目次

  1. 要旨
  2. 「人材」の登場回数は79回
  3. 週休3日制は目的ではなく手段。副業との組み合わせに期待
  4. 仕事で満足感を得られない国、日本
人材
(画像=Alexander Supertramp/Shutterstock.com)

要旨

  • 今回の骨太方針の頻出ワードの一つが「人材」だ。骨太で掲げた重点分野である「4つの原動力」に取り組むための基盤として整理されている。
  • 昨年に引き続きジョブ型雇用、リカレント教育など、日本型雇用慣行からの脱却を念頭に置いた政策が並ぶ。さらに今回新たに取り入れられたものに選択的週休3日制の推進、がある。働く側のニーズを踏まえて、週休3日制の導入そのものを目的化しない運用が企業には求められよう。
  • 今回骨太に、働く人がやりがいをもって主体的に仕事に取り組む概念を示す言葉である「エンゲージメント」が新たに入っている。日本は働く人の満足度が低いとの調査もある。労働市場の流動化が進めば、企業にとっても人材をつなぎとめるための従業員満足度の向上が重要課題になり、日本全体の働くことへの満足度向上にもつながっていくだろう。働くことを前向きに考える人が増えれば、リカレント教育や副業など、働く「機会」を拡大する政策が活きてくるはずだ。

「人材」の登場回数は79回

今回の骨太方針の頻出ワードの一つが「人材」である(今回の骨太原案には79回登場)。骨太方針内ではグリーン・デジタルなどの重点分野への取り組みや、「時代に合わなくなった企業組織や働き方、人材育成の在り方など社会全体の仕組み・構造」を変革するうえで、「我が国最大の資源である人材の力を引き出していくことが重要」とされ、これを促すための政府の投資、制度改革を「ヒューマン・ニューディール」と呼称している。人材投資等に関連した主な内容は、重点分野である「4つの原動力」(グリーン・デジタル・地方・少子化対策)の「基盤づくり」として整理されている(資料1)

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

週休3日制は目的ではなく手段。副業との組み合わせに期待

雇用・働き方関連では、ジョブ型雇用への転換や兼業・副業、リカレント教育など、昨年の骨太方針や成長戦略で重点が置かれた内容と大幅な変化はみられない。引き続き、日本型雇用慣行の変革を促し、成長分野への円滑な労働移動という日本経済の長年の課題をクリアすることが念頭に置かれている。

今回、新たに加わった内容として学び直しを促す観点での「選択的週休3日制の導入促進」がある。過去のレポート(※1)でも論じたように、週休3日制は賃金を維持するか減らすかなどそのパターンによって、ニーズにマッチする従業員層が異なる。時間を作って別の収入源を得たい人、体力的な理由から労働時間を減らしたい人など様々だ。今後、政府が企業に対して導入を促していくことになるが企業は制度導入の目的をクリアにすること、政府も週休3日制そのものを目的化しないことが重要なポイントだろう。

学び直しを促す観点では、週休3日制が副業との組み合わせで有効に働くことに期待したい。副業は家計の収入拡大の手段であると同時に、学んだスキルを活かす場としての役割もある。「学ぶ→業務の生産性を上げる→給与を維持しつつ週休3日にする→学ぶ→空いた時間で副業をする→稼ぐ→さらに学ぶ→さらに稼ぐ」といったように、学び直しが可処分時間の増加や副業による所得増を通じて、自らの暮らしを豊かにし、それが更に学ぶモチベーションになるという好サイクルを生み出すのが理想形である。「学び直しが企業での人事評定や自身の待遇、暮らしの改善に直結しない」というリカレント教育の本質的な課題を、副業は打破する可能性を秘めている。

仕事で満足感を得られない国、日本

今回、骨太に新たに表れた用語に「エンゲージメント」がある。これは、人事用語であり「働き手にとって、組織目標の達成と自らの成長の方向が一致し、仕事へのやりがい・働きがいを感じる中で、組織や仕事に主体的に貢献する意欲や姿勢を示す概念」(骨太方針内の説明を抜粋)を指す。政府の掲げる「人材活躍」は働く人ひとりひとりが仕事に対するモチベーションを持つことなしに実現できるものではない。一方で、Linkedinが2014年に発行したレポートによれば、日本で仕事に満足感を得ている人の割合は調査対象の26か国中25番目であった(資料2)。

『第一生命経済研究所』より引用
(画像=『第一生命経済研究所』より引用)

働き手の満足度を高めるという視点は、従来の日本企業にとって重要度の低いものであった。それは、転職の一般的でない日本型雇用の世界では、従業員が離職することがないからである。日本型雇用慣行からの脱却が進み、転職が当たり前になっていけば企業は従業員のつなぎ留めのために労働環境、従業員のエンゲージメントを重視する必要性が生じる。これは日本全体において「働く」ことに対する満足度を高めることにもつながっていくだろう。「働く」をポジティブに考える人が増えれば、リカレント教育や副業推進など働く「機会」を提供する政策を活用したい人が増え、政策が活きてくる。日本型雇用からの脱却、それによる労働市場の流動化は、こうした観点からも重要な意味合いを持っているのではないか。(提供:第一生命経済研究所


(※1) Economic Trends「選択的週休3日制の論点整理 ~誰のため・何のための制度なのか?~」(2021年4月16日)


第一生命経済研究所 経済調査部
主任エコノミスト 星野 卓也