米国株は大崩れせず、冬に向けて動きの鈍い相場に
GCIアセット・マネジメント シニアポートフォリオマネージャー / 池田 隆政
週刊金融財政事情 2021年5月25日号
S&P500株価指数やナスダック株価指数は1月以降、たびたび過去最高値を更新してきたが、足元の上昇トレンドは減速気味だ。1月25日号の当欄では、「現在の200日移動平均線の乖離はすでに高い水準にあり、ある程度の調整は意識しておくべき時期にきている」と書いたが、想定の範囲内で推移しているように見える。
今後、米株はどのような方向に向かうのか。S&P500指数とナスダック指数の半年程度の先行きについて、前年比ローリングリターン比較(営業日ベース)から分析を行ってみたい。これは、長期投資の効果を見る指標の一つで、ある時点から一定期間、資産を保有した場合のリターンを比較・分析する手法だ。短期的な方向性に関する示唆はないものの、株価が暴落した後のトレンドの強さや長さを測定する上では、有効な分析手法といえる。
図表は、ローリングリターンを見るため日次終値を250営業日前の終値と比較したもの、つまりほぼ前年比の騰落率の推移を表している。5月7日執筆時点で、S&P500指数は43.2%、ナスダック指数は47.5%の上昇だ。
注目すべきは、ナスダック指数の前年比騰落率が50%を超えた時期である。そうした動きを見せたのは1985年以降で、コロナショックを入れてもわずか5回しかない。この5回のうち2000年ごろのITバブル時を除くと、ほかはすべて株価の暴落が起こった後に上昇したものである。暴落のイベントを時系列で見れば、湾岸戦争、ニューヨーク同時多発テロ事件後、リーマンショック後、そして今回のコロナショックという流れである。
株価の暴落後には歴史的な上昇相場が始まるが、このときローリングリターンは株価の暴落から約1年後にピークを迎えている。そして前述のコロナを除く四つのイベントに共通して、同リターンはピークから半年後に0%近辺に下落している。同リターンが下落するということは、前年の株価が上昇していても、足元の株価の上昇スピードが減速するか、下落することを意味する。
今年3月1日のナスダック指数の前年比騰落率は96.8%だった。今回、ローリングリターンが今年3月にピークを打ったとすれば、株価の上昇トレンドはすでにピークアウトしていることになる。統計的にはサンプル数が少ないため、正確な予測という観点では有意性は低いが、過去の暴落相場後のシナリオアプローチと見れば参考になる点もあろう。
この前提で考えると、S&P500指数とナスダック指数は短期的には上下の振れはあるかもしれないが、暴騰も暴落もせず、冬に向けて足元からプラスマイナス10%程度の動きの鈍いレンジ相場が続くとみている。
(提供:きんざいOnlineより)