地球温暖化対策の国際的な枠組みである「パリ協定」や「京都議定書」、国連サミットで策定された国際社会の共通目標「SDGs(持続可能な開発目標)」など、世界規模で気候変動や社会問題への取り組みが加速しています。
ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みは、目標達成に向けたプロセスの一つですが、各国の取り組みや進展度合いに格差が見られます。ESGという概念の捉え方のみならず、各国の経済力や情勢などにも大きく左右されるようです。
ESGに積極的な国ランキング
二極化が進む世界のESGの現状を、176ヵ国・地域のESGへの取り組みを評価した「ESG指数」から見てみましょう。
これは、スイスを拠点とするリスク管理企業グローバル・リスク・プロファイル(Global Risk Profile)が国際連合(UN)や世界銀行などから収集した44のデータセットに基づいて、環境(「京都議定書」「パリ協定」「環境パフォーマンス指数」)、人権(奴隷制度・児童労働・教育・住宅・報道の自由・マイノリティの権利など)、安全衛生(平均寿命・衛生的な飲料水へのアクセス・職場における安全性・社会保障制度など等)に対するリスクを測定したものです。
リスクスコアの高い国(<100pt)はESG活動が発展しておらず、低い国(>0pt)は積極的に取り組んでいるということになります。
ESGに最も積極的な10ヵ国
10位(2019年の順位9位) オランダ 15.09pt
9位(同10位) ベルギー 14.36pt
8位(同8位) オーストリア 12.83pt
7位(同3位) ノルウェー 12.45pt
6位(同7位) ドイツ 12.20pt
5位(同4位) スウェーデン 12.15pt
4位(同2位) デンマーク 11.94pt
3位(同11位) ルクセンブルク 11.55pt
2位(同6位) フィンランド 10.13pt
1位(同1位) スイス 9.85pt
欧州勢がトップ10を独占
首位のスイスを筆頭に、上位10ヵ国はすべて欧州諸国です。欧州では脱炭素社会の推進やグリーン経済への移行など、特に環境(Environment)への取り組みが進んでいます。
「環境」で1位となったデンマークでは、2019年時点で国内の消費電力の約5割を風力発電で賄っており、2030年までに100%自然エネルギーに移行することを目標としています。また、多くの欧州諸国がガソリン・ディーゼル車の販売や乗り入れ禁止に向けて動き出しているほか、EU(欧州連合)は世界の自動車メーカーに「CO2(二酸化炭素)規制」を課し、新車のCO2排出量削減を図っています。ストローやカップといった使い捨てプラスチック製品を禁止する法案も採択され、すでに一部の国や小売店が実施しています。
難民問題や人種差別問題、労働環境、男女格差など、「人権(Social)」に関する取り組みも加速しています。「人権(Social)」で1位のフィンランドは男女平等や子育て支援制度が充実しているほか、近年は少子化対策の一環として移民の受け入れにも積極的です。
アジア圏トップのESG国、日本
日本は2019年から順位を5つ上げて14位、スコアは16.37ptです。「安全衛生」は、ボスニア/ヘルツェゴビナ、ベラルーシ、ギリシャ、スイスに次いで世界5位。2020年の平均寿命は84.2歳と世界一長く、衛生水準が高いこと、社会保障制度が確立されていることなどが順位を上げた理由と考えられます。
アジア圏からは、他に韓国(27位)、シンガポール(38位)などがトップ50入りを果たしました。
足踏み状態の米中 バイデン環境政策に期待?
一方、経済大国である米国と中国のESGへの取り組みは、それほど進んでいないようです。米国は5ランクアップの39位、中国は3ランクアップの103位で、いずれもESGリスク指数は「中レベル」と評価されています。
米国では数年前からESG投資への関心が高まっていたものの、トランプ政権時代(2017年1月~2021年1月)の化石燃料産業を支持する政策が足かせとなりました。しかし、バイデン政権への移行後は、パリ協定への再加盟に向けて手続きを進めているほか、大規模なエネルギー環境政策やグリーン経済への移行を前面に打ち出していることから、今後は急速に遅れを取り戻すのではないかと期待されています。
中国も2030年までにCO2排出量を減らし、2060年までに排出量と除去量を差し引きゼロにするカーボンニュートラルを目指しているほか、政府主導のグリーンファイナンス(環境債の発行など)も活発化しています。しかし、新疆ウイグル自治区での人権弾圧問題や香港デモでの武力行使などが批難を浴びており、「人権」への取り組みが課題となりそうです。
発展途上国での取り組みは停滞 今後の課題は?
ランキングの下位10ヵ国はチャド、リベリア、アフガニスタン、ギニア、ブルンジなどの発展途上国で、8割がアフリカ、2割がアジアです。チャドのリスクスコアは80.63ptと、スイスのおよそ8倍。他の下位国のリスクスコアも70pt台と非常に高く、ESGへの取り組みが進んでいないことがわかります。その理由として、先進国から経済面や社会面で様々な支援を受けていること、地政学リスクが大きい国があることなど、ESGに取り組む経済的・社会的基盤がないことが挙げられます。
このようにESGへの取り組みは二極化していますが、国際社会がSDGsの目標を達成するためには、各国が一丸となって取り組まなければなりません。今後は、ESG先進国から発展途上国への援助を強化することや、格差を解消していくための国際的フレームワーク作りなどが課題となりそうです。いま、世界的に「ESG投資」が注目されています。Wealth Roadでは定期的にESG関連の情報を発信しているので、リサーチのために役立てるとよいでしょう。
(提供:Wealth Road)