本記事は、尾﨑美穂氏の著書『経営とデザインのかけ算 企業を進化させる「デザイン思考」と「ブランディング」』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
海外の成長企業の経営者は、デザインに精通している
「『デザイン経営』宣言」にもあるように、海外の成長企業はデザインを経営の中心に置くことで、ビジネスを成長させてきました。そのような企業の経営者とデザインとの関係を見ていきます。
「アップル」「ダイソン」「スラック・テクノロジーズ」は、ベンチャーから始まり、世界的な大企業となりました。各社の事業内容は三者三様ですが、そこには注目すべき共通点があります。それは創業者が皆「アートやデザインに精通している」ということです。
●アップルの場合
アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏は、デザインの優れた才能を持っていることで知られています。学生の頃には、カリグラフィー(西洋や中東などにおける、文字を美しく見せるための手法)や、禅の精神・芸術を学んでいます。
カリグラフィーでは、様々な形状の書体やその歴史、文字を組み合わせた場合のスペースの空け方などを学びました。米スタンフォード大卒業式(2005年6月)のスピーチでは、何がカリグラフィーを美しく見せる秘訣なのか会得し、科学ではとらえきれない伝統的で芸術的な文字の世界のとりこになったと語っています。
そして10年後、最初のマッキントッシュ・コンピュータを設計するときに、カリグラフィーで学んだことがアイデアとなり、フォント(コンピュータに表示される文字)の美しさを誇る最初のコンピュータが生まれたのです。
さらに禅では、座禅によって自分の心と向き合い、「自分が本当に望むもの」を徹底的に見ようとしました。
その結果、アップルではマーケティングを一切行わず、人々がまだ見たこともない、心を強く揺さぶる簡潔で美しい製品を作り、熱狂的なファンを生み出していきました。
●ダイソンの場合
ダイソンは、サイクロン式の掃除機や羽のない扇風機などで、家電業界のデザインに革命を起こしたメーカーです。
その創業者であるジェームス・ダイソン氏は、自らがプロダクトデザイナーでもあります。アートスクールで絵画を学んだ経験を、非常に価値があったと語っています。その後、自分が日常的に使用しているものを自由にデザインすることに興味を持ち、家具のデザイン学校に入学。
それらの経験を生かし、性能の確かさはもちろん、徹底的にデザインにこだわった製品で、顧客の心をつかみ、成功を収めました。
その陰には、5000台を超えるサイクロン式掃除機の試作機を作ったというエピソードもあります。デザインの考え方である「成功よりも失敗から学ぶこと」を重要視しながら、より良い製品を開発し続けたのです。
●スラック・テクノロジーズの場合
スラック・テクノロジーズは、チャットアプリのソフトウェアを提供するメーカーです。創業者のスチュワート・バターフィールド氏は、キャリアの最初がWebデザイナーだったことから、スラックのロゴや社内のデザインにも積極的に関わり、デザインの力を活用した経営を行っています。
彼は「ユーザーの本当の望み」を見極めるため、コアなユーザーを中心として寄せられる意見の収集と、思いついたアイデアへの検証をひたすら続けてきました。これは、「人中心」に考えられるデザインの手法に通ずるものがあります。
WebサイトInc.comでの取材で彼は、今後デザインは経営上層部に肩を並べるだろうと語っています。
ビジネスリーダーがデザインへの理解を示し、経営での活用が成功の鍵であるということは、確信へと変わりつつあります。それにもかかわらず、多くの日本人経営者は、デザインが有効な経営手段であるということを認識していません。
先ほどのスチュワート・バターフィールド氏の言葉には続きがあります。
「デザインはビジネスに大きな違いをもたらしてくれるのに、他の起業家はあまりそのことについて考えていません」
本書ではアートやデザインを学んだことがないビジネスリーダーの方にとっても、再現性の高い考え方や思考法について紹介しますので、必ず突破口は見つかるはずです。
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