地球温暖化対策や再生可能エネルギー分野への投資が活発になる中、環境関連プロジェクトへの投資に焦点を絞った「グリーン債(Green Bond)」市場が急成長しています。
近年は企業のほか金融機関や政府など発行体が多様化しており、コロナ禍の環境意識の高まりを受け、2021年は129 兆円規模に拡大すると予想されています。
世界中で急増するグリーン債とは?
グリーン債は、プロジェクトを実施・支援する企業や自治体、投融資する金融機関などの発行体が、環境関連プロジェクト(再生可能エネルギー、生物多様性保全、クリーン輸送など)の資金を調達するために発行する債券です。商品性は通常の債券と同じですが、環境改善を目的とすることから、「サステナビリティ債券」「SDGs債」「環境債」などと呼ばれることもあります。
2007年、EIB(欧州投資銀行)が世界初のグリーン債「Climate Awareness Bond(環境意識債)」を発行して以来、世界中で様々なグリーン債が発行されています。日本でも2014年に日本政策投資銀行が2億5,000万ユーロ(約323億4,777万円)相当のグリーン債を発行したのを皮切りに、多くの金融機関やエネルギー関連企業などが発行しています。
Appleもそのうちの1社です。同社は2016年から2019年までにグリーン債を3回発行し、総額47億ドル(約5,186億7,713万円)を調達しました。その資金はクリーンパワーやエネルギーの効率化、再生可能エネルギーなどを推進するプロジェクトに投じられています。
コロナ禍で発行総額が過去最高に
2011年以降、グリーン債の発行総額は9年連続で増加傾向にあり、特にパリ協定が採択された2015年からはその勢いが加速しています。
国際非営利団体Climate Bonds Initiative(気候債イニシアチブ)によると、2020年はコロナ禍で環境意識がさらに高まりました。グリーンボンド債が53ヵ国で発行され、発行総額は過去最高の2,695億ドル(約29兆7,319億円)に達したのです。
市場の関心は今後も継続すると期待されており、オランダの資産運用企業NN Investment Partners(NN IP)は、2021年に1兆ユーロ(約129兆3,745億円)、2023年には2兆ユーロ(約258兆7,445億円)に達すると予想しています。
発行・投資のメリット
グリーン債は発行する側と購入する側の両方に、様々なメリットをもたらします。
発行体は、多様な投資家層(機関投資家・資産運用機関・個人投資家など)から資金を調達するという本来の目的を達成すると同時に、サステナビリティ(持続可能性)の需要を満たし、ESG評価や企業評価の向上を目指すことができます。また、金融機関から融資を受けることが難しい新興企業でも、事業の有益性や収益性を証明できれば、資金調達の可能性が高まります。
投資家にとっては収益性を維持しながら、投資を通して社会に貢献できるというメリットがあります。株式や通常の債券と比べて低リスクであるため、リスクヘッジ手法の一つである分散投資にも向いています。あるいは、途中売却で売却益を狙うこともできるでしょう。
政府が発行する「グリーン国債」
現在、グリーン債の新しい可能性として注目を浴びているのが、政府が発行する「グリーン国債」です。すでにフランス、ドイツ、アイルランド、ポーランドなど欧州を中心に、政府によるグリーン・プロジェクトの資金調達手段として活用されています。
例えば、ドイツが2020年9月に発行した同国初の10年物グリーン国債は、起債額65億ユーロ(約8,409億8,061万円)に対し、330億ユーロ(約4兆2,694億円)以上の需要がありました。同国は2021年には新型コロナ下の景気を下支えする目的で、過去最大の国債発行を計画しており、その中には5月発行予定の30年物グリーン国債も含まれます。
一方で英国は、年内に政府が支援する貯蓄制度「国民貯蓄投資機構」を通じて、個人投資家向けの「グリーン貯蓄国債」を発行します。2050年までのネットゼロカーボン経済の構築を目標に、調達した資金を温暖化対策などに役立てる計画です。
持続可能性を高めるための課題
「環境改善効果や環境意識のさらなる向上に貢献する」と期待されているグリーン債ですが、持続可能性を高める上での課題も指摘されています。
これまで、グリーン債の発行体はEIBや世界銀行などの国際機関のみでしたが、近年は発行体の増加に伴って多様化しています。現時点では自主的なガイドラインは存在するものの、広範囲に統一された定義・基準・規則などは策定されておらず、理念や実態が不透明なものも見られます。NN IPは「グリーン債を発行している企業の15%は、環境基準に違反する物議を醸す慣行に関与している」と投資家に警告しています。
また、資金が本当にグリーン・プロジェクトに充当され、環境改善に貢献するかどうかについて疑義を唱える声もあります。投資家からの信頼を得て、中長期的な持続可能性を実現する上で、透明性やパフォーマンスを評価するための監査システムや、グリーン性を確保・維持するためのフレームワークが必須となるでしょう。
さらに、デフォルトリスクから投資家を保護するための取り組みも重要な課題の一つです。多くのグリーン債にはクロスデフォルト(債務者が返済を履行できず債務不履行に陥った場合、債権者が債務者に返還を要求できる)条項が設けられていますが、投資家により安心して投資できる環境作りが必要です。
以上のような課題はあるものの、グリーン債は今後さらなる成長が期待できる分野です。発行体の多様化とともに、投資家にとってさらに身近な存在になっていくでしょう。
投資を行う際は、発行体の理念や投資商品のグリーン性に関する念入りなリサーチだけでなく、価格変動リスクや自分のリスク許容範囲なども考慮して、慎重に判断しましょう。
※上記は参考情報であり、特定ファンドの売買を推奨するものではありません。(提供:Wealth Road)