。そして何より、私自身も決していい気分ではなく、不満を示して「してやったり」といった満足感は生まれません。

したがって、自分のマイナスな感情を表現することによるメリットはほとんどないのです。一方、マイナスなエネルギーはマイナスな出来事を引き寄せるので、そんなときに限って、お客様からお叱りをいただいたり、クレームが発生したりするものです。