特集『withコロナ時代の経営戦略』では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が続く中での、業界の現在と展望、どんな戦略でこの難局を乗り越えていくのかを、各社のトップに聞く。

1946年兵庫県明石市にて前身となる近畿土建株式会社を創業。1958年9月に伊豆半島を襲った狩野川台風の復興事業に着手。1962年に社名を加和太建設に変更して静岡県三島市に本拠地を移転した。売上高は144億円。土木・建築工事から不動産事業や施設運営事業を行うほか、三島市にシェアリングサイクルを根づかせるなど、地元を盛り上げるためのビジネスも展開している。また、クラウド型建築施工管理支援システム「IMPACT CONSTRUCTION」を独自開発するなど、建設業界の生産性を高める事業にも力を注いでいる。

(取材・執筆・構成=不破聡)

加和太建設株式会社
(画像=加和太建設株式会社)
河田 亮一(かわだ・りょういち)
加和太建設株式会社代表取締役
1977年静岡県生まれ。一橋大学卒。
一橋大学経済学部卒業後、リクルートに入社。営業職として4年勤めた後に三井住友銀行に転職。もともとは政治家を志していたが、社会人経験を積む中で起業へと目が向いた。その後、「親孝行」をしたいという気持ちから数年間・期間限定の予定で家業である加和太建設に入社。そこで建設業に従事する人たちの志に感銘を受けて、4代目として会社を継ぐことを決意する。

40億円の売上を140億円超まで伸長

――もともとは政界入りを目指していました。

一橋大学に入学する前、アメリカやスイスの学校で勉強をしていました。海外の自ら考えて個性を伸ばす教育哲学と比べて日本の受験勉強偏重型の風潮に疑問を持ち、国内の教育制度を変えたいという強い想いがありました。社会人経験を積まずに政界に飛び込んでも成長できないと考え、リクルートに入社しました。教育機関への営業で多くの人と交流する中で、経営者は社会をよりよいものに変えることができると気づきました。ちょうどこの時はIT革命による先進的な経営者が誕生していたこともあり、私も起業を考えるようになりました。

色々と勉強した後、起業をしようと思いましたが、まずは親孝行をしようという想いで加和太建設への入社を決意。正直なところ、建設業にはあまり良い印象を持っていませんでした。ところが実際に建設業で働いている人の話を聞いてみると、人々の生活を守りたい、街づくりをして社会をよりよくしたい、そういう強い想いを持って仕事をしていることを知りました。その志の高さに胸を打たれたのです。建設業に自分の一生を捧げたいと思うようになりました。

――入社以来さまざまな改革を行い、40億円の売上を140億円まで引き上げました。

当時は土木が主軸になっていましたが、集合住宅やオフィスビル、工場などの建築事業を拡大しました。当然、設備投資や人材の雇用で先行投資が発生します。土木事業の部署からは、自分たちの利益を使って新規事業に投資をすることに反対する声も聞こえました。これまで培ってきた仕事の在り方・進め方に変化を求められるわけですから、反発するのも当然です。理解を得るため、徹底的に議論を重ねました。必ず成功させるから、一緒にチャレンジしてほしいと。

こうして建築事業の拡大を図りながら、不動産事業や施設運営事業もスタートしました。事業の多角化を行うことで「総合まちづくり会社」と言える現在の会社のかたちに変化してきました。

加和太建設株式会社
(画像=加和太建設株式会社)

――事業拡大に成功し、次は静岡県東部を盛り上げるプロジェクトにも着手しました。

三島市を中心とした情報発信メディア「ハレノヒ」の運営や、シェアサイクル「ハレノヒサイクル」などを展開しています。人々の生活が豊かになり、街が活性化されて建設業がその発展に貢献します。循環をしているのです。建設業の在り方を再定義し「まちの元気をつくる産業」だと考えた捉えた時に、私たちがまちに対してできることは、もっと幅広いと考えるようになったのです。こうした取り組みが地域の人々の豊かさにつながり、さらには事業の拡大にもつながると思うのです。

ハレノヒサイクルは拠点数が40か所、自転車の数は130台です。買い物や通勤など、地元の人たちの気軽な足として定着してきました。人々の交流を促すため、フリーマーケットのハレノヒマルシェの定期開催もしています。こうした活動が新たな取り組みや仕事の依頼につながり、取引先の拡大にもなっています。

現場監督向けシステム300社導入を目標に

――注力している事業を教えてください。

現在はConTechです。建設事業者向けの業務改善システム「IMPACT CONSTRUCTION」に商機を見出しています。今のところ導入している企業は40社です。このシステムは、現場監督の業務を一元管理するものです。見積もりから発注、予算、工程までが一つのシステムで管理できます。大がかりなプロジェクトの場合、関連する会社が多くなり、提出書類のフォーマットがバラバラになります。予算面では後から赤字が発覚するケースもあります。システムを活用することにより、完工時の粗利が見えるので現場監督の原価意識が変わります。経営者目線で工事が進められるのです。エクセルと操作性が変わらないので、関連する事業従事者のストレスにもなりません。

建設業界は、ITを活用することで業務改善できるポイントが非常に多いです。事故や赤字事業を減らし、業界が発展するためにも必要不可欠なツールだと考えています。これからは、人材育成の分野にもサービス展開をして、将来的には300社・売上30億円の事業規模に育てたいですね。

――三島市の更なる発展に向けても走り出しています。

企業誘致に取り組んでいるところです。IT企業やクリエイティブ企業など、都市部にオフィスを構える必要のない事業者を三島市に呼び込むのです。

当社は2018年夏ごろから三島駅北口の本社ビルの建て替え構想を立てていました。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大でオフィスの在り方、働き方が再定義されるようになりました。本社集中型の働き方に疑問を抱き、建て替えプロジェクトの方針転換を決定したのです。そこで、三島市の空き物件を活用した分散化オフィスづくりに取り組みました。たとえば1階が飲食店、2階以上が空室となっている物件があるとします。その空室部分を借り上げてオフィスへとリノベーションするのです。その数を少しずつ増やしました。会社としては、本社ビルを建て替えプランをコンパクトにし、その費用を低減できましたし、三島市にとっては、空き物件が活用されるメリットがあります。

そのリノベーションを行った物件を自社利用しながら借り手を並行して探すことで、新たな企業を誘致する考えです。家賃は都市部よりも圧倒的に安く済ませられます。会社が長く定着することで、街との新たな交流が生まれるというわけです。

加和太建設株式会社
(画像=加和太建設株式会社)

――新常態に合った働き方といえます。

分散と聞くと、組織が弱くなるイメージを持つ人も多いと思います。しかし、チームを切り分けて権限を委譲し、メンバー同士が決断しながらプロジェクトを進めることは、決してマイナスにはなりません。むしろ、組織を強くします。稲盛和夫氏が実践したアメーバ経営のようなものです。当社は社員の成長を手助けするため、「加和太アカデミー」という教育制度を取り入れています。Web学習や研修を織り交ぜ、一般教養に加えて土木、建築、不動産など各事業分野に必要な知識・スキルを体系的に学ぶことができるものです。

2016年からは新規事業のコンテストも開始しました。優秀な提案者は事業責任者となり、事業の立ち上げを担います。

こうして育った若手が、分散したオフィスで活躍できるのです。その中に外部のスタートアップが入ることで、刺激しあう関係にもなれると期待しています。新型コロナウイルスは、思わぬ形で会社と組織を強くしてくれたと感じています。