インフレと経済活動再開で上昇続く金と原油
みずほ証券 マーケットストラテジスト / 中島 三養子
週刊金融財政事情 2021年6月22日号
足元、米国では新型コロナのワクチン接種が進み、経済活動が回復しつつある。それに伴い、6月10日に発表された5月の米消費者物価(CPI)が前年同月比5.0%増と上振れるなど、インフレ懸念が強まっている。米国の量的緩和の縮小(テーパリング)観測が高まりやすい地合いだが、米連邦準備制度理事会(FRB)は、2013年のテーパータントラム(金融政策の変更に伴い金融市場が混乱し、実体経済に悪影響を及ぼすこと)の反省から市場との対話を重視し、当面は現行の金融緩和を維持するとみられる。
そのようななか、ニューヨーク金先物期近価格は6月11日時点で、1トロイオンス=1,879.6ドルと、約3カ月ぶりの反発局面となっている(図表)。金はインフレヘッジの観点から安全資産としての見直し需要が高まっているようだ。また、コロナショック以降、米国の財政拡張によるドル安トレンドが続き、ドル建てで取引される金価格を支えている。米国では新型コロナ対策による大規模な財政支出から、20年の財政赤字が大幅に膨らんだ。米議会予算局のデータを見ると米国の財政赤字の拡大とともに金価格が上昇する傾向がある。金相場は20年の高値2,000ドル台を意識する展開を予想している。
また、WTI原油先物価格(期近物)は6月11日時点で1バレル=70.91ドルと、約2年8カ月ぶりの高値となった。この背景には、石油輸出国機構(OPEC)が減産を縮小して供給を増やしたものの、欧米の経済活動再開による原油需要がそれを上回るとの市場の見方がある。また、イランの原油供給の動向も挙げられる。6月10日にイラン核合意の当事者国協議が再開されたものの、米高官は対イラン制裁を継続すると示唆した。そのため、制裁解除によるイランの原油供給量が大幅に増加する懸念がやや後退した。
原油の売買動向を見ると、70ドルの節目は通過点とみることもできる。まず、金融市場での売り圧力が限定的だ。6月第2週の非商業筋の投機ポジションは差し引き51万枚にとどまっている。20年4月に原油価格が乱高下した際に注目された原油ETFの空売り比率も低水準だ。また、経済活動が再開する中で原油の実需は根強い。米エネルギー情報局(EIA)は、6月8日の月報で21年の原油消費量は前年比日量540万バレル増の日量9,770万バレルと予想した。
他方、米国で稼働するリグ(石油採掘装置)数が20年8月をボトムに10カ月連続増加していることは、原油価格の上昇ペースを抑える要因となる。しかし、当面の原油相場は、経済活動再開による需要拡大とイラン核合意の不透明感後退から18年10月の高値水準(1バレル=76.41ドル)を意識する展開とみている。以上から、21年の予想レンジを1バレル=55~75ドルと想定する。
(提供:きんざいOnlineより)