輸送量の急減と急回復が引き起こした運賃の急騰
(画像=PIXTA)

輸送量の急減と急回復が引き起こした運賃の急騰

(RWI/ISL「世界コンテナ取扱量」ほか)

オールニッポン・アセットマネジメント 金融商品部 次長 / 坂根 学
週刊金融財政事情 2021年6月22日号

 今回は、2020年にコロナ禍からいち早く回復した海運市況と、それに伴う運賃の高騰について見ていきたい。世界のコンテナ数量を表すRWI/ISL指数と世界的な輸送コンサルタントであるDrewryのデータを用いる。

 感染抑制を目的とした渡航制限や外出規制が多くの国々で実施されたことで、人の移動だけでなく、モノの移動量も一時的に大きく減退した。生産活動や物流の動きが止められ、サプライチェーンの途絶によって物資不足が生じた。こうした供給面のダメージに加え、需要の落ち込みもあり、20年5月には世界のコンテナ船による輸送量は前年比マイナス8.5%まで減少した(図表)。海運企業は新型コロナの感染拡大で荷動きが鈍ることを察知し、大規模な減便に踏み切ったのである。

 世界のコンテナ船による輸送量が大きく減少したのは、08年のリーマンショック時も同様である。当時は、半年ほどの時間をかけて前年比マイナス18.8%まで減少した。景気の落ち込みが長期間にわたり、ショック前の水準に戻るまで約2年を要した。

 一方、コロナ禍では、一時的に大きく減少した輸送量が、昨年の夏場以降には急回復を見せ始め、あっという間にコロナ前の水準を上回った。人の移動の制限・停滞が継続した一方で、モノの動きが早期に活発化した背景には、コロナ禍での「巣ごもり」に伴う消費の変化が背景にあると考えられる。

 特に米国では在宅勤務の長期化や株高に加えて住宅金利の低下も重なり、都心部から郊外の一戸建てに移り住む動きが顕著に見られる。住宅着工件数や中古住宅販売件数などは、10数年ぶりの高水準である。それに伴って家具・家電・音響機器などの買い替え需要も堅調だったほか、在宅勤務用のパソコン周辺機器への需要も強かったことも、コンテナ取扱量の増加要因となった。なお、鉄鉱石や石炭、大豆、トウモロコシなどの貨物を梱包せずに輸送するばら積み船による取扱量や運賃も、中国経済の回復を背景に高水準で推移している。

 荷動きの急回復を受け、海運企業はすぐさま減便を解消したが追い付かず、結果として運賃の急騰が起こった。コンテナの供給不足のほか、旅客航空輸送が限られる中で、世界的なコロナ感染対策の強化により、帰港が遅延する便が増加したことも運賃高騰の理由といわれている。20年12月には香港─ロサンゼルス間のコンテナ運賃は前年比プラス300%を超える水準まで高騰し、高止まりしている。運賃の高騰が長期化すれば、物流コストを吸収できずに価格転嫁に踏み切る企業が増加し、物価上昇につながる懸念もある。

輸送量の急減と急回復が引き起こした運賃の急騰
(画像=きんざいOnline)

(提供:きんざいOnlineより)