米株価と同日にボトムを付けた商用航空機便数の前週差
(画像=PIXTA)

米株価と同日にボトムを付けた商用航空機便数の前週差

オールニッポン・アセットマネジメント 金融商品部 次長 / 坂根 学
週刊金融財政事情 2021年6月1日号

(フライトレーダー24「商用航空機便数」ほか)

 2019年末に中国で感染者が確認された新型コロナウイルスは世界的大流行を引き起こし、世界経済は急速に悪化した。今週から5回にわたり、その背景にある人や物の動きの変化をデータで読み解きながら、経済との関係を分析していく。今回は世界の商用航空機の便数の推移に着目したい。

 新型コロナの感染拡大を抑制するため、世界中の多くの国が渡航制限や外出規制を実施したことで、経済活動は大きな影響を受けた。先行して発生したのは、供給面でのダメージである。厳格な行動制限により、まず生産活動や物流の動きが止められ、サプライチェーンの途絶によって物資不足が生じた。レストランや映画館、劇場やスポーツジムなども次々に営業停止に追い込まれた。

 その後すぐに顕在化したのが、需要面でのダメージだ。国内外問わず観光や宿泊、航空輸送や外食などの需要が一斉に、かつ過去に例を見ないほど大幅に減退した。さらに耐久財への消費も抑制され、それによって生産や貿易もまた大きく停滞するなど、供給減・需要減が交互に作用しながら世界経済は急激にその勢いを失っていった。

 需要面での世界経済へのダメージを映し出す指標の一つと考えられるのが、世界の商用航空機の便数の推移である。

 飛行中の民間航空機の現在位置をリアルタイム表示する「フライトレーダー24」というシステムがある。これをもとに1週間前との便数の差を見ると、米国で国家非常事態宣言が発令され、新型コロナへの危機感が急速に高まった20年3月から翌4月にかけて1カ月以上続いた便数の減少が、そのスピードも幅もそれまでとは桁違いであることが分かる(図表)。

 他方、世界の株式市場は20年2月から大きく下落したが、3月以降、大規模な経済対策や金融緩和政策により落ち着きを取り戻した。株価がボトムを付けて切り返したのは、米連邦準備制度理事会(FRB)による無制限の量的金融緩和政策が発表された3月23日である。その後は堅調に推移し、過去最高値を更新する銘柄も相次いだ。企業業績の実績・見通しも年後半にかけて急速に回復していった。

 この米国株式市場が反転上昇を始めたのとまさに同じ日に、世界の商用航空機便数の前週差もボトムを付け、その後、株価と歩調を合わせるように4月半ばには便数が増加に転じた。

 世界の商用航空機の便数は、一時19年比マイナス75%まで達したが、21年5月時点では19年比マイナス30%程度まで戻ってきている。今後、新型コロナのワクチン普及に伴う世界経済の需要面での回復が、航空機の便数にも表れてくるだろう。

米株価と同日にボトムを付けた商用航空機便数の前週差
(画像=きんざいOnline)

(提供:きんざいOnlineより)