国内民需と外需が牽引し、中国は今年9%成長へ
日本総合研究所 主任研究員 / 関 辰一
週刊金融財政事情 2021年7月13日号
中国では景気回復が続いている。まず、小売売上高がコロナ前を超え、なお右肩上がりとなるなど、個人消費は堅調に回復している(図表)。一部の地域を除いて新型コロナウイルスの感染者数が低水準に落ち着き、移動制限の撤廃などで人出がコロナ前とほぼ変わらない水準に回復しているため、財消費のみならずサービス消費の回復も著しい。
固定資産投資も、民間企業の設備投資を中心に大幅増加が続いている。設備稼働率がコロナ前を上回る水準まで上昇しているため、民間企業の追加の設備投資意欲は強く、資本財の輸入額や日本への工作機械の発注額は大幅に増え続けている。輸出も、世界経済の回復動向によって一定程度の振れを伴いながらも拡大基調にある。
今後を展望すると、個人消費は以下の3点を背景に一段と拡大すると見込まれる。第一に、雇用・所得環境の改善である。失業率は、生産活動の回復や政策支援を受けてコロナ前の水準へ低下した。雇用見通しDIが良し悪しの目安となる「50」を上回るなど、先行きの雇用環境も良好である。可処分所得の増勢も、コロナ前のペースを取り戻している。
第二は、リベンジ消費の本格化である。中国人民銀行の家計向けアンケート調査によると、2021年1~3月期時点で「貯蓄」を増やしたとの回答比率は、依然としてコロナ前を上回っている。今後、積み上がった貯蓄が消費に回る可能性は高い。
第三は、政府による消費刺激策である。中国政府は、25年までに電気自動車とプラグインハイブリッド車を合わせた新エネルギー車の販売台数を新車販売台数のうち20%へ引き上げることを目指している。20年の新エネルギー車の販売台数は全体の5%にとどまったことを踏まえると、今後、一段の普及支援策が打ち出されると予想される。家電や家具の購入補助金も拡充される方針である。
輸出も拡大を続けると見込まれる。世界の財需要は、ワクチン普及や経済対策を受けて回復する公算が大きい。民間企業の設備投資も、設備稼働率や企業収益の改善を受けて回復を続ける見通しである。
一方、国有企業の固定資産投資やインフラ投資の増勢は鈍化するとみられる。政府は、景気の底堅さを踏まえ、コロナ前と同程度の投資抑制スタンスに回帰している。この結果、マネーサプライの増勢は鈍化し、国有企業や地方政府の資金調達額の増加ペースもスローダウンしている。
総じて見れば、中国経済は堅調な国内民需と外需に牽引され、拡大傾向をたどる公算が大きい。21年の実質成長率は前年比9.0%増と、前年の反動で高めとなる見通しである。22年は、消費と投資のバランスを考慮した政策誘導により、実質成長率は潜在成長率並みの同5.1%増に落ち着くと見込まれる。
(提供:きんざいOnlineより)