本記事は、尾﨑美穂氏の著書『経営とデザインのかけ算 企業を進化させる「デザイン思考」と「ブランディング」』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
時代に敏感な経営者は、すでにデザイン経営を始めている
デザインの力を活用した経営は海外企業だけではなく、これからの時代の流れを敏感に察知している日本のビジネスリーダーたちも、いち早く取り入れています。彼らはデザインに深い関わりや理解を示し、経営層にデザイナーを迎え入れているのです。
それらの企業の多くは、圧倒的な価値を生み出し成功しています。
パナソニックの取り組みを例に見ていきます。
パナソニックには「パナソニックデザイン」という社内デザイン部門があり、その歴史は1950年代にまで遡さかのぼります。
初めてアメリカで市場視察を行った創業者の松下幸之助氏が、現地のビジネスを見て、その成功の秘訣はデザインであることを悟り、「これからはデザインの時代である」と痛感したそうです。
翌年の1951年に、日本ではじめてのインハウスデザイン部門を作りました。その後、デザインを単なる見た目を整えるスタイリング的な役割だけではなく、新技術や設計と一体化させるために、開発段階からデザイナーが関わることになっていきました(これはまさに、2018年に経済産業省と特許庁より唱えられた「『デザイン経営』宣言」に共通した考えです)。
デザイン部門の設立を機に、社員にもデザインを理解してもらおうと努め続けました。それらの活動や思いがパナソニックの強いDNAとして継承され、今の「パナソニックデザイン」につながっているのです。
「パナソニックデザイン」では、「デザイン思考」などのデザイナーの発想で物事を見て、顧客の潜在的な欲求を導き出し、新たなモノづくりや企業運営の仕組みを構築しています。部門間の垣根を越えたクリエイティブな環境を作り上げ、パナソニックの新たな商品が開発されています。(パナソニック株式会社ホームページよりhttps://panasonic.co.jp/design/about-us/history/)
デザインをいち早く取り入れているのは、大手企業だけではありません。全体の中では数が少ないようですが、中小企業も果敢に取り組んでいます。
経済産業省と特許庁が「『デザイン経営』宣言」を公表した半年後の2018年11月、クリエイティブに特化したマッチング型採用サービスの事業を展開する「株式会社ビビビット」より。「『デザイン経営』『デザイン思考』に対する企業の意識調査」が公表されました。
いくつか興味深い結果をまとめて見てみます(図1−5参照)。
・「デザイン経営」や「デザイン思考」を導入している企業は全体の15%未満。
・大手企業導入への障壁は「投資対効果の見えにくさ」などにある。
・経営に「デザイン思考」を導入した会社の86.8%は「製品・サービス・事業の開発・創出が向上・推進した」、73.8%の企業は「売上と利益率が増加・向上した」と回答。
さて、この結果をどのように捉えられたでしょうか?アンケート内で導入を躊躇されている企業と同じように「本当に売上につながるのか」と思う方も多いのではないでしょうか。
しかし、デザイン経営やデザイン思考を実践して、多くの企業がその効果を実感している状況を前向きに捉え、好奇心を持ってご自身のスキルとして蓄えていただきたいのです。
導入を躊躇してしまう課題として、「認知や理解が足りない」という回答も見られます。しかし、本書を読み終えたときには、デザイン経営やデザイン思考への理解が深まり、必要性を強く感じられるようになっているはずです。
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