米10年金利、来年前半に2%超へ。供給制約の解消で
(画像=PIXTA)

供給制約の解消で、米10年金利は来年前半に2%超へ

野村証券 チーフ・ストラテジスト / 松沢 中
週刊金融財政事情 2021年6月22日号

 米金利は4月上旬をピークに低下基調にあるが、この傾向は長続きしないだろう。当初は過度なインフレ懸念の後退が金利低下の主因であったが、10年物はすでに2月下旬に金融正常化の織り込みが本格化した時の水準である1.5%を割り込んだ。さらなる金利低下は金融正常化の遅れを織り込むことが必要で、持続性はないように思える。

 米金利が上昇局面へと戻るのは、米連邦準備制度理事会(FRB)による量的緩和縮小の議論開始やその決定よりも、半導体や労働市場における供給制約問題の解消がきっかけになる可能性が高い。そしてその問題が解消し、景気回復が勢いづけば、市場はFRBの利上げ開始を本格的に織り込み、米10年金利が2.0%を超える原動力になるとみている。

 市場では現在、夏場にFRBが量的緩和の縮小に関する議論を開始し、年末に縮小を決定するシナリオがコンセンサスとなっている。しかし、量的緩和縮小そのものの金利水準へのインパクトは限定的だ。FRBの一部高官も公に認めるように、金利水準の形成にとっては、量的緩和の縮小よりも、政策金利および将来の政策金利期待による影響の方が圧倒的に大きい。

 供給制約問題が景気回復を頓挫させるほど長期化・深刻化するとの見方は強くない。新型コロナウイルスに対する集団免疫の獲得と、経済活動再開がさらに勢いづけば、供給制約はそのうち解消されるだろう。そうなれば、FRBの思いとは裏腹に、市場は景気回復やインフレの持続性を見ながら、利上げの織り込みを進める。供給制約が解消されれば、インフレ上振れ分のうちどの程度持続性があるのかなど判断ができるようになるからだ。

 現時点で市場の利上げ織り込みはかなり低い。今後の利上げサイクルの到達点と見なすことができる10年後の政策金利予想(10年先OIS金利)は6月11日時点で2.09%と、2月下旬以来の低水準になった。同予想から、10年後の期待インフレ率(BEI、2.36%)を差し引くと10年後の実質政策金利期待がマイナスになる(図表)。利上げ到達点でそれがマイナスなのは、単純に言えば成長期待が著しく低い「日本化」した経済状況だということを示す。

 しかし、10年実質政策金利期待と10年後の期待インフレ率の和である10年名目金利が2%を下回るとは考え難い。2010年代後半、グローバルに成長期待が低下した時期で見ても米国の実質政策金利水準の平均は0.63%である(図表)。今後、米10年期待インフレ率が低下し、10年代平均の1.99%程度に落ち着くとしても、利上げ到達点の政策金利は2%を超える。

 従って市場は、供給制約の解消に伴い利上げを織り込み始め、米10年金利は2%を超えるだろう。そのタイミングは早くて年末近く、おそらく来年前半になるだろう。

米10年金利、来年前半に2%超へ。供給制約の解消で
(画像=きんざいOnline)

(提供:きんざいOnlineより)