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物価上振れは続くも、主要イールドカーブはスティープ化へ

MCPアセット・マネジメント チーフストラテジスト / 嶋津 洋樹
週刊金融財政事情 2021年6月1日号

 主要国を中心に物価の上振れが続き、市場では、新型コロナ対応のために実施されてきた金融緩和政策が見直されるとの懸念が浮上している。実際、5月12日に公表された4月の米消費者物価指数は、市場予想の前月比プラス0.2%に対し、プラス0.8%と大幅に上振れした。これにより米10年国債利回りは前営業日の1.62%から1.69%に上昇。株式市場では金融緩和縮小への警戒から、ナスダック総合指数が前営業日比マイナス2.7%となるなど、主要株価指数が軒並み大幅に下落した。

 物価の上振れなどを背景に、すでに利上げに踏み切った中央銀行もある。ブラジル中銀は今年に入り、すでに2回、合計150bpの利上げを決定。アイスランド中銀も5月19日、約2年半ぶりの利上げに踏み切った。必ずしも物価だけが原因ではないものの、米国、英国、カナダの中銀などもコロナ禍で導入した措置の一部を終了した。米欧中銀の4月下旬の政策会合では、資産購入のペース調整の議論を開始する可能性や、次回の会合で物価見通しの評価を行うことが示された。いまや金融緩和の縮小を巡る議論は市場での重要なテーマとなっている。

 もっとも、日米欧英の主要4中銀に限れば、市場参加者は物価の上振れが現行の金融緩和策の縮小につながることはあっても、政策金利の引き上げには至らないと考えているようだ。

 図表は、5年先・5年インフレスワップ金利と名目2年債利回りとのスプレッドで、期待インフレ率の変動に対する金融政策の運営スタンスに関する市場予想を示している。つまり、市場参加者が、金融政策の運営について中銀のハト派姿勢を見込み、期待インフレ率ほど引き締められないと考えていれば、スプレッドは拡大する。反対に、引き締めるタカ派的な金融政策の運営を想定する場合、スプレッドは縮小する。

 主要4カ国を比較すると、米国とユーロ圏、英国は新型コロナの感染拡大当初の2020年3月ごろから、日本は10月ごろからスプレッドが拡大した。英国中銀がマイナス金利の導入を急がないとの観測が広がった同年7月ごろには、英国でスプレッドの拡大に歯止めがかかったが、それでも英国のスプレッドが縮小に転じたわけではない。

 以上のことは、イールドカーブには当面、スティープ化の圧力がかかりやすいことを示す。米欧中銀が今後、資産購入ペースを縮小方向で見直すとすれば、なおさらそうだろう。筆者は世界的なサプライチェーンの混乱や局所的な財・サービスの不足で物価の上振れが下期も続く可能性があると予想しており、それが主要中銀のハト派的な姿勢とともにイールドカーブの一段のスティープ化につながるとみている。

物価上振れは続くも、主要イールドカーブはスティープ化へ
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(提供:きんざいOnlineより)