物価上昇は加速、ECBは強気の緩和姿勢を保てるか
BNPパリバ証券 チーフクレジットストラテジスト / 中空 麻奈
週刊金融財政事情 2021年6月15日号
欧州中央銀行(ECB)は、金融緩和を維持する姿勢を表明し続けている。ラガルドECB総裁は3月、「ユーロ圏のインフレ率が年内に2%に達することはあるが、それは一時的かつテクニカルなものと考えており、重視しない」と発言した。新型コロナウイルスによる悪影響とワクチン接種率の高まりによる経済再開の好影響をバランス良く見渡し、必要な措置を取る方針だ。本稿執筆時点(6月4日)では、6月10日のECB政策理事会ではそれが確認され、今後もユーロ圏経済の回復に力点を置いた政策を表明するとみている。
ユーロ圏のインフレ率は明確な上昇基調にある。確かに、何度も行われた都市封鎖の影響から、統計データの収集能力の低下などにより一時的にデータの信頼性が低下し、そのことが影響している可能性がある点には留意が必要だ。
しかし、ユーロ圏消費者物価指数(HICP)の総合指数は、4月の1.6%から、5月は2.0%と、明確に上昇した(図表)。当社は、今後もこのトレンドが継続し、2021年第4四半期に2.7%とピークを付けると予想している。現時点では、主に商品価格の上昇と前年同月比の反動の影響が大きいが、今後は新型コロナで鬱積していた需要の顕在化・拡大がさらにインフレを加速させるだろう。
エネルギーと飲食料を除くコアHICPも4月の0.7%から5月の0.9%に上昇し、今年後半にさらに上昇すると考えられる。5月のコアHICPのうちサービスセクターの上昇は、最もコロナの影響を受けやすいセクター(レストラン、ホテル等)の価格回復によるものである可能性が高い。とりわけ、5月のドイツの州別データなどから明らかなのは、レストランや店舗などで営業制限が緩和された効果である。ほかのユーロ圏の国々でもこうした傾向が継続し、景気回復により家計や企業の期待インフレ率が上昇すれば、「一時的とはいえないインフレ上昇」もあるかもしれない。
ECBが強気の金融緩和姿勢から「転向」するタイミングは訪れるのだろうか。そのカギを握るのは、今年後半に発表される金融政策に関する戦略レビューと、22年3月を期限とするパンデミック緊急購入プログラム(PEPP)に関する判断である。筆者は戦略レビューの公表時期を9月とみているが、これはPEPPに関する政策判断を下す際の枠組みとなる。ECBが「物価が継続的にインフレ目標に向かうまで十分な支援を行う」というこれまでの発言との整合性を取るなら、22年3月以降も、ECBは「良好な金融環境」という枠組みを維持するとみている。物価の急騰がこうしたECBの判断を妨げるか否かは、見守るしかない。
(提供:きんざいOnlineより)