本記事は、尾﨑美穂氏の著書『経営とデザインのかけ算 企業を進化させる「デザイン思考」と「ブランディング」』(合同フォレスト)の中から一部を抜粋・編集しています
国が推奨するデザイン経営
経済産業省と特許庁は、2018年5月23日「『デザイン経営』宣言」を公表しました。その中から、デザイン経営の特徴を3つのポイントにまとめました。
(1)「『デザイン経営』宣言」の背景
日本は人口や労働力の減少により、世界におけるメイン市場としての地位を失いました。第4次産業革命により、不確実性も高まり従来の常識や予測が立たなくなりました。
そのような時代に、世界の有力企業が戦略の中心に「デザイン」を据えている一方、日本の経営者は、デザインが有効な経営手段であることを認識しておらず、グローバル競争環境での弱みとなっています。
日本企業がグローバル競争を勝ち抜くためには、社会のニーズを利用者視点で見極めて、新しい価値を結びつけ、イノベーション(発明を実用化し社会を変えること)を起こすことが求められています。発明だけではなく実用化するには、デザインの活用は必須です。
世界のメイン市場では、第4次産業革命以降、ソフトウェア・ネットワーク・サービス・データ・AIの組み合わせ領域に急速に切り替わっています。
その中のインターネットに接続された製品やサービスでは、企業が顧客に対して良い体験や高い満足度を提供することが重要視されています。顧客体験の質を高める手法として、デザインに注力している企業は急成長を遂げています。
そのことからデザインは、まさに産業競争力に直結するものと考えられています。
(2)デザイン経営の定義と効果
デザイン経営とは、企業の価値を高めるためにデザインの力を活用した経営です。デザイナー独自のクリエイティブな発想を経営の視点にも取り入れ、経営の意思決定など、システム開発や設計の初段から意見を取り入れていくことを指します。
デザイン経営の効果は以下の4つです。
●ブランド力が向上する
デザインは、企業が大切にしている価値や価値を実現する意志を、人々が目で見て感じられるように表現することができます。決して見た目を魅力的にするだけではありません。顧客に提供する商品やサービスすべてにその表現が適用されるため、企業価値を一貫性のあるメッセージとして打ち出すことができます。
そうすることで、顧客は企業の唯一無二の価値を体感することができるのです。
●イノベーション力が向上する
デザイナーは、企業側の思い込みに囚われず、顧客などターゲットとなる人の自然な姿を観察します。人と向き合い問題を出し、その問題から彼らがまだ気づいていない悩みやニーズを掘り起こすことで、既成概念に囚われない自由な発想を生み出します。
このようなデザイナーの思考を用いて、「誰のために何をしたいのか」という原点に立ち返ることで、既存の事業に縛られず、新しい事業化を構想できるのです。その結果、イノベーションを実現する力が生まれます。
●企業競争力が向上する
以上の2つ「ブランド力の向上」と「イノベーション力の向上」を叶かなえることで、「その会社らしさ」が醸成され、企業の産業競争力の向上につながります(図1−3参照)。
●利益や成長力が上がる
各国の調査により、デザインに投資を行う企業では、利益や成長力が上がり、高い競争力を保っていることが分かりました。それがデザインを取り巻く世界の常識となっています。
(3)デザイン経営の必要条件
デザイン経営を実践するためには、必要条件が2つあります。
●経営チームにデザイン責任者がいること
デザイン責任者とは、商品やサービス・事業が顧客起点で考えられているかどうか、ブランドの形成に役立つものであるかなどを判断し、必要な業務プロセスを構想できる人を指します。デザイン責任者は、経営チームに参画し、密接なコミュニケーションを取ります。
●事業戦略構築の最上流からデザインが関与していること
デザイナーが事業戦略・商品・サービス開発の最上流から参加し、経営層やエンジニアなどと共に計画を作っていきます。
「『デザイン経営』宣言」は、まだ完成版ではなく、これからの経営手法を切り開くための入り口となるものです。この報告書の終盤では、政策提言として、高度デザイン人材の育成や、デザインに対する補助制度の充実、税制の導入なども検討しています。
このように、日本でも強く「デザインの力を活用した経営」を推奨しているのです。
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