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失業率では見えてこないわが国労働市場のコロナ影響

(OECD「各国の失業率」)

日本総合研究所 調査部 マクロ経済研究センター 国内経済グループ長 / 下田 裕介
週刊金融財政事情 2021年7月6日号

 新型コロナウイルスの世界的な流行が始まって1年半が経過した。最近では、ワクチン接種が広がっており、収束に向けて歩みを進めているものの、さまざまな経済的な問題の解決にはなお時間を要する見通しである。

 雇用環境への影響も続いている。わが国では、昨年4月に初めての緊急事態宣言が発令されて以降、外出自粛や営業制限などにより経済活動が抑制され、それが雇用に対して負のインパクトをもたらしている。総務省「労働力調査」によれば、わが国の完全失業率は、コロナ禍以前の2019年は2%台半ばから2%台前半への緩やかな改善傾向が続いていたが、新型コロナの感染が拡大した20年に入り上昇し、同年10月には3.1%とピークをつけた。その後、足元では2.8%(21年4月)と2%台後半で推移しており、これは16~17年以来の高い水準である。

 他方、経済協力開発機構(OECD)の統計から世界各国の完全失業率を見ると、例えば、米国ではピーク時にわが国を大幅に上回る14.8%まで急上昇した後、足元では6%前後で下げ渋っており、コロナ禍直前と比べて、なお2%ポイント強も高い水準にある(図表)。また、欧州では英国やドイツで、ピーク時に4%台後半〜5%台前半へ上昇し、直近ではコロナ禍前を1%ポイント程度上回るなど、厳しい状況がうかがわれる。このように、コロナ禍での完全失業率の水準や上昇幅を見ると、わが国は米欧主要諸国と比べて影響が小さいことが確認できる。

 もっとも、これだけで「新型コロナがわが国雇用に与えた影響は限定的」と考えるのは早計である。例えば、わが国では女性や非正規雇用者といった特定の層で、見過ごすことができない問題が生じている。これは労働市場全体のデータからだけでは見えてこない。また、労働者の転職活動や学生の就職活動などにも、コロナ禍をきっかけとして、さらには収束後を見据えて、環境変化が生じていることは注目すべき点である。

 こうした実態を踏まえて、今回から3カ月間、「コロナ禍での雇用環境」をテーマに、新型コロナの流行を機に労働市場に生じた変化や課題をさまざまな角度から分析・考察していく。また、わが国で講じられた雇用対策の効果や、今後の雇用環境の見通しについても論じていく。ワクチン接種がさらに進展し、来たるアフター/ウィズコロナの世界において、働き方がどのように変わっていく可能性があるのか、その変化をどう捉え、どのように対応していくべきか。次回以降の各論がそれらのヒントにつながればと考える。

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